アルバム感想(温)

My Favorite Music

「2022年1月ベストアルバムTOP10」感想

2022年1月の最高に大好きだったやつTOP10

(コメントは過去にTwitterに投降したキャプション)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10. AURORA - "The Gods We Can Touch"

エキゾポップ×エレポップによるAURORAのホーリーなメロディー。。。北欧の幻想的な舞台も、トライバルな情熱も、ソウルフルな妖精の歌も、今作はもっと神々しい存在感を放ってる...もう絶対大好きだから~!!って思ってた 笑。シングルで出てた神ソングらはもちろん、M13とかも超興奮する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9. Alphabet Holds Hostage - "Again and So Soon"

ドリームポップの春とシューゲイザーの冬。ここは二つの景色が一つに出会うような場所。エレクトロニックもアコースティックも両方駆使した繊細な幻想。美しさの感度を高めまくったみたいでもう思い切り泣きそうになってしまう。オルタネイティブな作風が濃く、世界観にアートロックっぽさを持ってるのが本当に素晴らしいと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8. La Colonie de Vacances - "ECHT"

メンバー12人で轟かせる爆裂ポストロック、、、初めて聴いたときは本気で理性飛びかけて泣きそうになるという変な体験をした 泣。系統的にはバトルズとかblack midiみたいな異常じみたアンサンブルだけど、ドラムが4人という点で演奏の威力の格が違いすぎてると思う 笑。M7とかあまりに衝撃的で心臓潰れるかと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7. Yard Act - "The Overload"

ディスコパンク~ギターロック~ポストパンクのマジでニヤニヤが止まらなくなるやつ、、、本当に超アがるんだけど!笑。軽やかなフットワークのノリとドライブ感、コンパクトでサクサクした爽快、あとはチープな雰囲気のテキトー感とか...楽しさという楽しさを極めまくってる感じがしてた 笑。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6. VTSS - "Projections - EP"

マジで楽しすぎて夜通し遊び尽くしたいと思うようなテクノのやつ 笑。手数は幅広く多くトリッキーに、ムードはアングラでダークに染めて、唯一無二のゾクゾクを最高の形で演出できてると思う。中毒性の激しい曲が何曲かあるけど、中でもM3の一定間隔シンセには大爆笑してた 笑。最近の女性テクノDJの活躍目覚ましい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5. The Micronaut - "Olympia (Winter Games)"

ウィンタースポーツをモチーフにしたありったけのワクワクとハピネスをくれるエレクトロニカ...!!泣。全ての曲名が競技名になってて、曲それぞれで体験性やストーリーの没入感を半端なく与えるという設計。本当にセンス素晴らしすぎると思う。ときに最高の快感を得て、ときに熱く燃えて。冬のことをもっと好きにさせる特別な1枚。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4. Palace - "Shoals"

Local Nativesみたいなオルタナロック、あまりにもツボすぎて私が失神しそうになるやつ。メロウなハイトーンボイスの歌、オルタナ特有の自由な表現による魔法...。ドリーミーでファンタジックで、気持ちよくてたまらなく綺麗。描いてる世界、音楽を鳴らす理由、何もかも大好きすぎてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3. Estella Boersma - "Dance Trax, Vol. 34 - EP"

呼吸困難に襲われるくらい楽しすぎるブレイクビーツハードコア 笑笑。ビートとか心臓を貫くように超激烈なのに、曲自体の理性は保たれてるバランスなのもうヤバいくらいクールなんだけど、、、!泣。音源がこのクオリティで本職はモデルさんとか、もう人間のスペック超えてるでしょ 笑。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2. Bonobo - "Fragments"

アーティスティックで優美なエレクトロニカというだけでツボすぎて腰が砕けそうになる、、、笑。今作は少しエキゾチックっぽい情熱的な感情を見せたり、ダンサブルな中にエモーショナルな意志を持ってる感じがもうめちゃめちゃにカッコイイ。曲も一つ一つが豪華で超大満足な一枚だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1. Pinegrove - "11:11"

Pinegroveの季節がやってきた。冷え込みは一層厳しくなってるけど、相変わらずしんどくて息苦しい世情だけど、それでも私に春を届けてくれた。温もりと癒しと、溢れるほどの愛を届けてくれた。それはまるで、「春はきっとやって来るよ」と私に教えてくれるみたいだった。聴くと涙が止まらなくなる作品。ずっとずっと大切にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2021年音楽まとめ

f:id:Worried10Fire:20211231191430j:plain2021年のベストアルバムはここ!!!!

 

 

 

2021年の下半期まとめとその他いろいろ

 

目次

 

 

2021年上半期まとめ

worried10fire.hatenablog.com

 

 

 

 

 

2021年下半期月間ベストアルバムTOP10(ランキング)まとめ

いっぱいあるのでジャケ貼るだけ...

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左から右 : 2021年7月~2021年12月
上から下 : 10位~1位

(例) Snail Mail → 11月ベストアルバムランキング3位

感想はここ↓

worried10fire.hatenablog.com

 

その他ベストアルバム

worried10fire.hatenablog.com

 

 

 

 

 

2021年のワースト音楽

MC - "XXX"

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~1曲9秒で999ユーロ(≈130,000円)~

いやいやいやwww

 

9秒間のたった1曲でレコード37枚分くらいに相当しそうなくらいの金額の1曲...。プロジェクトの記念として作られたらしく、「9本のワインを飲み干し、ここに私たちのトリビュート盤が誕生しました」って概要の説明にもすごくネタ的な楽しさを感じる 笑。肝心の内容はというとメロディーもなくゾクゾクする雰囲気のアンビエント?な感じだけど、やっぱり9秒間の短さでは私の鑑賞が追い付かず曲想をうまく掴めない、、、笑。内容が頭に入る手前で終わってしまうイメージ。「9 years, 9 artists, 9 seconds」にちなんで999ユーロという値段なのだと思うけど、「いやなんでだよw」ってなる 笑。前衛的すぎてる現代音楽といえば、例えばJohn Cage4分33秒とか、2640年に演奏が終了予定(現在も演奏中)のOrgan²/ASLSPとか、他にも様々なアイディアの曲があると思うのだけど、MCの今作は10秒未満の1曲に対する13万円という価格設定のところに一つアイディアを持ってる現代音楽に捉えられる気がする。ただこの"13万円"っていう価格設定がギリギリ手を出せなさそうで出せそうな微妙なところを突いてる感じがすごくむずがゆい...笑。9ユーロだとインパクトに欠けるし、かといって999ユーロより桁数を多くすると面白味が薄れそう。999ユーロがベストで、買えなさそうで買えそうで、とは言いつつも買ったら後悔がすごそう 笑。この9秒に大きな魅力を見出せているなら話は別だけど、実際に間違って(ノリや勢いで)買ってしまったときのことを想像すると胸が痛くなる。。。笑。もし私がイグノーベル賞ラジー賞的な感じで2021年の音楽のワーストを決めていいなら、MCの今作を選ぶかなと思う。

