アルバム感想(温)

My Favorite Music

「2020年7月ベストアルバムTOP10」感想

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私的に、今月はR&Bとかジャズが強かった気がする 笑。大好きなアーティストのサプライズリリースも多くて、とてもウキウキしました。

ベスト10枚に収まらなかったので 泣、また今月もベストソングTOP10枠も別途で用意した。果たしてTaylor Swiftは何位でしょうか。

2020年7月リリースの新譜、感想をランキングで

(上位4つは全部1位)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10. E^ST - "I'M DOING IT"

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「やりたいことはやりたいだけやる」という強い意思

 新感覚のポップスと出会ったときのワクワク感って本当に最高だと思うのだけど、E^STもその"新感覚"をめちゃめちゃ感じさせるような最高に楽しいインディーポップ作品だった 笑。それは、ただでさえポップというジャンルそのものにワクワク性が十分含まれてるのに、"未体験"という領域の巨大なワクワク感がさらにプラスされてるということ。E^STの今作の場合、トライバルっぽい迫力のキックが特徴的なFLIGHT PASS (M2)とか、情熱的でワイルドな作風のポップなのかと思いきや、そこからMAYBE IT'S ME (M3)でまさかの現代的なゲームミュージック風のワールドに一気に転換したり、型破りで未体験な領域に連れてってくれるおもしろさがよく感じられる。流行りのサウンドを取り入れたメインストリーム系のポップ(FOUND SOMEBOY (M4))などもあれば、弾き語りのみで構成されるしんみり系のバラード(I'M NOT FUNNY ANYMORE (M6))まで、様々なカルチャー・世界観が取り込まれたとても自由な形態。特に3曲目のゲームミュージック風のMAYBE IT’S MEに関しては、その自由なスタイルであることの嬉しさ・喜びみたいなものが楽曲中でよく炸裂してる感じが本当に最高 笑。ハウストラック系のダンサブルなノリの高品質さだけでなく、ベースのアップダウンの抑揚とかもめちゃめちゃ楽しい。その他、自由すぎて笑っちゃうポイントだと、5曲目のFRESH OUT OF LOVEなんかもそう。チルアウト系のR&Bに属する曲だと思うのだけど、楽曲後半のファルセットがクラシックのオペラみたいなってるのが予想外すぎてめっちゃ笑う 笑。序盤4曲目までバリバリの超ポップだったのに、いきなりエレガントでめちゃ大人びた雰囲気になるからね...笑。そんな風に、ジャンルレスなアイディアがたくさん詰まってて自由で楽しくて新感覚、めちゃ魅力的なインディーポップだと思う。

私がE^STに対して強く好感を持てたのは、ジャンルレスで自由なスタイルの「やりたいことはやりたいだけやる」というところの主張がとても強く感じられたというところ。それはいわば、音楽制作の束縛に対する強力なアンチテーゼで、インディーポップの精神でありながら、根っこのところからはすごくロックっぽいスタンスさえも伝わってくる 笑。具体的には、リードトラックのMAYBE IT’S ME (M3)、TALK DEEP (M8)、GET THROUGH (M11)、I WANNA BE HERE (M12)の4曲。どれもポップとして確立されていると思うけど、EDMに近いくらい強いダンス要素のクラブミュージック性がある。GET THROGHに関してはもうエレクトロロックだし、メインのトラックの力強い仕上がりの部分に、それらのポジティブな意思がよく表れてるのが本当に大好き。ラスト12曲目のI WANNA BE HEREの感動的なパッセージとか本当にめちゃめちゃそんな感じで、一般的なポップよりずっと心に響く仕様になってると思う。リリックがとてもストレートなのがいい。

フジロックが延期の今年ですが、、、スパソニももちろん覚悟してる、、、(そもそもこの状況下じゃ心から楽しめない...)夏フェスが恋しい分、写真とか見返えしまくったり、フェスの感覚を蘇生させて楽しんでいる(つらい)のだけど、E^STのI WANNA BE HEREとかはものすごく夏フェスソング感があって、聴くと思わず死にそうになってしまう、、、笑。フジロックに行けなーい。(吉高由里子)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9. Cloud Nothings - "The Black Hole Understands"

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今までのクラナシにはなかった心に沁みる切なさ

 Cloud Nothingsといえば、激しいロックを利用してメロディックなエモーショナルさを生々しくありのままに表現するスキルが本当に素晴らしいバンド。泥臭さすら素直にさらけだすような純粋さが愛おしいし、たくさんの人間味をストレートに表現するようなメロディー感とかが本当に大好き。そんなロック・ポップスの特色を活かして数々の名曲(名アルバム)を生み出してる一流なロックバンドだと思うのだけど、そんなCloud Nothingsの作品の中でも、今作はOso OsoやPinegroveすら彷彿させるような通気性の高いフレッシュなロックのやつ!リードトラックであるStory That I LIve (M1)やThe Mess Is Permanent (M7)、ラストのThe Black Hole Understands (M10)などなど、荒っぽくてパワフルなJayson Gerycz氏のドラムの最高の持ち味は健在だけど、エレキギターの尖ったサウンドはよりクリーンに落ち着いてる感じ。フロントマンDylan Baldiのメロディックな歌も気持ちよさ重視なスタイルに感じられたり。そんな風に、今作は今までにはなかった異色の作風だけど、Cloud Nothings特有の人間味がよく溢れたメロディー感が、通気性の高いフレッシュなロックのやつに適応されているという新しさが私的に大好物だった 笑。特に私はもともとCloud Nothingsのめちゃめちゃ荒々しいドラムワークが本当に大好きなのだけど、今作のドラムは力を込めれば込めるほどより気持ちよくなっていくおかしなエネルギー変換があるところが本当に楽しい 笑。例でいうとThe Mess Is Permanentのシンバル連打とかそう。荒々しくて過激なはずなのに、ずっとフレッシュでめちゃめちゃ気持ちいいからウケる。

