アルバム感想(温)

My Favorite Music

「2020年10月ベストアルバムTOP10」感想

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今月はActress、Autechre、Call Super、OPN、Rian Treanor、Theo Parrishなどなど、エレクトロニカがめちゃめちゃ美味しいひと月だったなと思う 笑。

 

今月のベスト・オブ・ベストなアルバムTOP10の感想をランキングで

1位めっちゃ迷った(TT)

(上位3つがぶっちぎりトリプル1位)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10. Rian Treanor - "File Under UK Metaplasm"

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至極の16ビート

 Flying LotusのCosmogrammaのような瞑想的でスピリチュアルなパワーを発揮していくフットワーク/ジューク・テクノ。目まぐるしく展開しまくる高速のエネルギーを常に所持していて、精神が高ぶるような圧倒的な衝動と興奮に満ちてる。至極の16ビート、閃光を放つような瞬発的なサウンド、まるで痛みすら伴うような美しいインパクトを連続的に繰り出してて本当にめちゃめちゃかっこいい...笑。その音楽体験は、瞑想的なメンタルトレーニングにも少し似てるところがあって、一般的なエレクトロニカ作品よりも私得なテーマ性がある。1曲目のHypnic Jerksからその圧倒的な興奮に取り憑かれてしまうのだけど、コードもメロディーも持たないような人間味の欠如した音楽性がより一層ドキドキ感を高めてる。そこからさらにスピリチュアルなパワーを取り出していくような3曲目のMirror Instantも本当に素晴らしい。16ビートの表拍と裏拍を認識できなくさせるようなカオスチックなリズムの構築、スリル満点なテクノで本当に最高...。ちなみにラスト9曲目のOrders from the Pausingみたいなかわいいリズムの曲もめちゃよかった 笑。

瞑想的でスピリチュアルなニュアンスがあるフットワーク/ジューク・テクノ、それだけでなく、悪に染まるようなアンダーグラウンドのClosed Curve (M5)や、世界を破滅させるように暴れ狂うハードコアのMetaplasm (M8)などのトラックも本当によかった。もともと、スピード力や瞬発力のエネルギーをフルで利用したカオスチックなリズムワークが今作の素晴らしいところだと思うけど、そのリズムワークのカオスなところがハードコアの音楽性にもよく適応されてる。強烈で絶大なインパクトを残すような印象、本当に激アツにかっこよかったよ...笑。

数々のエレクトロニカ作品がリリースされた今月でしたが、その中でも今作はトップレベルに好きだった。もちろん、AutechreやOPNも最高だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9. Actress - "Karma & Desire"

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ピアノの亡霊

 ゴースト出現型のエレクトロニカ、なおかつゴースト出現型のピアノ・アンビエント。ダウナーでとても気持ちいいグルーヴを体現した至高のダンストラックとしてのよさに留まらず、クラシックピアノを強調したアルカイックな趣が漂う世界観としてのよさも半端ない。心霊的な怖さを演出する妖しくてクールな魅力が本当に素晴らしい作品だと思う。ダイナミクスを小さくして妖しさの魅力を抜群に引き立てたようなAngels Pharmacy (M2)、そこから一気にスローテンポに失速させて生気を吸い取るようなダークネスを発動させていくRemembrance (M3)、ピアノのメロディーがとてつもなく不気味なのが本当に美しいSave (M6)、まるで気が狂ったように激しくハイスピードに怖さと興奮を掻き立てていくLoose (M14)...、ダンストラックもアンビエントもどちらも本当に高品質。私が大好きすぎるネオソウル作家のSamphaや、ヴァルキリーでお馴染みテッサ・トンプソンの異母妹にあたるZselaなど、今作のコンセプトによくマッチするユニークなアーティスト達をフィーチャリングしてるところもいい。中でもMany Seas, Many Rivers (feat. Sampha) (M10)とかに関しては、Samphaのソウルフルなボーカルスキルを負の感情に適応させたような新しさがある。今まで自分が持ってた従来のSamphaのイメージ像が崩れてしまうほどホラーな存在感が出ててめちゃおもしろかった 笑。フィーチャリング要素でいうと、イタリアのピアニストであるVanessa Benelli Mosellのピアノソロトラックも本当に美しい。非エレクトロニカな曲もアルバムの中で上手に適合させるハイセンス。意外性もあるし、本当に大好きな作品。