 

 

 

 

 

2021年ベストMV

black midi - Slow

www.youtube.com

 

 

 

 

 

2021年ベストアーティスト写真

Black Country, New Road

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社会人になって茨城から東京に出てきてもう2年、ライブ観まくる生活を夢にしつつまだ一回すら観てない、、、泣。(しかも京都に引っ越す可能性出てきたし、、、)2022年は早くこれになりたい

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「2021年下半期『月間ベストアルバムTOP10』から漏れてしまったベストアルバムTOP10」感想

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いつも毎月選んでるベスト10のアルバム、ここではそこから漏れてしまった、または見逃していた、またはあとあとよさに気付いた作品たちについて回収するコーナー、、、泣。(2021年下半期編)

本当は今の時点で上半期下半期関係なく、あとあとよさに気付いた作品は全部カバーしたいと思ってるのだけど、2021年下半期に絞って10枚というきりのよさで厳選した...。

『月間ベストアルバムTOP10』から漏れてしまったベストアルバムTOP10の感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10. Former Hero - "Footpaths" (8月)

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スウィートでセンチメンタルな想いの増幅

 私はリスナーのピュアネスを激しくバーストさせるようなスウィートなエレクトロニカが大好物なのだけど、Former Heroもそういった特質を持つアーティストの一人だった。ハイテンションでコテコテの王道EDMというよりも、MadeonとかPorter Robinsonとかと同系統のクリーンで華やかなニュアンスが強いポストEDM的エレクトロニカ。でもFormer Heroの場合、一般的なEDMのハジけるフロアのイメージを持ちつつ、それとはかけ離れたようなエレガントで儚さのある詩的な印象も持っていた。ビートは熱狂を生み出すエネルギーの塊のようで、ギターノイズはハードコアみたいに激烈で、でも総合的なサウンドスケープはそれらと反するように自然的な感触で、クリアで透明感に溢れていて、メロディーは甘酸っぱくて、恋焦がれる気持ちが止まらなくなるEDM。MadeonPorter Robinsonよりも、恋しさ故に我を忘れてしまうような、思い馳せるようにずっと何かに惹きつけられるときの感覚がある。彼はエレクトロニックの技術で、自身が歌いたいそのスウィートでセンチメンタルな想いを増幅させた。ピュアネスの表現をもっと発達させた。これも私がツボすぎてヤバい音楽の一種。2曲目のSurround Meでもう彼のセンスがフルで発揮されてると思う。ジャケットで描かれた朝と春のコンセプトを完璧にカバーしたような今作の代表曲。世界が目覚めるように優しく音楽が始まり、空間は隅々まで澄み渡り、エレクトロニックの音が儚く舞っていく。それなのに、ビートは身体を突き動かすようにエネルギッシュで力強く、ピンク色よりももっと熱い色をしてる。Former Heroのエレガントな情緒と詩的なフィーリングが激しく強調されるとき。エレクトロニックによるピュアネスの巨大な誘起。やっぱりあまりにもツボすぎてた。指(fingertip)をテーマにした曲のアイディア的なところも超素敵。B面に関してもHelvellyn (M6)とかも本当にヤバい。こちらはFormer Heroのスウィートでセンチメンタルなフィーリングを加速させていくようなアップテンポさが際立ってる曲。心沁みる、思い馳せる朝と春の自然的な世界と、パーティー的な盛り上がりを見せる絶頂のダンスフロアと、それらを一つのストーリーに入れた一曲、もう私にとって理想的なものが目一杯凝縮されてるみたい。。。笑。この世界観には本当に病みつきになってた。あまりにもよすぎて泣いてしまいそうになる。他にも、Madeon的エレクトロニックに身体が無意識に反応するBirkham (M3)、ストーリー重視で充実してるSwims Best (M4)、とことん踊り倒すFoxgloves (M5), Gone Dream (M8)、どの曲も間違いなしなよさ。自分にとって作風がめちゃめちゃツボだった。EDM系なのに孤独感とか寂しさとかを引き出すような仕様なのがやっぱり私的にとてもくる。

今作で桁違いにヤバいのが、なんといっても7曲目のEndseekerだと思う。この曲は例えうなら、Former Heroのジャケットの朝や春の世界の美しさが破壊的な威力を得たような曲。それは私に痛みを引き起こしていた。綺麗すぎて、恋しくてたまらなくて、もうこの曲に殺されそうになっていた。冗談抜きで本当にやばい曲だと思う。誰かへの愛とか、感謝とか、幸せとか、そういったもの過剰なほどハードコア的に描いて実現するバケモノ級の美しさ。こんなにも猛烈に激しいシーンなのに、描こうとしてるものはFormer Heroの優しさだというところが本当にありえない。音楽に感動して死にそうになることは多々あるけど、ここまで直接的に殺されそうになったことは極めて少なかった。マジで、今作で絶対に無視できない一曲だと思う。

「日本人アーティストで誰が好きなの?」といきなり聞かれたら、私は"DE DE MOUSE"って反射で速答すると思う。シンキングタイムがあればいくらでも答えるけど、DE DE MOUSEは私の中で大好きさが殿堂入りしてる日本人アーティストのトップの人。そういうピュアネス増強エレクトロニカ、実はKawaii系のEDMもすごく大好きなんです、、、笑。だからPerfumeとかきゃりぱとかもどちらかといえば好きな方。ただFormer Heroの恋心的な没頭性には他にはない至高なひと時が感じられた。7曲目が本当にやばい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9. Ducks Ltd. - "Modern Fiction" (10月)