そんな異色な作風だけど、今作における特別感は、リードトラックのStory That I LIveや3曲目のAn Average Worldのように、他の作品にはなかった物悲しくてメランコリックなフィーリングの美しさがあるというところ。特徴的なのだと、Dylan Baldiのボーカルの脱力系の歌い方とかがそうで、音色的なフレッシュさとは別の穏やかな心地よさが感じられる。私的にはやっぱり、特にStory That I LIveの曲調が本当にたまらない。今までのCloud Nothingでは味わえなかった心に沁みる切なさが本当に素敵だと思う。なんならばそれのよさと同様、WaxahatcheeのSt. Cloud (2020)のような夕方に差し掛かる時間帯のジャケット空間とかも本当に最高。さらに言うと、7月~8月の季節感との相性のよさもめちゃめちゃある 笑。もう8月に入って夏も後半戦、またまた手持ちの夏ソングが増えて強くなりました。

リードトラックの他にも、ボーカルを取り除いたインストゥルメンタル形式でCloud Nothingsのバンドアンサンブルだけを魅せたTall Grey Structureもめちゃアツくてかっこいい。ベースがこれまでにないほど攻めてる感じなのにちょっと笑ってしまう 笑。あと、An Average Worldのラストスパートとかもめちゃめちゃ大好き。Cloud Nothingsの大大代表曲であるWasted Daysレベルで怖いくらい火力が高まるやつ 笑。もうWasted Daysみたいな曲はどんどん演らなくなってきてしまっているのかもしれないけど、激アツで激アツなクラナシのそれ、多分ファンはいつも求めてると思いますよ。(私🙋‍♀️笑)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8. Thanya Iyer - "KIND"

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感情を豊かにしまくる内向的な影響力

 Thanya Iyerの本作が私にとって最高にツボなのは、ストリングス・フルート・ホルンなど、充実したフォークオーケストラの大規模な自然エネルギーが全て内向的に働いて、Thanya Iyerの感情の豊かさを高めまくっているというところ。そもそもとして私、Sufjan StevensのIllinoise (2005)とか、最近でいうと魔法性の高いMoses Sumneyのgræ (2020)とか、優しさの塊のようなフォークオーケストラアレンジのサウンドに弱すぎてやばいのだけど 笑、Thanya Iyerの本作の場合、それらのオーケストレーションが決して大胆に派手になることがなく、落ち着いたテンションをずっとキープしているような丁寧な調整になっている。そのテイストによって、美しい音の一粒一粒の豊かさが全て内向的に影響してくような印象を感じさせるのだけど、この、『誰にも解らない自分だけの特別な感覚』というとっておきの味わい、本当に心から愛してる 笑。それは、音楽という魔法の本質である、目には見えない己の内側のみで生じる感情反応の喜びとものすごく直結していると思う。例えば、2曲目のI Forget to Drink Water (Balance)。"water"のモチーフそのものであるかのような零れ落ちる感覚をメロディーで見事に描写していて、感受性の深いところまで美しく刺激されるようなすごさがある。曲のラストで締めくくるハープの豪快なメロディーさえも、全部自分の豊かな感情として作用していくから本当に素晴らしい。中でも、今作屈指のリードトラックすぎるPlease Don't Hold Me Hostage for ~ (M4)とかは本当にスーパー傑作ソングだと思う。管楽器のフォーク系アイテムだけでなく、エレキピアノのカラフルなサウンドも多用したようなナンバー。Thanya Iyerならではの丁寧で落ち着いたテイスティングでありながら、気持ちが昇っていくようなファンクロック系の楽しさ・かわいさを少しプラスさせてる感じ。その音楽の内向的な心理体験は、まるでおとぎ話の夢を見るような心が満たされまくる素敵なフィーリングのそれと等価なのだけど、そういった優しさたっぷりのハピネス、自分の内側だけで生じる感情反応のとっておきな魅力、それらのファンタジー的要素、どれもこれも全部本当にツボすぎる...笑。それでありながら、前作Do You Dream (2016)のときからのR&B・ソウルのボーカリストとしての強みもプラスされているという......本当にめちゃめちゃ最強だと思う。

「豊かな感情」というところ、感情表現的な点で言うと、1曲目のI Woke Up (In The Water)も本当にやばすぎてやばい。悲しみがポロポロと落ちていくようなストリングスの歌、アルバム「KIND」という物語の冒頭の部分なのに、いきなり主人公が泣いているシーンから始まるというようなシナリオ構成。「どうして泣いているのか分からない」というミステリアスさが強調される曲調の効果もあって、心がかき乱されるような圧倒的なロマンを感じさせる演出になっているのが本当に本当に素晴らしい。アルバムの一曲目でそのアルバムが傑作だと確信させるくらいのパワーソングってやっぱりあると思うのだけど、私における今作のI Woke Upはまさにそんな感じだった 笑。Thanya Iyerの高音域ボーカルの心地よさもとても絶品、本当に心に残る。