今作が月間ベストアルバムにランクインした最も大きな要因が、やっぱり5曲目のLeaves Against the Sky...。この曲はもう本当にすごく完璧 笑。今作は心霊的な怖さ・妖しさの負の感情がよく表れたアルバムだけど、この曲が漂わせるその負の感情には、失望感にも似た重々しくてネガティブな悲しみの感情がある。聴くと憂鬱になって身体が動かなくなってしまうほどの悲しみなのだけど、その感情を美しくダンストラックとしてクールに描き出すような芸術性が本当に素晴らしすぎてる。めちゃめちゃ綺麗だしかっこいいし、病みつきになるほど大好き。というか、アンビエントの特色もある世界観の中で、ダンストラックのクールなかっこよさがより強調されるようなアルバムとして設計されてるところが特に大好きだった。

他にも、Leaves Against the Skyと同じタイプのLoveless (M11)や、SCUBAのような安定的なダンスフロアを創出したTurin (M15)もとてもよかった。フィーチャリングのAura T-09もナイスワークだし、Turinに関しては長尺トラックなのがよく似合ってる。実は今までほぼ全てActressの作品にパッとしなかった私だけど、今作に関しては猛烈にハマリました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8. Bartees Strange - "Live Forever"

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2020年のベストエモ

 Nilüfer Yanyaのようにブラックミュージックとロックの境界線を破っていくような新時代のエモ・ロック。エレキギターをブーストさせていくようなロックとしての品質、幻想さえ生み出してしまうような濃厚でマジカルな音色、そこから生み出されるハートウォーミングなシンパシー、胸が締め付けられるように切ないエモーション...。今年リリースされたエモ・ロックの作品の中でも、R&B・ヒップホップ(Kelly Rowland (M4), Mossblerd (M8))も織り交ぜる唯一無二なスタイル、オルタネイティブロックとしてのバリエーションのおもしろさ、一つのアルバムとしての総合的な芸術としてめちゃめちゃ傑作だと思う。リードトラックのMustang (M2)を始め、Boomer (M3)、In a Cab (M5)、Stone Meadows (M6)、Flagey God (M7)など、かっこよくてグッときまくる名曲が揃ってる。ドリーミーな美しさを兼ね備えたエモってだけもう最高なのに、ロックならではの激しいグルーヴ感とか、ギターをスプラッシュさせて音を広げていくような気持ちよさとかもあるのがいい。In Cab (M5)に関しては、Barteesのハイトーンなボーカルとトランペットのハーモニーなども最高だったり。また、Flagey God (M7)なんかはハウスミュージックの音楽性を取り入れたクールでメランコリックなよさもあったり...。オルタネイティブロック、エモ・ロックとして豊かで美しいメロディーに富んでいて、紛れもなく素晴らしかった。

Bloc PartyTV On The Radio、最近でいうとYves Tumorなど、黒人歌手によるソウルフルなボーカルのロックってやっぱりたまらなくツボなのだけど、そんなBartees Strangeの今作の中でもMustang (M2)が1番大好き。ギターを大音量でかき鳴らしていくようなエモ・ロックのイズムがよく表れてるし、疾走していくような加速力でありったけのエモがどんどん強化されていく感じが本当にやばい。名曲揃いの今作においても、Bartees Strangeイチオシのナンバーだと思う。

レーベルのMemory Musicって初めて知ったのだけど、ここまでの名作を出されてしまうと今後リリースされる作品にも期待が高まりまくってしまう...笑。アーティスト含めて今後の活躍を応援したい(フィジカルを買おう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7. Helena Deland - "Someone Now"