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スーパーシャイニー

 私の中ではRolling Blackouts Coastal Feverの親戚のような位置付けの、燦々とした爽やかなフィーリングをかっ飛ばして行くみたいな光と風のハイスピードロックンロールなのだけど…そんなの最高にならないわけなくない??笑。バリバリのインディーロックをベースにネオアコ的なドリーミーさがいっぱい溢れてて、そこに80sのインディーポップの眩しさも含んだような感じ。古風でありながら現代風でもあるような素敵な作風、インディーズのコアみたいなものも所持してるし、私にものすごく刺さるやつだった。何より、RBCFとかReal Estateとかと同じギターサウンドの属性なのが私の"大好き"を決定づけてる...笑。アコースティックとエレキのブレンドで魅せるスーパーシャイニー、それがスピードにのって綺麗に散っていくような最高の気持ちよさ。ときにジャキジャキ掻き鳴らしたり、ときにメロディーを作って喜びを歌ったりする。まるで青空の下、陽の光の解放を感じながらサイクリングしたりドライブしたりするみたい。こういうの聴くとすごく無敵な気分になる。。。笑。アルバム全曲が1つの大きな曲になってるみたいにどこをとっても間違いない安定感だけど、例を挙げると18 Cigarettes (M3)とかDucks Ltd.の今作のよさが高密度で詰まってたかも。燦燦としていて爽やかで駆け抜けてくロックンロールで、盛り上がりのパートまでそれらの快感のエモーションがどんどん高まっていく曲。アコースティックとエレキでツインになったギターのサウンドで、Ducks Ltd.のハイテンションと気持ちよさの正の相関を表していく。これは大好きすぎる...もうとにかく燦っっっ燦、、、!笑。春夏秋冬オールシーズン、自分のマインド上にお日様を生成したいときに聴きたい音楽。他にも、ロックンロールの中で80sインディーポップスのエッセンスもこってり堪能できるHow Lonely Are You? (M1)、ベースとかギターリフとか楽器パートが何もかもいいAlways There (M7)、ストリングスが満ちたりまくるのがヤバいSullen Leering Hope (M8)・Twere Ever Thus (M9)など...。彼らのスーパーシャイニーの解放が全開。特にアルバム後半のストリングス濃度のヤバさには本当にびっくりした。

私が今作で一番感動しまくりだったのはUnder the Rolling Moon (M4)。ハイスピードに進行していく一曲だけど、こちらはギラギラ眩しい中にも落ち着いたシャイニーさが沁みるようなDucks Ltd.。私の中でかなりRBCFに近いイメージなのだけど、楽曲が持つ世界観と自分が憧れで抱いてるオーストラリアの景観がリンクするような、自分にとって特別なエモさをもたらすものがある(Ducks Ltd.はカナダだけど)。オーストラリア特有のあのサンシャインのことがもう猛烈に好きなのだけど、Ducks Ltd.のスーパーシャイニーがそこの感覚と繋がると思わず泣きそうになってしまう。そういったRBCF特性でいっても、私にとって思い切りツボなバンドであるということ。オーストラリア行きたい、RBCFのライブ観たい、そしてDucks Ltd.もまたツアーとかで同伴してくれたら絶対観たいって思う。

Ducks Ltd.の今作は、ロックのこと大好きなのでお馴染みな、絶大な信頼があるStereogumの情報で知った 笑。メンバー写真、ジャケット、聴く前から大好きすぎてやばそうって思ってたけど、案の定めちゃツボだった。最初はDucktailsの別プロジェクトなのかなとかも思ってた(普通に違った)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8. Steve Gunn - "Other You" (8月)

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現実の受け入れ方

 荒野みたいな人生をたった一人で冒険するとき、彼の今作はその旅のお供にしたくなるようなカントリー・フォークの曲だった。何かと立ち向かう強さを得るような音楽や、気持ちを高めるようにエネルギーをチャージする音楽などではなく、流れていく時間に身を任せて、現実、自分、今この時、ありのままを受け入れていく脱力系の優しい音楽。でもSteve Gunnはその中で、それらの"ありのまま"をとてもとても特殊に表していた。それはまるで鏡の向こう側に在るパラレルワールドのようで、水面に映って見える幻想的な現実のようで、その他自分が意識していないところで眠っている美しいものの数々、気が付いたら傍にあったサンセットの感動的な景色のようでもあった。アコースティックの音色は暖かく溶けていて、多様なメロディーとサウンドブレンドされていて、馴染みあるはずのフォーキーな曲の存在が、自分が今まで知らないほど不思議に満ちた深いものになっていた。この音楽にどこまでも身を任せたくなる。現実のこと、自分のこと、世界のこと、この音楽を通じて受け入れたくなる。人生の旅のお供にしたくなるこの感覚はそう意味だった。もうめちゃめちゃに最高だと思う。Other You (M1)の解放、Fulton (M2)の安心感、Morning River (M3)の天然、Good Wind (M4)の夢想、Circuit Rider (M5)の好調、On the Way (M6)のワイルドネス、Protection (M7)の安定、The Painter (M8)のマイルド、Ever Feel That Way (M10)の回復......最高さが常に一貫してる。中でも9曲目のReflectionのメロディーとかは特にツボが激しかったかも。コーラスの方法で色数を増やすように飾られたシンプルなフレーズ、ビターで濃密な味わい、それらをスローテンポでじっくりと与えてくれる曲。とてもとてもエモーショナルだと思った。初めてOther You (M1)を聴いたときはこの作品何か違うなって感じさせていたけど、改めて最後まで聴いたらめちゃめちゃ大好きだった。

そんなSteve Gunnのアルバムでもうゾクゾクがヤバかったのが10曲目のSugar Kiss。インディーフォーク主体ながらオルタネイティブな自在性があった今作の中で、まさかのアンビエント系のエクスペリメンタルを炸裂させた曲。参加してるアーティストがMary Lattimoreなのがインパクトすごすぎる、、、笑。今作が持っている不思議で未知なるものを反映したSteveの現実の描写に対して、Maryの作家性がそのコンセプトを驚異的に拡張させてるような感じ。神秘と美しさが止まらない。Steve GunnがまさかこんなThurston Mooreみたいな実験的なギタープレイをする人だとは思ってなかったし、Maryのハープとのシンクロ率もとてもやばい...。作風的に私の好みすぎて頭おかしくなりそうだった 笑。ほんと、この曲のエクスペリメンタルっぷりには相当びっくりする。