初めて今作のジャケットを見たとき、イメージ的には中村佳穂っぽさを少し思い浮かべた 笑。中村佳穂はそんなに詳しくないけど、ジャズ・ポップの両方を吸収したようなオルタネイティブR&Bって感じは、今作のThanya Iyerの作風ともリンクする部分がある気がする。もしかしたら昨今のR&Bのトレンドにもよく当てはまる作品なのかなって思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7. Secret Drum Band - "Chuva"

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こんなにかっこいいディスコパンク、今までに聴いたことない

 私が今まで聴いてきたどのディスコパンクの作品よりもぶっちぎりのかっこよさ、、、とにかくシビれてシビれてシビれまくる、本当に超絶に激ヤバ級にかっこいい...!!泣。それはなんといっても、主旋律やコード進行など、リズム以外の音楽構成要素を削られるだけ削って、「ドラム・パーカッションのみで歌いまくる」というスタイルで仕上げた実験的な音楽性!もともとPrimal ScreamのKill All Hippiesとか、Oh SeesのSentient Oonaとか、ドラムが"歌"とか"フレーズ"を持ってる感じの曲が最高にかっこよくてたまらなく大好きなのだけど、Secret Drum Bandの今作は、アルバムの100%がそういったドラムの歌で成り立ってるやばさがある 笑。しかもこのSecret Drum Band、Bandcampにドラムスコアをアップするくらいのドラム・パーカッションオタクのバンドで、とにかくドラム・リズムのパターンに対する歌の多様性・こだわりみたいなのが本当にやばい。Antifa Fuchsia (M1)、Alaka'i Swamp (M2)、Robert Plants (M7)などなど、表打ち・16ビートのパターンが最高に美味しくなるように組み立てるハイセンスなリズムワーク。欲しいところにピンポイントで音が届いていくようなその快感は、まるで「太鼓の達人」の達人プレイヤーが激ムズの楽曲を余裕でフルコンボしていくような楽しさにも似てるかもしれない。Ka'ena Point (M4)ではそのドラム・パーカッションのみのバンド形式で人力テクノを実現してるようなすごさがあったり。また、全体を通してドラムが即興的でジャズのような華麗なプレイスタイルなのも魅力的なのだけど、Multispecies (Ants) (M5)みたいにサウンド的にズシンとくるロックぽさもあったりするのもめちゃ最高。極め付きでやばいのは、3曲目のSurface of Abyss at Ducke。この曲はシンバルのミュートによる音響の変化を利用してメロディーを奏でるという荒業を披露しているのだけど、これも本当に最高すぎて笑いが止まらなくなる 笑。あくまでドラム・リズム楽器単体としての扱いでシンバルの音の魅力をめちゃめちゃ引き出すようなすごさ。ほんと、ドラムのプロフェッショナルすぎてめちゃめちゃぶっ飛んでると思う。そんな風に、1枚のアルバムがドラムのコンサート、ドラムのバラエティーショーのようなパフォーマンス性を炸裂させまくってる。興奮がずっと冷めないむちゃくちゃに最高のダンスミュージックだと思う。

さらにSecret Drum Bandの今作が特別にかっこいいのは、従来のダンスフロア・ライブハウスのようなディスコパンクの空間とは全く異なる神秘的な世界観を持っているというところ。それは、民族音楽系の打楽器で表されているようなオーガニックで自然的な空間で、まるで非現実的で謎めいた秘境のような世界のイメージを思い起こさせる。その自然的な世界観の影響で、ハットとかシンバルの音が実際に空気中を振動してる繊細なところまで強調される表現になってるのだけど、この音像が本当に美しくてやばい。これによって、ドラムの音・ドラムの存在そのもののかっこよさが段違いに魅力的になってると思う。そしてさらに、ドラム・パーカッションだけで構成されるというSecret Drum Bandの超絶にかっこいいディスコパンクが、謎めいた神秘的な世界におけるある種の儀式みたいな演奏になってるところもやばい。中でも2曲目のAlaka'i Swampとかはクールなディスコパンクとしての鬼高い集中力があって、まるでドラムの演奏に命を懸けてるみたいな強い熱狂があるのだけど、神秘的な世界観でそれをやるというシチュエーションがもう抜群にかっこよくて...笑。本当にめちゃめちゃ泣きそうになる、史上最高にかっこいいディスコパンクだと思う。

私はいつも、平日の夜に次の日のお弁当を作っているのだけど、そのタイミングで音楽を聴きながらめちゃめちゃ踊りまくってるのが日課になってる 笑。今作は特にダンスミュージックとしての質が高すぎてやばくて、料理に全く集中できないレベルで踊りまくってた 笑。7曲目のRobert Plantsとか、後半の変則リズムのパターンでお腹痛くなるくらい笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6. Nicolas Jaar - "Telas"