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「ダークネス × ポップネス」な革新性

 PortisheadGrouperみたいにめちゃめちゃ陰湿なダークネスが装備されてるのに、ソフトで明るいタッチも多く含まれてる大人のインディーポップな感じ。ダークなキャラとしてのかっこよさ、ポップス音楽としてのハピネス栄養素、それらのアンバランスな緊張感...。多様なよさを一体した未知すぎる音楽性でものすごく革新的で画期的。本当に超天才でやばいと思う。Cigaretts After Sexのような濃厚でセクシーなドリームポップにも近い世界観があるけど、そのイメージに反するようなドラムマシーンのグルーヴィーなアクテビティがあったり。さらにはAngel Olsenのように繊細でめちゃ丁寧なボーカルや、それらのフォーキーな印象もある。一見共存しなさそうなそれらのセンスによって、ダークで大人びたポップのキャラクターを一発で作ってるところが本当に驚異的だと思う。特にその特色を100%体現するようなHelenaのメロディーがすごすぎて本当にじわじわくる。1曲目のSomeone Newとかまさにそう。闇に溶けていくような催眠的な感情と、それを体感するエクスタシーとして明るい感情が同時に得られるようなフィーリング。ダーク感もポップ感もちょうど均一になってるバランスで、本当に素晴らしいなと思う。今作のタイトルトラックでありリードトラック、この1曲だけでHelenaの天才っぷりが分かった 笑。

Someone New (M1)ももちろんそうだけど、今作は本当に名曲揃いだなと思う。ダークな世界を優しく照らすような愛おしさが含まれたTruth Nugget (M2)、クールでポップなメロディーをソウルフルに歌い上げるComfort, Edge (M6)、曲名の世界観だけでもう100点満点なSmoking at the Gas Station (M9)、あどけなさがある世界の中でドリーミーな愛情を織りなしていくMid Practice (M11)、深い眠りに落ちていくように心奪われる美しさと快感が込められたFill the Rooms (M13)...。ダークでドリーミーな世界観も、愛おしさや可愛さすら感じられるピュアなフィーリングスも、本当に全て素晴らしい。他にも、スネアドラムのザラザラした音色で雨が降るような情景を演出したり、ピカピカ光る電子音のアクセントを僅かに装飾したり、細部にわたって音楽が作られてるところも本当に大好き。めちゃめちゃ作りこまれてると思う。

ちなみに1番大好きな曲は5曲目のPaleです...笑。中盤に出てくるフレーズがダークすネスが本当にやばい。4曲目まで残っていたポップな感覚とのギャップが出まくってると思う。しかもこれ完全にDARKSIDEじゃん! 笑。(例えばGolden Arrowの5分27秒あたり)。まさかインディーロックの女性SSWの音源で、DARKSIDEみたいなリフが聴けるとは思わなかった 笑。本当に鼻血レベルでかっこいい。

今作のダークでポップな作風の感じ、今年だとSorryとかとも近い音楽性を感じた。Sorryの作品も2020年を代表するインディーロック作品だった思う。こういうダークな音楽、個人的には90年代インディーロックシーンのエスケイピズムの精神と重なる部分があって本当にハマる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6. Knox Fortune - "Stock Child Wonder"

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エモすぎて死にそうなるダンスポップ

 Handsomeboy Techniqueみたいなヒップホップ調のダンスポップな作品。The Go! TeamとかKero Kero Bonitoとか、ヒップホップ調のイズムだからこそ出せる陽気で純粋なハピネスのダンスポップ作品がもう超超超大好きなのだけど、Knox Fortuneの今作はそれらの大好きエッセンスが目一杯に詰め込まれてて思わず膝から崩れ落ちそうになる...笑。1曲目のJust Enoughから最後のAlwaysまで、ヒップホップ、ポップ、ディスコ、レゲエ、自分の大好物ソングしかない。Chance The Rapperもほとんど聴かないし、Knox Fortuneのことをこのアルバムで初めて知ったのだけど、あまりのよさにええーー?!ってなった 笑。今年ベストヒップホップはSoleimaで確定かなと思ってたけど、今作であっさり更新されてしまった..。(ヒップホップといえどラップないけど。)

例えば6曲目のChange Up。ヒップホップ調のダンスポップならではの元気なモチベーションで、寂しくて切ない気分も心弾むようなルンルンのフィーリングに変えてくれる。それはまるで、寄り添ってくれるような励まし・思いやりのフィーリングで心を満たしてくれる感覚。もうめちゃめちゃ素敵でたまらなく好き。9曲目のShirtlessもそう。こちらに関しては、さっぱりしたアコギの雰囲気がKnox Fortuneの陽気なハピネスと絶妙によく合う。心地よくに昇っていくようなメロディーラインも本当に完璧、気持ちがどんどんノっていく。