実を言うと今まで私はSteve Gunnの過去作にはずっとピンと来てなかったんです、、、でも今作は想像を遥かに超えるくらい大好きだった。Sandro Peri、Kurt Vile、Andy Shauf、自分のお気に入りのアーティストとの作風的接点が実は多いようなSSWだったって知った。評判も高かったし、今作はやっぱり別格なのかもとも思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7. Hand Habits - "Fun House" (10月)

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秋風

 Hand Habitsの音楽には秋の気配がした。時間が経過して熟した紅葉のような褐色、山地にある年季の入った山小屋のような居場所、その中でどことなく漂うスモーキーな香り、それらの心落ち着く懐かしさのようなものも。クラシカルで大人びていて、フォーキーで自然的で、恋しくも心温まるような秋色の感覚だった。ニューウェーヴのようなシンセポップもノスタルジックな印象が強く、インディーロックでもサウンドスケープが豊かに広がっていて、歌の存在が強調されたフォークソングではリスナーに格別な時間を提供してくれる。音楽に込められた、音楽が所持していた、それらの素敵なものが本当に深かった。とても最高だと思う。Aquamarine (M2)からそういった深みのある素敵なフィーリングに思いきり駆られる。ミニマルなメロディーがピースになった、不思議で特殊な存在のシンセポップ。メロウで僅かにフォーキーな音もしてたり、ソフトで愛らしいのにドリーミーで儚かったり、私がHand Habitsに対して感じる、恋しくも心温まる色のそれが感じられる。オルタネイティブの自由な表現のトリッキーさなどもあって、聴いた後も味わいがしばらく残るような、他のポップスにはない威力の高い魔法もあったり。今作における一つの大きなリードトラックだって思った。Jessica PrattやGrizzly Bearなどと同様、曲を聴いたとき雪山のような場所へトリップする空間的創造などもあると思うのだけど、この空気感、この匂いもほんとにほんとに大好きだった。シンセポップというところだとMore Than Love (M1)も超素晴らしい。こちらはどちらかといえばアーバンな感じするけど、ノスタルジックな雰囲気が半端なくて泣きそうになってしまう。じっくりソウルフルなフォークソングに限らず、センチメンタルなポップ系の曲でもMeg Duffyのボーカルがよすぎてる。前作Placeholder (2019)とかは認知だけしてるレベルで未鑑賞だったのだけど、未鑑賞なのもったいないSSWだった。

feat. Perfume GeniusのJust to Hear You (M3)とかも名曲だと思うけど、個人的にはアルバム後半以降のインディーロックコースもまたツボだった。音楽が風の当たる場所へ連れてってくれるFalse Start (M6)、気持ちよさがダイナミックでたまらないConcrete & Feathers (M8)、メロウを超えてビターにダークに変わってるのがめちゃめちゃカッコイイGold/Rust (M10)...。明るい曲からゾクゾクしてしまうような曲まで、Hand Habitsの作家性を様々に発揮してる。特にFalse Start (M6)とConcrete & Feathers (M8)の躍動感のあるロックについては、私がHand Habitsに対して思う秋の色と、Pinegroveのような通気性のあるギターによる風の発生とが連動した"秋風"というのを全身で感じるのだけど、これがすごくすごく好きだった。曲を聴いて思い浮かべる風景というか、匂いというか、そこに行きたいと私の中で憧れが喚起される。本当にいいなーって思う。前半から後半まで幅広く最高だった。

フォークでいえば7曲目のClean Airもすごかった。曲が再生された瞬間、自分の中の不安が解消されるようなナンバー。私が考える"フォーク=癒し"の方程式を実感するような、Hand Habitsのセンスがフルで活きた曲の一つ。やはりMeg Duffyはどちらかといえばフォークの曲の方が抜群なのだろうか...。ボーカルもストリングスもコーラスもエモーショナルだしで感動的だしで本当に沁みる。恋しくも心温まるような秋色の感覚。(もちろん冬でも聴ける。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6. quickly, quickly - "The Long and Short of It" (8月)

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マルチジャンルのタレンティッドなクロスオーバー

 quickly, quicklyはトラックメイカーであるということが信じられない...。彼が構築したサウンドワークのそれを知って、quickly, quicklyは私が今まで認知していたトラックメイカー・ビートメイカーとは別の何かじゃないかって思ってしまった 笑。エレクトロニックなことをしてるし、ビートが身体を打つダンサブルでクラブミュージックの種類だとは思うけど、それは驚くほどヒップホップで、ジャズで、打ち込みとは思えないようなタッチのドラムがあって、グループで奏でてるような重厚的な印象を感じさせるような、たまらなくリッチなところがあった。ブラックミュージックによるカッコよさと気品、またローファイ・チル・サイケのテイストによる聴き心地と癒し、それらマルチジャンルのタレンティッドなクロスオーバーでダンスフロアを彩って、メロディーをこの上ないほど豊かに広げていく...。「もう何人分の才能だよ!(?)」という変なツッコミをしてしまった 笑。センスとセンスの合体によるフレッシュで新しいダンストラック、そして新しいヒップホップ。1曲目Phases (ft. Sharrif Simmons)とかあまりの名曲さに私のテンションが狂っていく。quickly, quicklyだけの"ヒップホップ×ジャズ×クラブミュージック"。拍と拍を縫うように進んでいくドラムのテクニカルなグルーヴの中で、様々なサウンド達が華麗に、そして嬉しそうに鳴らされていく。こんなにもダンサブルでカッコいいのに、突き抜けていくように気持ちよくて幸せで、マジでどこまでも無限に惚れる。。。エレキギターとベースとドラムでセッションが本当に充実しまくってて、トラックメイカーによるエレクトロニカっていうイメージを超えたものを感じてた。同じような感じでFeel (M7)とかも本当にヤバい。裏打ち系のビートでもスウィングが強くて、リズム隊だけでかなり強力なフックを持っていて、とてもエネルギッシュなバイブスが伝わってくるのだけど、この曲でも強烈的なまでにエクスタシーを得る。。。ベースの存在感とかもめちゃめちゃよすぎてて、脳みそから何かが分泌されそうになった 笑。ほんと、3分以下という短さなの全然足りない。この作風、Mura Masaとかとは違う今後の新しいトレンドを予感させる作品でもあったかもって思う。