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インスピレーション・精神力をありったけ注ぐ

 前作2012-2017同様、ソウルミュージックなどのサンプリングによって特殊なアツさを生み出した秀作ハウスの2017-2019(Against All Logic)、そしてダークな世界に美しく堕ちていくような魅力が半端なさすぎるCenizas(Nicolas Jaar)、それぞれの制作を経て研ぎ澄まされたインスピレーションが抑えられなくなったのか、今作はもっと大胆に実験音楽としての方向で創造性を極めた魔物のようなアルバム。1曲約15分を4曲用意した1時間の作品だけど、まるで交響曲の4楽章構成みたいに並々ならぬ精神力を注ぎ込んだ作品に感じられる。実際にCenizasとかと比較すると、音楽空間の多様性、そこへ複雑にワープしていくカオス、それらが持つ大規模な音楽のイメージ・ストーリー性など、もっともっと味わいが濃密な内容になっていると思う。Kaitlyn Aurelia Smithのような幻覚・瞑想のアンビエントによるスピリチュアル空間、リングモジュレーターの電子音によって表現される星々の無重力空間・コスモス、さらにはノイズインダストリアルのようなハードな精神すら想起させるアンダーグラウンドなど、Nicolas氏の引き出し・アイディアが超たくさん発揮されてるめちゃめちゃ巨大なスケールの仕上がりになってると思う。Nicolas Jaarのサウンドが本当に大好きなので、彼のその技術・表現力をさらにもっと大スケールで堪能できるって本当に私得でやばい 笑。特に今作は1曲目の1発目から「Nicoalas Jaar、開 幕 !」デデン!みたいな強烈な出だしがあったり、初めて聴いたときは大好きの感情がバーストするようにテンション上がりまくった 笑。本当、1音目で持ってかれる、超超超かっこいい。

まず1曲目のTelahoraで本当に素晴らしいところは、後半10分50秒頃からの鐘のサウンド。このサウンドの採用は本当に秀逸だと思う。1曲15分超えレベルの長尺な実験音楽というのもあるけれど、Telahoraは開始早々から異世界への門口をダイナミックに示してるというのもあり、リスナーに対して先の展開の興味を強く感じさせる働きを持ってると思う。そういった効果もある中、楽曲後半に差し掛かるタイミングで不穏な予感を掻き立てまくる鐘のサウンドを用意して、その先の展開に対するワクワク感と緊張感を両方同時に強調しまくってる。その鐘はまるで、迷い込んだ異世界の中で異常の事態を知らせるような合図。音楽が非現実的な未知の世界というのも相まって、何かを知らせようとする鐘のサウンドに対する恐怖がもっと煽られるような演出になってると思う。とても怖くて魅力的なサウンドだし、後半にそれを準備しておく音楽のストーリー構築という点でも本当に素晴らしい。ラストで重力を失ったのごとく闇の世界に堕ちていき、魂がこの世を去るように死の体験をするゾクゾク感も本当にやばい。

2曲目のTelencimaもほんとにほんとに最高。リングモジュレーターを掛けたコスミックな電子音、ふわふわ漂う無重力感、本当にめちゃくちゃ宇宙をイメージさせるパートだと思う。前半ではFloating Pointsのようなクラシックな生ピアノとエレクトロニカなエレキピアノを融合させてて、懐かしさと新しさの感覚が脳内で美しく衝突するようなこの上ないほど鮮やかなカラーを放っている。それは、宇宙の中で遭遇する未知の惑星に対する感情かもしれないし、またはその未知の惑星そのものの表現であるかもしれない。本当に素晴らしすぎてやばい。

そして私が今作で本当に最高でやばいと思うのは、3曲目Telahumoの後半11分10秒頃からの本作最大級な見せ所。Nicolas Jaarというサウンドアーティストとしての本気がこれでもかというくらい炸裂しまくったような超絶に神秘的なパッセージのやつ。3曲目まで実験音楽環境音楽としての形式がメインだったのに、この部分でそれまでにはなかったような明確な"歌"を持ち始める。その存在はこの上ないほど神々しいエネルギーを纏っていて、本当に力強く圧倒的で、想像を遥かに超えるように美しい。それは、長い長い異世界のトリップで辿り着いたような新世界。2曲目Telencimaで表現されていた無重力のふわふわな宇宙ワールドの反動も効いてて、アルバムを通して聴くとメロディーの存在感・破壊力が半端ないほど感じられる。Nicolas Jaarのインスピレーション・才能・精神力がありったけ注がれたような創造物。初めて通して聴いたとき、鳥肌立ちすぎてもう皮膚が剥がれるかと思った 笑。本当に頭がおかしくなるほど感動する。本当にめちゃくちゃ美しい曲。

Cenizasと今作、どっちが好きかと言われるとめちゃ悩む...笑。正直どっちも同じくらい大好き。A. A. L.の2017-2019はどうなのかと聞かれると、やっぱりそっちも大好き 笑。実はこの2012-2017、「2020年上半期『月間ベストアルバムTOP10』から漏れてしまったベストアルバムTOP10」の候補でした 笑。結果として漏れベストから漏れてしまった。(なんだそれ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5. Trevor Powers - "Capricorn"