そして今作における最高of最高なベストトラックが、なんといっても4曲目のCompromise。陽気で純粋なハピネスを最高に甘酸っぱくテイスティングしたようなナンバー。本当にエモすぎて何度聴いても死にそうになる。グロッケン系のキラキラしたサウンドとか、ピュアネスを掻き立てまくる楽曲の設定が本当に大好きすぎてしんどい。これまで聴いてきた数々の大好きソングを抑え、ヒップホップ系の音楽の中で世界一大好きな曲となってしまった。グルーヴも本当に好き。というか全曲そうだけど、Knox Fortuneのジャジーでグルーヴィーなドラムワークって本当にむちゃくちゃよい。

他にも、派手になりすぎず適切なダイナミクスに調整したR&B・ポップのSincerity (M3)とか、究極的なまでにかわいいリコーダーのキャラを抜擢してしまうやばいセンスのAlways (M11)とかも本当によかった。今作は本当は月間ベストアルバムのTOP3レベルの作品だったのだけど、上には上がいたよね、、、笑。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5. Mourn - "Self Worth"

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ガレージロックの理想を叶えた

 不要な装飾を一切施さないオーソドックスな純正ギターロック・ガレージロック。鋭い切れ味、アグレッシブな攻撃力、そしてお手本のようなロックンロールの姿勢...。ギターのリフもしっかり大事にする王道派のロックバンドで、前作Sorpresa Familia (2018)も相当な傑作だったと思うのだけど、今作は本当に信じられないくらいネクストレベルへ発展した驚異的に最高な作品で本当にびっくりした...笑。ガレージロックが所有するかっこよさ・楽しさを全て最大に発揮できてるし、音圧も丁寧に強化されてたり、前作6曲目Orangeに相当するようなメランコリックな感情描写も洗練されてる。さらにはStay There (M7)のように、Mournのロック精神をより高みにあげるようなハードロック・メタルの鬼激しい音楽性もあったり 笑、エモーショナルなメロディック要素(The Family's Broke (M12))も前作以上に磨きがかかってると思う。もちろん、従来の切れ味が高いロックンロールのよさも全く失ってない。それどころか、Worthy Mushroom (M10)のギターとか、音作り以外にレコーディングも込みでそれらのサウンドがより高級になってる感じがする。迫力たっぷりの鬼かっこいい作風になったけど、インディーズのロックバンドの雰囲気も残っていて、より幅広い層に刺さる作風になった感じ。かつては「クラスの男子のバカ話に飽きた」と言って始まった高校生のガールズバンドだったのに、まさかこんなにプロ顔負けのロックンロールバンドに成長するなんて...。Ha, Ha, He (2016)収録のGertrudis, Get Through This!Irrational Friendのときから既に本物感は出てたと思うけど、今作の完成っぷりには本当に感動した。

サウンド的にも精神的にもびっくりするほど進化したのに、それらを超越してしまうほどのネクストレベル要素もあるのが本当にやばい。それがGather, Really (M5)とIt's a Frog's World (M9)の2曲。80年代に流行ったコーラスのエフェクトによる新しいエモーションの装備。まるでガレージロックからシューゲイザーに差し掛かるような音楽性の発展があって、今までにはなかった豊かでカラフルなヴィジョンを見せてくれる。ガレージロックの最高のかっこよさ、心躍るワクワク感と興奮、色鮮やかな美しさ、そしてそれらを激しく奏でるMournの強い精神力...。感動がいくつも重なるやばさ、最高すぎるから思わず大音量で聴きまくりたくなる。この2曲は本当に本当に素晴らしかった。

私はMournのベース担当のレイア様の大ファンなのだけど、今作はベース(リズム隊)の最高の見せ所なApathy (M11)とかもあって大変私得だった 笑。この曲、火力が高くて本当に超最高...。実は2019年の初来日のとき、レイア様は演劇の都合で来れなかったためにまだその姿を1度も拝められていないのだけど、Apathyのレイア様のベース!!ぜひぜひ生で観たいです!!!!(来日祈願爆死)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4. Pet Shimmers - "Trash Earthers"