No Romeみたいな雰囲気にハイトーンのボーカルがめちゃオシャレなShee (M4)、エレクトロニックからアンプラグドまで彩りが豊かすぎて圧倒されまくるLeave It (M5)、後半の発展パートのオーケストラの光景で思わず息を呑むI Am Close to the River (M6)…。quickly, quicklyの素晴らしさが満点のコレクションの中で、Everything is Different (To Me) (M9)も本当にイチオシな曲だと思った。一曲の中に多様なカラーを所有したような、センチメンタルでエモーショナルでたまらなくなるやつ。1曲目のPhasesみたいに全速していく感じではなく、もっとスムースでほろ甘い味わいを強調したしっとり系の曲だと思うのだけど、もう身体溶けそうなくらいうっとりして。。。笑。quickly, quickly独自のチルってこんなにもヤバい。Phasesの興奮とはまた違う方向性で私のこと最高の気分にしてくれた。バッキングからソロワークまで、ギターというギターも全部好き。改めて、一般的なトラックメイカーを超えた何かがあるって、やっぱり思う。

ジャンルレスなセンスの融合、これが弱冠20歳の所業だというところがとても驚き…笑。一つ一つの音がヤバいし、組み合わせ方もヤバいし、めちゃめちゃ器用だなって思う。8曲目とかも感動しすぎて白目剥いてた(嘘)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5. The World Is A Beautiful Place & I Am No Longer Afraid To Die - "Illusory Walls" (10月)

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「一緒に行こう」と私を誘ってくれる

 TWIABPの今作に私がどこまでも惹かれるのは、エモでポストロックである上にアドベンチャーでファンタジーだから。前作Always Foreign (2017)でもグッときまくって泣きそうになってたけど、今作は抒情的なテーマよりも物語的なテーマの方が色濃く感じられる作品で、加速したり熱くなっていく従来のTWIABPらしさだけでなく、アルバムの中で色々な場面を持っているような多様性であるとか、スケール感とか、それらのドラマチックなエモーションを展開してくれた。この物語に登場する人物は誰だろう。この場所はどこだろう。これから何が始まるのだろう。一体何が待ち受けているのだろう...。音楽の多様な場面が、そのスケールが、エモーションが、私に多くの想像を与えていく。そしてそのアドベンチャーとファンタジーの物語に、私は勇気をもらう。胸が高鳴るようなワクワク、何かとバトルするときのような興奮、心惹かれるときめき、美しさ、超大作のドラマに適うありったけの感動をもらう。間奏曲から20分クラスの長い曲まで、一曲一曲のことが大好きだった。2曲目のQueen Sophie for Presidentからもう最高すぎてヤバすぎる。シンセとボーカルの可愛いフィーリング、ギターロックからマスロックまでカバーしたようなアグレッシブなパフォーマンス、ワクワクと興奮が一つになった、TWIABPのドラマチックなエモーション。その音楽が走り出す。これから始まる物語に期待を寄せるように、またどんなことが起きても立ち向かう覚悟を決めるように、物語のその先へ向かっていく。私はこの曲がくれる勇気のことが耐えられないくらい嬉しかった。自分の人生が退屈でも、しんどいことがあっても、音楽が「一緒に行こう」と私のことを誘ってくれる。アドベンチャーとファンタジーの中へ私を連れていってくれる。この曲を聴けば、私は自分自身に「行け、頑張れ」と応援することができた。もうめちゃめちゃに大好きだった。2曲目以降も、燃え盛るようなダークネスの壮絶な光景を描いたようなInvading the World of the Guilty as a Spirit of Vengeance (M3)、迷いや不安を振り切るようにダッシュしていくDied in the Prison of the Holy Office (M6)、物語の核心に迫るような壮大な世界観のYour Brain Is a Rubbermaid (M7)など、泣きそうになるみたいに感動する曲ばかり。パンデミック下のリモート制作、メンバーの脱退、色々な変化があっての今作だけど、TWIABP史上1番好きだったかもしれなかった。

アルバム後半のTrouble (M9)も奮い立つような感動の曲だった。サウンドは花火みたいに大きく爆発して咲いて、歓喜や祝福のようなフィーリングを訴えていく曲。ギターはそれまでになかったほど轟音だし、派手さをプラスするようなバッキングでのストリングスの加勢もあったり。それはまるで、アルバムの中の色々なステージを経た後の、今作Illusory Wallsの物語を答えに辿り着くようなイメージだった。音楽の物語と私とを同期させて、物語の主人公に感情移入するようにその曲の世界を堪能する。この曲の感動も本当に大きかった。このTroubleに来て一番音量がでかくなる感じがクライマックス的演出としてすごくいい。厳密に言えば9曲目の後にも30分くらい続くけど、私にとって今作における起承転結の結のピークで、このダイナミックなラストに思い切り乗っかってた。今作の指折りの大好きソングの一つだった。

9曲目をラストだと設定してしまうと、10曲目と11曲目の特大ボーナストラックのこれはなんなんだ、、、ってなる 笑。で実際聴いてみるすごくすごくよくて。もうアルバムのボリュームがバグってるように感じてしまった 笑。個人的にはFewer Afraid (M11)の方がやっぱり大好き。エモ・ポストロックとしての熱量も高く所有していながら、とてもメロディックでファンタジックで心奪われる。約20分だし、この曲だけを収録したEP(シングル)だったとしても十分に最高だったよ?って言いたくなる 笑。リリース前から超楽しみにしてたけど、申し分なく素晴らしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4. Dear Laika - "Pluperfect Mind" (10月)