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型にはまらない新時代のアート

 Trevor Powersの今作は、Youth Lagoon時代から育ててきた最強のイマジネーションを原料に、"やぎ座"という神話・伝説にまつわるコンセプトをメインとして制作したような作品だと思う。そのコンセプトを表現するためのアイディアとして、過去の物語へタイムトリップするためのローファイ・アンビエントと同時に、神話の世界にアクセスするための宇宙みたいな実験音楽をミックスさせているのが本当に素晴らしい。古びたレコードがノイズ混じりに再生されるような懐古のトリップ体験(Ghosts Of Shanghai (M5))、宇宙のような大スケールを想起させるドラマチックなニューエイジ(Earth To Earth (M2))、それら両方を組み合わせて表現する型にはまらない新時代のアート。それはただのローファイ・アンビエントでもなく、ただの聖なるニューエイジでもなくて、神話的なコンセプトを引用しながらも現代的な新しさを付与したような作家性。音楽の呼吸を丁寧に意識するアンビエントニューエイジとしてのテクニックを開発してるようなすごさだけでなく、Youth Lagoonのようなメロディックで美しい鍵盤楽器のポップ感もあれば、前作Mulberry Violence (2018)で培った音圧の高いバイオレンスなエレクトロニカ技術なども利用してたり、才能が本当にたっぷり発揮された大傑作だと思う。大大大好きなアーティストがアルバムをサプライズで投下するという喜びももちろんあったし、前作Mulberry Violenceよりも内容や作品のモチーフが私の大好物すぎてテンションが超上がる 笑。1曲目のFirst Rainからその作家性・才能が溢れてて止まんなくて、本当にめちゃめちゃ酔いしれる。こんなに傑作なんだから、カセットテープだけでなく、ヴァイナルのフィジカルとかもリリースしたらいいのに...と思った。(自分が欲しいだけ 笑)

本アルバムは、私的に"大好き中の大好き"みたいな曲をいくつも含んでいるところが本当に魅力的。1曲目のFirst Rainだけでなく、ピアノのメロディーで神話を再生していくようなThe Riverine (M3)、飲み込まれて抜け出せなくなるほどの深いミステリーを感じさせるA New Name (M4)、色褪せた古風な音像に鮮やかな現代的エレクトリックサウンドを対比させる美しさがやばすぎるBlue Savior (M6)など。中でもコンテンポラリー系のエレキピアノ含めて、Trevor Powersの今作は鍵盤楽器のメロディーの美しさを引き出すのが本当に上手だと思う。もともとYouth Lagoonのベッドルームポップの頃から、ピュアで人間味のよく表れた鍵盤メロディーの美しいセンスがあったと思うけど、神話のコンセプトがある大人びた作風の今作でも、そのメロディー力がとても活かされてる感じで本当にたまらない。特に今作だと、ラストの2166 (M8)とか本当にめちゃんこそれで、初めて聴いたときは鳥肌が立ちまくって本当に感動した。鍵盤楽器のメロディー力というだけでなく、ニューエイジアンビエント、バイオレンスなエレクトロニカ、ベッドルームポップ、Trevor Powersの全才能が注ぎ込まれてた素晴らしいナンバーだと思う。それの一個手前の曲が、Aaron Dillowayみたいに超怖いホラーな曲で、そのギャップがめちゃめちゃ効いてるのもずるい 笑。

私が本格的な洋楽オタクに目覚めたのは2016年の3月からなのだけど、Youth Lagoonもその時期に出会ったアーティストで、気が付いたときにはYouth Lagoonはもう存在しなかった...泣。The Year Of Hibernation (2011)とか、人生超ベスト級のアルバムなのだけど、Trevor PowersのライブでYouth Lagoonの曲を観るのが密かに私の夢です...笑。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4. Fontaines D.C. - "A Hero's Death"

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完全に信者🙋‍♀️

 鼻血が止まらなくなるくらいとにかく鬼かっこよすぎて発狂してしまうほどにやばいFontaines D.C.、前作Dogrel (2019)のときが「ポストパンクバンドのルーキー」という位置付けであったのだとしたら、今作A Here's Deathの本物感でいったらもう「ポストパンクバンドの神の子」とかそういうランクになりますけど...それでいいですか?笑。って確認したくなるくらい、Joy Divisionが象徴した正真正銘のロックンロールの完全形態として極められてると思う。ポストロック・クラウトロック・インダストリアル、精神の奥底まで徹底的に真っ黒なアンダーグラウンド音楽の超本格的なそれ。聴くと痺れてしまうようなベースのフレーズ1発目でその本物感の確証を得るようなTelevised Mind (M3)、静かに燃え盛るような熱狂が込められたドラムのA Lucid Dream (M4)、そしてダークに染まりきって狂気じみた笑みさえ浮かべるような恐ろしさのあるA Hero's Death (M7)などなど...。70~80年代のガレージ特性を利用した本格的なサウンドデザイン、ストレートなまでに突き進んでいく本格的なポストパンクな演奏、イギリスのダブリンの労働階級を彷彿させる本格的なテーマ、もっというと本格的なメンバーの風貌(なにそれ)、作品を構成してる全ての要素に対して本物感が本当にやばい。(Televised MindのMVにその"本物感"の感じが集約されてると思う。)まるで、Joy Divisionらのポストパンクの遺伝子を継承しただけに収まらず、Fontaines D.C.の中でそれらの信念がもっともっと強化されて、Fontaines D.C.そのものが現代における新しいポストパンクの主になってしまったみたい。前作Dogrelの時点で多くのファンを獲得したと思うけど、ここまでの存在感になると私なんかはもう完全にFontaines D.C.信者になってしまうよ...笑。本当に本当に激アツ。この愛は誰にも止められない。