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2020年の最高傑作連発シリーズ

 夢と魔法がたくさん詰まったおもちゃ箱のようなサイケポップ・ドリームポップ、前作Face Down in Meta (2020)が最高に切なくて超エモーショナルな大大大傑作だったのに、今作もそれと並ぶくらい愛おしくて素敵なメロディーが詰まりまくってる。本当に傑作すぎてありえない...笑。Nicolas JaarやSaultと同様、2020年の最高傑作連発シリーズ。特にFace Down in Metaは2020年ベストアルバムのTOP10レベルだったし、Pet Shimmersがめちゃめちゃ大好きだったので本当にありがとうございます(土下座)って感じだった 笑。

音楽を聴いててメロディーが最高すぎて思わず泣いちゃう~みたいな瞬間ってあると思うのだけど、Pet Shimmersの作品は本当にそればっかり。今作だと、心がときめく可愛いフィーリングスのUhtceare (M1)、センチメンタルな思いをノイジーなギターソロにのせて奏でるLive-In Atrocity (M5)、シューゲイザー的なかっこよさすら備えてあるBig Ideal (M9)などなど、本当に最高のメロディーだらけ。そこには、自分の中のピュアネスが引き出されるような、童心がくすぐられるファンタジーな世界観もある。根本としてもう私にとってツボすぎる作風だし、楽しくて切なくて、胸がいっぱいになって満たされまくる。本当に素敵で果てしなく愛してる。

そんな今作における私の超絶お気に入りトラックが、3曲目のAll Time Glow、7曲目のMadonna's People、10曲目のThe Mouth Ofの3つ。どの曲も迫力を作ってそのファンタジーワールドがダイナミックに繰り広げられてる。サイケデリックでドリーミーな癒しも、最高にセンチメンタルなエモーションも全て濃密になってて、顔面がぐちゃぐちゃになるように泣きそうになってしまう。中でもAll Time Glow (M3)に関しては胸が締め付けられまくる泣きメロが本当にやばすぎる。このAll Time Glowに関しては、Face Down in Metaの曲らと同等かそれ以上に好きかもしれない。Madonna's People (M7)のテンションが最高潮に達する感動的なパッセージとかも本当に最高。

今作は、前作と比べるとロックよりインディーポップな気色が強い作品かなと思った。前作Face Down in Metaは3曲目Mortal Sport Argonaut、9曲目Nobody: Me:、10曲目Post-Dick Circle Fuckなどのようなアップテンポで激しいビートの曲が特徴的だったから。Nicolas JaarやSaultもそうだけど、年間ベストでダブルランキングが避けられない作品かなと思う 笑。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3. Loma - "Don't Shy Away"

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"遠慮しないで"

 私の中で伝説級に大好きなあのCross Record(Emily Cross, Dan Duszynski)と、Okkervil RiverやShearwaterでお馴染みのJonathan Meiburgによるコラボ。Cross RecordのホーリーなエモーションとShearwaterの広大でパワフルな音楽性をクロスオーバーさせて、それらの相互的な反応で様々な魔法を生成していくようなスーパーすぎるバンド、もう本当に死にそうになるくらい私のツボに刺さりまくる...泣。今作も前作ST (2018)と同様、サウンド・メロディー・世界観、アルバムの中に存在する魔法の数が本当にすごい。例えば1曲目のI Fix My Gaze。霧がかったシンセの電子音とクラリネットのまろやかな音色をミックスし、Lomaにしか描けないような未知の世界へリスナーを導いていく。そこには、エレクトロニカの世界とクラシックの世界の狭間に落ちていくような深い謎に包まれた怖い感覚がある。もうこの1曲目の時点ですごくLoma!笑。そこから展開されるOcotillo (M2)は、クリアで綺麗なギターフレーズを聴かせつつ、それらの聖なる魔法性を高めていくようなJonathan Meiburgのパワーをよく発動するナンバー。リードトラックのHalf Silences (M3)では、Lomaで特徴的な宗教的なダークネスをオルタネイティブロックとして強化させてたり。(この曲はMVも大好きすぎる)。他にも、東洋系の民族楽器としてのシンプルな魔法(Elliptical Days (M4))、心をかき乱すスリルを演出するピアノメロディーとしての魔法(Breaking Waves Like a Stone (M7))なども。サウンドそのものがとても洗練されてて美しいし、何よりEmily Crossの解放的な聖なる歌が本当に半端ない。魔法的な感情に溢れたメロディーを奏でるLomaの音楽ならでは喜びが本当に溢れてる。新譜リリースのアナウンスから超超超楽しみにしてたけど、今作もバッチリ最高だった。