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雷のアート

 私にとって、音楽はときにとても天候的なことがある。Kacey Musgravesが一点の曇りもなく心を100%晴天化させたり、Emma Ruth Rundleが枯れ果てたメランコリーで曇天の情景を見せたり。音楽による天候的な感覚。それでいうとDear Laikaの作品は、聖なる雨と、悲しみの吹雪と、またそれらの神々しさと激情にまつわる雷についてのアートだったと思う。ピアノが音楽をみずみずしくブルーに染めて、ときに壮絶な悲しみを引き起こすように金属的な冷たい音が吹き荒れ、そして空間がバリバリに割れるようなサンダーボルトを落下させる。エクスペリメンタルの性質的に言えばDevi McCallion & Katie Deyっぽい不安定状態のハードコアがあって、ピアノのキャラクターはKelly Moran(John Cage)同様の死の響きのプリペアドピアノで、だけどメインは驚異的なほど現実離れしたホーリーを誇るクラシックと聖歌の教会音楽で成り立ってる。様々な音楽的天候の創造、作品への神秘性・魔法性の追求、それらが過剰に行き過ぎてしまうような異常じみた危険性だとか、壮絶さと悲痛を抱えた表現の音楽なのに、ステンドグラスから光が差し込むときのような巨大な尊さに導かれる瞬間がある。音楽の特別な祈りがもたらす、破壊的で限界的な美しさの存在。もうこんなの素晴らしくないわけがないって思う。自然と幻が混在するような異世界的描写であったり、アーティスト自身の精神的苦痛や葛藤を超越した姿であるとか、音楽の形態、モチーフ、そういった何もかもが大好き。1曲目のLilac Moon, Reflected Sunたった一つで、その壮絶と超越の美しさを思い知る。神の制裁の如く鳴り渡る雷鳴、何かを失い彷徨い続ける感覚の濃霧、そして狂気じみた激しい混沌…。それは怒りに満ちていて、ボロボロに傷ついていて、どこか残酷的でもあるのだけど、彼女のクラシックと聖歌がずっとそこに反映されてる。怒りも傷も狂気も残酷性も、全てが教会音楽としての祈りとの関連性を持っている。世の中にはこんなに素晴らしいアートがあるのかって思う。私はこの曲を通じて、まるで美しいバケモノと対峙するときのようなイメージを得た。感情表現が現実を凌駕して、何か信じ難い神秘性に到達していくのを覚えた。私にとってDear Laikaの雷はそういうもの。破壊的で限界的な美しさを表した偉大なるアート。もう好きすぎる。そういう内容の曲が、Guinefort's Grave (M2)、Ubi Sunt (M3)、Phlebotomy (M4)、Pluperfect Mind (M9)と他にもたくさんあった。

私的今作のベストトラックは6曲目Black Moon, Lilith。彼女の卓越したアートがリスナーにとって最も満たされる方向に感動を得ていく曲。実験的なカオスの描写がある曲よりももっとシンプルなピアノバラードに仕上がっていて、なんならソウルミュージックに近い性質が感じられる。1曲目のLilac Moon, Reflected Sunで訴えていた痛みや怒りの雷はなく、そこにはどれだけ残酷な現実でも受け入れようとする解放や、何かを大切なものを一生懸命に享受するようなシーンがある。一生懸命になって愛を噛みしめようとする姿がある。彼女の聖歌が、教会音楽が所有する凄まじいホーリーが、それらの全てのメロディーが、愛のために奏でられる。どれだけ痛くても、傷ついていても、一瞬だけでもいいから望むものを手に入れたいという風に。私はこの曲で眼球が終わりそうになるほど泣いた。とてつもない名曲だと思う。Lilac Moon, Reflected Sun (M1)で見せていたような絶望的な負のフィーリングがあったからこそ、そこから一気に反動を起こすようなプラスの作用がある。ラストでDear Laikaのエクスペリメンタルのハードコアの一撃が放たれるとき、その雷が彼女の祈りであるということが本当に信じられなかった。芸術による表現には限界があるけど、それでも彼女は"限界"を表現していた。もうこれ以上ないくらい素晴らしいと思う。6曲目までエクスペリメンタル路線だったのに突然フックを持つように変異したりとか、アルバムの展開的にもヤバいところがある。何度聴いても顔面がぐしゃぐしゃになるような曲。Dear Laika本当に好きすぎてた。

プリペアドピアノの音色を聞いたとき、Kelly Moranとのコラボを疑ってしまった 笑。私の中では "プリペアドピアノ=Kelly Moran"という等式が頭にこびりついてるから。聖歌であるとか、そういうKelly Moran要素であるとか、やっぱり私にとって絶対避けられないような作品だった。教会音楽のエクスペリメンタル的改造、それによる破壊的で限界的な美しさの創造。ArcaみがコテコテなQuinta del Sordo (M8)とかも大好きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3. Indigo De Souza - "Any Shape You Take" (8月)

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「あなたが泣くのを見るくらいなら死んだ方がマシ」

 私がIndigo De Souzaの今作が大好きなのは、飾り気のないとても素直なインディーポップで、まだあどけなさの残るような純粋な音楽でありながら、そこに痛みや死についての感覚を持っていて、拭うことができないような巨大な悲しみを抱えていて、"純粋であるが故の傷つきやすさ"というものをすごく感じさせたところ。一見するとポジティブなフィーリングのロック&ポップスなのに、実はすごく冷たかったり、本当は寂しいのを隠してたり、音楽に投影された彼女のハートはとてもセンシティブな気がして、私に何か耐えがたい感情をもたらすような影響があった。「あなたが泣くのを見るくらいなら死んだ方がマシ (I'd rather die than see you cry)」、Die/Cry (M3)に見られた歌とかがまさにそう。通勤時とかになんとなく摂取するようなスウィートなメロディーのキャッチーなポップチューンでありながら、一般的なインディーポップの曲とは比べ物にならないような激しい影響を与える曲。ハツラツとしててハッピーなのに、どうしても満たされないような負の感情を背負っている気配がする。それは例えるなら、多人数の中にいるのになぜか孤独感に苛まれるような感覚だとか、うまくいってるはずなのに何か失恋したような気になってしまう感覚だとか、思いがけずふと虚しく思ったり、儚く思ったり、そういった類の瞬間。私が彼女の音楽に対して思う、"純粋であるが故の傷つきやすさ"。ものすごく大好きだった。1曲目の17から2曲目のDarker Than Deathへの流れとかもそう。17 (M1)はフローラルな色のシンセポップで鮮やかな色を帯びているのに、Darker Than Death (M2)に入ると寒色系の色をしたものすごくセンチメンタルなイントロに繋がる。彼女はそういった、微妙な心情の、とてもとても正直な人間味を見せる。他のポップチューンでは得られないような私にとって深い共感を覚えるのだけど、本当に愛おしい音楽だって思った。キャラクターがめちゃめちゃ好き。最初はNilüfer YanyaみたいなR&B・ソウル属性のオルタナロックなアーティストかと思ってたけど、それより遥かに正統派の、そして何より純粋無垢のインディーポップだった。インディーポップの曲だけでなく、リスナーをモチベートするエネルギッシュなインディーロック系もすごくよかった。