今作でFontaines D.C.の進化が顕著に表れてる部分は、フロントマンGrian Chattenの歌声が夜空に響くような美しさがたまらないYou Said (M5)や、今までにはないジェントルでディープな雰囲気すら感じさせるSunny (M10)など、反抗的なロックンロールのナンバーとは対極的なセンチメンタルな感情に溢れた曲。前作Dogrelにおける6曲目Roy's Tuneとかでも同じようにセンチメンタルなテイストの楽曲はあったけれど、今作のパートの場合は、もっとサッドネスの感情のリアリティが伝達するような重々しさを重視して表現されてる感じ。それは、Fontaines D.C.のメンバー達が愛している詩的な美しさをより強調する、Fontaines D.C.のもう一つの一面だと思うのだけど、この部分で「彼らが抱えてる思い、彼らが背負っている思いがいかに本物であることか」ということをリスナーに証明するような圧倒的なインパクトがあるのが本当に素晴らしい。ただガムシャラにパンクを演奏するだけでなく、それらの感情源にあたるもっと根本的なエモーションを映し出すような深み。You Saidとか完成度が本当に別格で、空にまで轟くようなギターのメロディーが本当に美しくてたまらない。私的にはこのYou Saidが本作におけるFontaines D.C.の本物感を高めまくるキートラックな1曲だと勝手に思ってる。

私は前作Dogrelでいうところ1曲目のBigみたいなやつが本当に超超超大好きなのだけど、今作は9曲目のI Was Not Bornがそれに相当してた 笑。私がFontaines D.C.に求めてためちゃめちゃノリノリなパンクのグルーヴのやつ。こういうやつが本当に大好きでたまらない。今作はリリース前から、そういうBigみたいな超かっこいい曲が1曲でもあればもう満足だったのだけど、その期待以上にバンドとしてのかっこよさがとてつもないことになっていた...笑。Televised MindのMVとか、もう何もかもが本当にかっこよすぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3. Julianna Barwick - "Healing Is A Miracle"

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その願いが届いたとき、癒しは本領を発揮する

 今作の本当に圧倒させられるところは、黄泉の国を創造するアンビエント作家の中でも指折りの実力者であるJulianna Barwickが、アンビエントの癒しによる救済の奇跡Healing Is A Miracleを心から信じて、それを今までにないくらい力強く作品にぶつけているというところ。ノイズ未使用なのに本格的なシューゲイザーにまで匹敵しそうな極上の快感サウンド、冒頭Insprit (M1)のように重低音のグラビティを利用した最強の浮遊感とか、前作までの作風よりも大迫力なヒーリングミュージックの仕上がりで、「絶対に絶対にお前を癒してやるからな!」というようなものすごく強い気合が感じられる 笑。もともとJulianna Barwickというお方は、多層的な歌声で音のオーロラを生成したり、キリスト教音楽のような光り輝く希望を環境音楽として新構築したり、リスナーを昇天させるような極上の安らぎを巧みに完成させたアーティストの一人だと思う。ただでさえそんな人なのに、今作は今まで以上に迫力のある仕上がりで、リスナーへの癒しをもっと確実に、もっと徹底的にぶつけているというやばさがある。自分のありったけの思いを伝えようとする音楽家としての態度というか、音楽に込める思いや願いのリアリティみたいなのが深く伝わってくるところがあるから本当に泣きそうになる。Mary LattimoreとフィーリングしたOh, Memorry (M2)とか、JónsiをフィーチャリングしたIn Light (M4)とか、一つ一つの楽曲の強さからその意思がよく見てとれると思う。特にこのIn Lightは本当に最高すぎてやばい。鳥の鳴き声のサンプリングで映し出す美しい木漏れ日、その中で現実をしっかり破壊する神秘性。Jónsiのコラボとは近似的に言えばSigur Rosとのコラボ。Julianna Barwickの徹底的な癒しが、心から満たされるSigur Rósの人生最大級の感動と組み合わさるという、、、そんなのありえなくない???笑。このIn Lightは2020年ベスト贅沢ソングだと思う 笑。

そんな今作で私が最も大好きでたまらないところは、Nosaj ThingとフィーリングしたエンディングソングのNod (M8)。この曲は今作の中で最もポピュラーソング的なメロディーのフックを含んだ曲だと思う。アルバムを通じてそれまでに蓄積した徹底的な癒しをさらに高みに上げるような幻想性の強調。フルハイビジョン的なサウンドの美しさが強みのエレクトロニカコンポーザーであるNosaj Thingとコラボレートしてるというところが本当に鬼すぎる。。。こんなことされたらマジでひとたまりもない。。。笑。本当に恐ろしいくらい美しいと思う。Nosaj Thingがめちゃ大好きというのもあるけど、比較的ナチュラルめのサウンドが印象的なJulianna Barwickが、バリバリにエレクトロニカのNosaj Thingと手を組むっていうところのインパクト・ギャップがいいなって思う。ラストソングとしての深みも本当によく出てる。

このアルバムが本領を発揮する瞬間、それはJulianna Barwickが信じた癒しによる救済が、実際にリスナーの中で本物になる瞬間。悲惨的な状況の世の中、息苦しいしんどさが増殖していくような毎日、死にたくなるような憂鬱な感情、この音楽の癒しがそれを克服したとき、自分の中でその癒し・その願いが届いたと感じたとき、それこそがこの作品の最大の価値だと思う。それは、自分の中で求めていた真実に辿り着くような巨大な達成感にも似てる気がする。本当に果てしない感動だと思う。Julianna Barwickの徹底的な癒しを感じとれたその瞬間、その音楽を鑑賞しているときのとっておきの瞬間、心の底から安らぎを得て、身も心も満たされて、誰にも負けないような強い精神力を手に入れられるのだと思う。それがこの作品の本質的な部分、癒しによる奇跡だと思う。もちろんそれはただの一時的な瞬間ではなく、自分の感情の中で履歴として、記憶として残り、自分にとって永遠の存在になるもの。私におけるNodの体験とかは本当にめちゃそれで、徹底的なまでに打ちのめされてしまった。ほんと、In LightとNodがとりわけにやばい。