今作で忘れられないほど強烈なインパクトを残してるのが、タイトルトラックのDon't Shy Away (M10)。こちらは今作の中で最もEmily Crossとしての思想が反映されてる曲だと思う。ホーリーなエモーション、宗教的なダークネス、それらに圧倒的なグラビティを付加して実現する究極的なリラクゼーション。音楽の魔法のリアリティを高めるために、繊細な音の一つ一つに魂を込めたような音楽。"遠慮しないで" という印象的なフレーズには、死に逝く人に寄り添うデス・ドゥーラのボランティア活動をしてるEmilyの祈りの意思が浮き彫りになっている。Lomaの渾身が注がれた今作屈指の大名曲、私がCross RecordやLomaのことが果てしなく大好きな理由がここにある、もう喉から手が出るほどその思いを欲していた。本当に大好きすぎてやばい。

前作ST (2018)との異なる点でいうと、今作はGiven a Sign (M5)のようなオルタネイティブロック系の楽曲が強いかなと思う。この曲だけでも本当に色んな魔法が込められてると思うし、アップテンポで勢いのあるロックとしてのかっこよさもあってめちゃめちゃいい。こういう曲はCross RecordにはないLoma独自のナンバーだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2. Adrianne Lenker - "songs / instrumentals"

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鈍感でいることが不可能になる

 今まで出会ってきた音楽の中でも、素朴なフォークのテイストの音楽でここまでリスナーの感受性を拡張していくような多感なアーティストは他にいなかったと思う。「嬉しい」とか「悲しい」とかの単純な感情の次元では全く表せないような多次元的な感情。そしてその複雑で美しい感情を巧みに表現するテクニック。心躍る楽しそうな雰囲気もビターなテイストで描いたり(two reverse (M1))、安らぎの中にも僅かに痛みを生じさせたり(ingydar (M2))、それらのとても繊細な感情を微妙に時間変化させて流動させていったり(not a lot, just forever (M9))。普段の日常では感じることがない未体験な領域のフィーリングの瞬間が本当にたくさん存在していて、自分が血の通った生身の人間であることを認識させるような生々しい感覚の特別なリアリティがある。鈍感でいることが不可能になるくらい、本当にとつてもなくセンセーショナル。前作Abysskiss (2018)も本当に素晴らしかったけど、今作もとてもとても美しかった。

今作はリードトラックのanything (M3)が本当にやばすぎると思う。Adrianneの多次元的でこの上ないほどセンセーショナルな歌の魔法で、愛おしくてかけがえのない大切なフィーリングを呼び覚まし、そこに色鮮やかな輝きを宿していく。"I don't wanna talk about anything"、"I wanna kiss, kiss your eyes again"...、ただでさえAdrianneのセンセーショナルな歌のメロディーが神がかったよさなのに、リリックが死ぬほど刺さって涙がボロボロ零れる。この歌を聴くと、自分の感情や命がいかに豊かで素晴らしいものなのかを思い知らされる。なんて嬉しい作品なのだろう。

そして本作の場合、zombie girl (M8)のように、環境音楽を引用したアルバムのコンセプトも本当にたまらない。Adrianenが感じた自然の情景、芳醇な香り、それらのありったけの美しさをリスナーと共有してくれる。私的には、そういう世界の中でAdrianneが弾き語りをするという世界観の設定がもう本当に大好きすぎてやばい。ギター一本で無限の感情を創造してしまう彼女の存在感をもっと特別にしてる感じ。そういう点でinstrumentalsも本当に素晴らしかった。

Masterpiece (Big Thief) (2016)、Capacity (Big Thief) (2017)、Abyskiss (Adrianne Lenker) (2018)、U.F.O.F. (2019)、Two Hands (2019)、そしてsongs / instrumentals (2020)...傑作の連発マジですごい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1. Jónsi - "Shiver"

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"こんな今の時代でも生きててよかった"