Real Pain (M5)も言わずもがなの最高ソングだと思う。Darker Than Death (M2)と同じセンチメンタルな導入パート、中盤のいたたまれないような地獄的シャウトのコーラスパート、そしてエモーションを込めて胸いっぱいになるように締めくくるロックのラストパート...。Indigo De Souzaの愛と痛み、4分強の中で彼女の思いをさらけ出す。「叫びたい (I wanna kick, wanna scream)」、メロディーもリリックも突き刺さりまくるような、心に強く残る格別の1曲だと思う。インディーズ界隈でSSWってそれはそれはもうたくさんいるけど、Real Painを聴くとIndigo De Souzaには他のアーティスト達に埋もれない、何か飛び抜けてるセンスの作家性があるんだって信じさせられる。私にとって特別なキャラクター性を持ったアーティスト。Hold U (M8)やKill Me (M10)も超名曲だと思った。

Indigo De Souzaを聴いたとき、インディーポップの醍醐味は純粋性にあるのだと再認識させられた。素敵さであるとかときめきであるとか、そういうものに加え、素直でありのままの、正直な心の姿とか。それは綺麗なものだし、また誰かを勇気付けるような力も秘めているかもしれない。Hold U (M8)のMVで確認できる彼女の姿には、そういった純粋性があった。私が本当に大好きなアーティスト。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2. Ada Lea - "one hand on the steering wheel the other sewing a garden" (9月)

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私もこの歌で自分のことを救いたい。

 音楽の感覚は心臓に残る。それは耳を使わない他の芸術とは違う、より感覚的なものとなって直接身体に記憶される。Ada Leaの今作のdamn (M1)は、私にとってそんな心臓に残る御守りの曲だった。ポツポツと丸みを帯びたギターの雫。澄んだ色をした、空間に綺麗に溶けていくメロディー。"damn the work, damn the music, damn the fun that's missing"、"damn the drugs, damn the friends damn the phone that’s ringing"...。その歌は、仕事にも音楽にも友達にも、この世の全てにうんざりすると、何をどうしても満たされないと歌ったもの。寂しさを覚えるような水色の感情。でもメロディーは、その行き場のない、どうしようもない感情を救ってくれる。音楽が感情の解放の助けになる。このdamn (M1)という曲では、そういう風にしてAda Leaが自分自身のことを救おうとしていたような気がした。どうしても寂しさがなくならないとき、全てが嫌になるようなとき、この歌が傍にいてくれたらどれだけ心強いことだろうか。この曲をずっと心に留めたい。私もこの歌で自分自身のことを救いたい。"damn the mood, damn the people damn the door that’s closing"、終盤でAda Leaの思いが高まっていく。歌に強く強くエモーションを込めて、水色だった感情の歌がブラッディーな美しい赤色を見せていく。このメロディーを、この色を感じることが本当に嬉しくて嬉しくてたまらない。なんて素晴らしい曲なのだろう。もう4分という長さが短すぎる。いつまでもこの詩を口ずさみたい。damn (M1)は私にとってそういう曲だった。

私が思うこのアルバムのめちゃめちゃすごいところは、そんな1曲目damnだけででなく他の曲達も漏れなくめちゃめちゃ最高だというところ。ロックだけど80sなエレポップのカラフルみが楽しいcan't stop me from dying (M2)、ぽこぽこ鳴るギターでほっこり気持ちよくなるoranges (M3)、広大でディープな残響に終始感動するpartner (M4)、フレンチっぽいオシャレフォーク1本でも最強なsaltspring (M5)、ユニークな遊び心がとてもスキルフルなbackyard (M8)、メロディーの咲き方が心奪われるほど綺麗なwriter in ny (M9)、St. Vincentみたいなギターソロの見せ場に思わずめちゃびっくりするviolence (M10)、そして春めいた世界が芽吹くようにAda Leaの温もりをいっぱいくれるhurt (M11)...。フォーク、インディーロック、ドリームポップ、ローファイ、アートポップ、兼ね備えてるものが本当に多い。damn (M1)がナンバーワンソングだとして、ナンバーツーはmy love 4 u is real (M7)だったかも。こちらは臨場感の強い大きな見せ場を持っている、とてもとてもエモーショナルな曲。Angel Olsenみたいなメロウなロックだけど、ノイズの海に思い切りダイブするようなシューゲイザー系の見せ場がある。シンプルなフォークであれだけ強くて、しっかりロックもこなして、メロディックで切ないポップとしてもめちゃ最高なアーティストなのに、それらAda Leamの作家性・センスが、このmy love 4 u is real (M7)一度に堪能できてしまうようなところがある気がする。もうほんと、彼女のよさというよさが詰まりまくってる感じ。そして「Ada Leaってこんなにも素晴らしいSSWなの...??」って思う 笑。damn (M1)以外にも、それに劣らないくらいの大作ソングがちゃんと用意されてた。前作what we say in private (2019)を聴いたときは普通くらいだったのだけど、そこから比べたら今作は私の限界を突破しそうなくらい好きだった。

2021年の"ベスト口ずさみたくなるソング" はSufjan Stevens & Angelo De AugustineのBack to Ozとかかなと思うけど、 Ada Leaのdamn (M1)もかなり好きな詩だった。最初から最後まで歌詞を覚えて心の中でずっとリピートしていたいような曲。要素のピックアップとかニュアンスとか、内容についてもとてもとてもハイセンス。こういう、歌詞が頭の中でリフレインするだけで暇が潰せるような、素敵な時間を過ごせるような曲があるって ものすごく最高だと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1. Water From Your Eyes - "Structure" (8月)