このアルバム、スタイリッシュに30分でまとめてあるのもナイスワークだと思う。一曲一曲が10分越えの1時間越えのアンビエント作品とかよりもお手軽に摂取できるよさがあると思う 笑。(1時間越えクラスの作品群も最高だけど)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2. Lianne La Havas - "Lianne La Haves"

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素敵すぎてもう人生ベスト級のR&B・ソウル

 R&B・ソウルに対するこだわりに加えて、そこに込められたハート溢れるメッセージ性、そこから浮き彫りになるLianneのピュアネス、さらに言うとライブ・MVなどからも滲み出る人懐っこさ......アーティストとして総合的にツボすぎて本当にやばい 笑。音楽もめちゃめちゃ大好きだし、Lianne La Havasという一人の人間としても本当に尊敬レベルが高い。特に今作における音楽性に関しては、コンテンポラリー系の丁寧なサウンドが意識されたような極上の味わいのR&B・ソウルだと思うのだけど、"オルタネイティブ"って概念の自由意思みたいなのがもっと投影されまくってて、R&B・ソウルとしての音楽表現・エモーションをめちゃめちゃ豊かにデザインしてる感じ。ただでさえR&B・ソウルという音楽自体が上品なムードの豊かな味わいを十分に持ってるのに、Radioheadカバー然りオルタネイティブロックにもアクセスするようなジャンル的制限の解除もあって、従来のR&B・ソウルにはなかった新しい豊かさ・充実感がある。この芸術的な表現が本当に素晴らしくてたまらない。曲で具体例を挙げると、Crumbのようなジャズ・コンテンポラリーの中にほんのちょっぴりローファイ・サイケデリック感の恍惚をアレンジしてるRead My Mind (M2)とか、ジャジーでありながら同時にドリーミーな音像を合わせたようなGreen Papaya (M3)とか、ギターのカッティング奏法がファンクっぽいけどクラシックギター風のサウンドとして昇華されてるようなCan't Fight (M4)とか。R&B・ソウルの持ち味であるスモーキーな魅力とかビターな美しさのよさをもっと贅沢に感じさせるような特殊なテクニックで本当にやばいと思う。その表現の贅沢化・上品なムードのスケールアップが1曲目のBettersweetからずっと続いてて、アルバムとしての出来栄えがかなりハイレベルなものに感じられる。R&B・ソウルの守備範囲がスーパー狭い私でもノックアウトされまくったよ...笑。

今作で私が最も心奪われたのは、リードトラックの一つであるCan't Fight (M4)。これが本当に大好きでリピートしまくってる(特にMV)。『諦めるべきなのは分かってる。逃げようとしたけどダメだった。この愛には逆らえない』、どこまでも真っ直ぐで純粋な愛が表れたリリックで、とてもとても強力な愛の表現なのに、そこにLianneの豊かで贅沢な音楽のエネルギーが作用して、それらの思いの深みが究極的になってるのが本当にやばすぎる。何回聴いてもめちゃめちゃ心奪われる。MVの一瞬一瞬も本当にやばくて、このビデオでLianneの超絶大ファンになった 笑。(特に最後お辞儀するところが死ぬほどにツボ。)系統的には、私のエターナルベストヒーローのStella Donnellyに相当するような憧れのキャラクター性を感じる。ピュアネスと優しさとユーモア、私もそういうLianneみたいな人間を目指してる 笑。

今作におけるもう一つの傑作ソング、5曲目のPaper Thinもリリックの共感がやばい。"あなたの痛みは本物だって知ってる。自分自身を愛して。でないと誰も愛せない" というストレートな励まし。音楽の和やかな雰囲気もメッセージ性にものすごくマッチしてると思う。この歌詞の内容でLianneの人間性に対する信頼・リスペクトが確信的なものになった 笑。この内容、本当にすごく分かる、めちゃくちゃ友達になりたい。

私的ベストブラックミュージック(ワールドミュージック)は、Janelle Monáe, Ibeyi, Meshell Ndegeochello(←人生ベストソング), Sampha, serpentwithfeet(←ほんとにほんとに死ぬほど好き)Xenia Rubinosなどなど。でもアルバム的にいったらLianneの今作は私的人生ベストブラックミュージック1位の作品かもしれない。私的2010年代ベストアルバムのコメントでもいただいたように、そもそもとして私、R&B・ヒップホップなどの引き出しが本当に少なくてスーパーすみませんって感じなのだけど 泣、ブラックミュージック界隈でStella Donnellyに相当するレベルの大ファンのアーティストを知れたのが本当によかった。話題のRadioheadカバーも本当に素晴らしい。R&B・ソウルによる全く違う現実逃避、本当に新しい景色を見せてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1. Crack Cloud - "Pain Olympics"