 刺激的で鋭いサウンド、胸が張り詰めるような恐ろしい緊迫感、凄まじいダークネス...。そんなカオスな世界の中でも、生きてることが嬉しくてたまらなくなるような祝福を与えてくれる。世界がどれだけ残酷になっても、人間は人間の心を永遠に失わないんだって教えてくれる。初めて聴いたときには思わず号泣してしまった。私の中で世界最大の喜びと愛と希望と夢と天国を恵んでくれるSigur Rósの感動が、2020年以降の未来になってもずっと続くのだということを感じて、目ん玉の神経がぶち切れてしまいそうになるくらい泣いた。今の時代も捨てたものではないって、心の底から思えた。こんな今の時代でも生きててよかったって本当に思った。

今作は、今までのJónsiやSigur Rósが持っていたオーケストレーションシューゲイザーのネイティブなテクスチャが無くなり、コンピューターグラフィックスやVFXのようなテクノロジーによる表現様式に依存した作品。ソフトでフローラルな空気が充満していた前作Go Do (2010)からは考えられないくらいサウンドがメタリックで、自然的なものやアナログ的なものが全て滅亡したような未来の世界が繰り広げられてると思う。それでも、人間の心に触れるJónsiの命のメロディーが溢れてる。音響エレクトロニカのアプローチでJónsiのエモーションにもっと臨場感をプラスしたExhale (M1)、心奪われるイルミネーションの絶景を見せてくれるようなCannibal (M3)、デジタル処理の効果で祈りの思いをより大胆に強調するエレクトロニック教会音楽のSumarið sem aldrei kom (M5)...、どの曲も先進的でサイバネティックな感覚すら含まれてるけど、血が通った生々しい人間としての感覚、熱を伝える心臓の鼓動、心を満たす圧倒的な多幸感、絶対的な優しさ、従来のJónsiやSigur Rósに特徴的だった歌のエモーションは健在。というか、今作の未来的で非人間的な音楽性によって、それのJónsiの生々しいエモーションの存在感がもっと強烈になった感じがする。4曲目のWildeyeとか、動物的な質感が死んだ硬くて冷たいサウンドのエネルギーが恐ろしくて異常じみてるけど、そこにJónsiの生々しい歌声を加えて、感情や愛をもっと濃い存在にさせるようなコントラスト・魅せ方があったり。

極めつけは9曲目のSwill、、、今月私のぶっっっちぎりベストアルバムな今作におけるベストオブベストなトラック。先進的で未来的なエレクトロニカの世界でJónsiの愛を力強く確立するような曲。ロボティクス、仮想空間、人工知能...、自然的なものやアナログ的なものが全て滅亡してしまう時代で、身体がどれだけ機械的になり、人類がいくらサイボーグ化したとしても、人間は人間の感情をずっと維持し続ける。技術がどんどん進化して新しい時代になっていっても、新しい人間らしさが生まれるだけ。そこには絶望ではなく、胸がいっぱいになるようなワクワクする希望がある。そういうことを力強く象徴したJónsiのこの曲にはもう本当に打ちのめされてしまった。本当にボロボロになるまで泣いた。2020年忘れられない名作中の名作、本当に本当に素晴らしい。

Jónsiがまさかここまで前衛的なエレクトロニカをやるなんて思ってなかった。Salt Licorice (with Robyn) (M7)とかちょっと異色ポップナンバーすぎて未だに飲み込めてない...笑。それでも、各アルバムに絶対的な名曲を必ず用意するSigur Rós・Jónsiの伝統はそのまま。2020年になっても心から愛してるJónsiの音楽と出会えて本当に感無量だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

プレイリスト Spotify

2020年10月ベストアルバム(温) on Spotify

プレイリスト Apple Music↓

温の「2020年10月ベストアルバム(温)」をApple Musicで

 

★その他・よかったもの

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Auteche - "SIGN / PLUS"

Future Islands - "As Long As You Are"

Goldmund - "The Time It Takes"

Jeff Tweedy - "Love Is The King"

Katie Melua - "Album No. 8"

Kevin Morby - "Sundowners"

Mary Lattimore - "Silver Ladders"

METS - "Atlas Vending"

Oneohtrix Point Never - "Magic Oneohtrix Point Never"

Slow Pulp - "Moveys"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

来月11月はEmily A. Spragueがめちゃ強そう(あとダープロの5EPs)