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絶望と闘うアーティスト集団

 Crack Cloudのこのアルバムが何よりも優れてると感じられるところは、生きづらさ・精神的な苦痛など、病気的な不健康のリアリティが前衛的に、衝撃的に、ものすごく芸術的に表現されているというところ。アンダーグラウンドで発達したような重苦しくダークなインダストリアル・ポストロック、そしてTVラジオ・ストリート・自然などあらゆる文化・空間を映し出すサンプリングによる未来都市的イメージのニューエイジ、さらには殺意さえ感じられるほどの怒りと不満の暴動を起こすようなハードコアヒップホップ(Favor Your Fortune (M5))...、それらが不安定に合体し、リスナーが絶対に予測できないように繰り出される。その苦痛に満ちた衝撃的な音楽性は、まるで人間が破滅してしまうギリギリのところで耐え抜いているようなとてもしんどい精神状態を想起させられる。自らを癒すためのアプローチとして芸術を生み出すアーティストは多く存在すると思うけど、その中でもCrack Cloudの苦しみのリアリティ表現には本当に本当に感動させられる。(もちろん、他人の不幸で蜜を得る感動ポルノ的な意味合いではなく、純粋に世に生み出された芸術作品としての素晴らしさという意味で。)とても高い才能が感じられるのだけど、特に"Pain Olympics"というアルバムタイトルとか、そのネーミングからだけでもアーティストとしての天才的な素質が確認できるように感じられる。朽ち果てた未来都市のイメージをバックにしたメンバー集合のジャケット写真もそう。演奏メンバーは7人だけど、音楽活動をサポートするチーム全体で考えるとメンバーは総勢約20人、それらの大規模な集団組織としての存在感の魅力もプラスで、世界観が本当に素晴らしい作品だと思う。このCrack Cloudの世界観に対して、大好きなBIG LOVEが商品レビューでAKIRAのネオ東京を引用してたのが印象的だったけど、本当にめちゃめちゃ共感する 笑。あるいは、世界が滅びる寸前の未来からやって来たようなシリアス系のSF的作品の着想の感じも。そんな風に、作品固有のワールドの観点から見ても本当に素晴らしいと思う。

私がこの作品で死にそうになるほど感動したのは、なんといってもキラートラックのThe Next Fix (M4)。ギターリフは濁っていて気持ち悪く、ラップのメロディーは暴力的で腐敗したストリートを演出するよう。それらの苦しみはまるで、人間として必要な何かを失っているような病気的な状態に似ているもので、そこから永遠に抜け出せないようなものすごく深い絶望が感じられる。それでも、仲間達と一緒に騒いだり、一緒に歌を歌たったり、生きることの喜びを知っている。それでも、心が温まる安らぎの感覚をずっと覚えている。病気のように毎日苦しいけれども、その中で一生懸命にもがいてる。それは、生きる気力を失うほど理不尽なまでに残酷で悲しい世界の中で生きている、永遠に癒えない心の傷を抱えた者たちに死にほど響くと思う。私自身、楽曲が物語っているそのエモーションに対して、心に突き刺さりまくって死にそうになるほど感動する。今この文章を書きながら泣くのめちゃめちゃ堪えてる。本当に本当に本当に素晴らしい。MVもそのような意思がよく表現されててやばい、2020年におけるウルトラスーパーベストソングだと思う。

あと今作がとりわけ心に響いたのは、コロナ時代で私達が痛感している社会に対しての生きづらさみたいなフラストレーションを、Crack Cloudが上手に代弁してくれたような部分も大きいと思う。情報が錯綜し、不安は極端に煽られ、精神的な疲労が募っていくばかりの毎日の中、Crack Cloudの音楽が溜まりに溜まった憎しみ・不満の感情と深いシンクロ反応を起こす感じ。私的には、特にハードコアヒップホップのFavor Your Fortune (M5)とか本当にそれで、聴くと身体中が熱くなるような最高の興奮を発散できてめちゃめちゃスッキリした。疲れを取り除く癒し的な音楽もいいけど、爆発力のある音楽も効果的なんだなって改めて感じた。

去年に2010年代の総括をしてるときから、2020年の音楽はどんな風になるのかをずっと楽しみにしてた。だけど、例えばエレクトロニカ技術による音響クオリティのこれ以上の発達なんて全然想像できなかったし、未来の音楽のイメージなんて全然分からなかった。Crack CloudのPain Olympicsは、そんな未来の音楽を感じさせる2020年代の第一歩な作品な気がする。それくらいの衝撃度、そのくらいの爆発力、本当に感動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

7月ベストアルバムのプレイリスト↓

温の「2020年7月ベストアルバム(温)」をApple Musicで

 

 

 

 

★7月ベストソングTOP10

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10. My Morning Jacket - "Climbing the Ladder" (The Waterfall Ⅱ)

9. Jessy Lanza - "Face" (All The Time)

8. Skullcrusher - "Trace" (Skullcrusher - EP)

7. Protomartyr - "Processesd By The Boys" (Ultimate Success Today)

6. Madline Kenny - "Sucker" (Sucker's Lunch)

5. Kaammal Williams - "One More Time" (Wu Hen)

4. Beckey And The Birds - "Wondering" (Trasslig)

3. Land Of Talk - "A/B Futures" (Indistinct Conversations)

2. Taylor Swift - "this is me trying" (folklore)

1. The Beths - "Dying To Believe" (Jump Rope Gazsrs)

 

プレイリスト↓

温の「2020年7月ベストソング(温)」をApple Musicで

 

 

 

 

 

★7月3週目リリースの感想・ランキング

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