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これほどまでの魔力を体感する

 "Structure"、それは一般的には規則的なピースの連続であるとか、物質と物質の結合、またはそれらの合体の意味なのかもしれない。でも私にとって、Water From Your Eyesの今作が指すその"Structure"とは、何かの世界と世界についての合体の、不気味で複雑な成り立ちを剝き出しにした、驚異的で奇抜な創造物のことだった。そこにある世界、それは日常的な風景、知らない道、曇り空、吸い込まれそうな洞窟、廃墟、非現実的な混沌、未来都市、またはそういった諸々を想起させる精神的な領域...。懐かしく心地よいフィーリングと、押し潰されそうな憂鬱の感覚と、崩壊が持つ死のイメージと、何かを超越したような神々しい存在と、彼らの"Structure"を通じて、私は幾つもの概念と出会っていく。圧倒的な魅力と、圧倒的な感動の芸術だと思う。ニューウェーヴやポストパンクをルーツに、和みまくるクラシカルなバラード(When You're Around (M1))や、不穏なムードのノイズエクスペリメンタル(My Love's (M2))、バラバラに壊れながら狂うポストハードコア(Quotations (M4))、記憶の中で蘇るようなシンセポップ~ディスコパンク(Track Five (M6))が用意されていた。どこのページを切り取っても猛烈に感動するのに、それらの集合体を"Structure"という一つに奇抜なアートで完成させていた。あまりにも素晴らしすぎるって思う。表面的でない、内に秘めた巨大な美しさを持っているようなところが本当に大好きでたまらない。Quotations (M4)とか近づきがたい威厳すら感じられる恐ろしい曲だけど、そういう曲ですら強く強く惹かれていた。暴力的で破壊的なまでに激しいのに、無感覚で命が止まったような冷たさも描いた音楽。この内省的な創造、このインスピレーションの凄まじさは一体なんなのだろう。この恐ろしさの中には、誰も敵わないような絶対的な美の概念がある気がした。それが、Water From Your Eyesの"Structure"の一部だった。アルバムのコンセプトとその構成要素の楽曲単体を両方を捉えて見て、本当に圧倒されまくる。私をめちゃめちゃ夢中にさせる作品だった。

こんなにも素晴らしすぎてるのに、アルバムの中で楽曲がまたがってストーリーを構築するようなQuotations (M4)と"Quotations" (M8)のところにはもう死にそうになってた。暴力的で破壊的なものに隠された、Water From Your Eyesの秘密が暴かれる瞬間。私にはこれが、痛みを感じていた肉体の中にあった魂が転生して、物語の主人公が神にまで至るようなシーンのように感じられる。宗教的なフレーズのメロディーはリスナーのマインドをコントロールするように何度も何度もリフレインされる。鳥肌が止まらない。止まるわけがない。たった一つの音楽で、私はこれほどまでの魔力を体感する。Quotations (M4)のメロディーの改造というか発展というか、原曲に対するアレンジの面で本当に驚愕してた。Quotationsというタイトルと、リリックの内容と、全てにおいて、あまりにも大好きすぎてる。こんな異種のニューウェーブのバンドもいたんだ...。

ストパンク勢、Black Country, New Road、Squid、black midi、本当にいっぱいいるけど、Water From Your Eyesは音楽のカルチャーを特定できないような感じがどことなくCrack Cloudっぽかったかも。ただWater From Your Eyesの場合大人数バンドではなく二人組のユニットで、これもまた特別なオーラが出てるなって思った。アーティスト写真の雰囲気的にいっても私が壮絶に大好きなグループ。(フェイスブックにあるNYラブのTシャツを着たショットがお気に入り)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

プレイリスト

 

Apple Music ↓

温の「2021年下半期の漏れ&逃しのベストアルバム(温)」をApple Musicで

 

Spotify

open.spotify.com

 

 

 

 

「2021年12月ベストアルバムTOP10」感想

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12月の音楽ベスト10を作った...12月まだ終わってないけど...!笑

一つ心残りなのがModern Natureの新譜、フィジカル限定リリースっぽくて(?)サブスクでまだ聴けないのが残念...。(それ抜きにしても最高なアルバムばかりだったけど)

12月17日までのリリースで私的ベストアルバムTOP10、感想をランキングで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10. Quebec Echo - "Not the Lark"

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オシャレなロックって最高...!

 ググっても情報が全然載ってないし、普通にインディーズだよなーって思っていざ聴いてみたらインディーズとは思えないくらいめちゃめちゃ完成されてて笑っちゃった 笑。ピアノを基調としたジャジーでクラシカルなポップスだけど、格式ばったような固さは全くのゼロで、むしろ緊張感など微塵も存在しないような和やかでフレンドリーなタイプのやつ。気品が感じられるようなアンプラグドの丁寧な雰囲気なのに、メロディーはいつも弾んでて楽しそう。そういった古典的でトラディショナルなスタイルをメインとしつつも、チルアウト系からノイズバリバリのロックまでも実は幅広く対応してたりも。メロディーに関してはキャッチーなのに品性が高いからすごく最強の満たされ方をする...笑。安定感とか幸福度とかがトップクラスなのに、大人びた美しさも子供みたいな可愛さも両方兼ね備えた、オルタネイティブな聴きやすさでいっても抜群。もうかなり無敵な作品だった 笑。代表的なところでいえばStop the Presses! (M5)とか。Jens Lekmanっぽさのあるクラシカルなポップスの曲だけど、透明感のあるサウンドスケープとハッピーなフィーリングの二つが相互的に反応するみたいなところがある。ムーディーでグルーヴィーというか、メロウでピュアというか、音楽が持ってるフィーリングの幸せクオリティが半端ない 笑。思えばベルセバとかVeronica FallsとかThe 1900sとか、そういうクラシカルなポップスというのは漏れなく皆最高なのかもしれないけど、Quebec Echoの場合はフィーリングの安定感とか一曲一曲の聴きやすさが特に格別だった。ジャズをベースに音楽をエモーショナルに発展させていくWhen My Baby's Mine (M1)、リラクゼーション特化のAround You (M4)、フュージョンジャズみたいなクリアネスがヤバいFor Someone Else (M6)、トリッキーな遊び心も遠慮ないLabour Day (M8)...。そうやって1曲1曲が強かった。

私的にQuebec Echoの今作のベストトラックはAnother Kind (M7)やResolution (M10)のロック系のナンバー。ここに私が思うQuebec Echoのオルタナ要素の核心があって、Quebec Echoのよさが唯一無二であることを決定してたような気がする。Another Kind (M7)はQuebec Echoのクラシカルなセンスを残しつつ、そこに推進力をプラスしたようなイケイケの曲だけど、私的にいうなれば"オシャレなロック"という感じだった。......オシャレなロックってめちゃよくない??笑。私こういうの本当に大好きです。もともとQuebec Echoの持ってる "大人びた美しさ&子供みたいな可愛さ"っていうギャップが、ロック系のアレンジによってもっとハッキリ表れてる。括り的にいえばTahichi 80であるとかPhoenixみたいなフレンチロックと一緒(Quebec Echoは南オーストラリアだけど)。こういうロックはもっと演ってほしいって思った。そして、Resolution (M10)のフィナーレに相応しい最高にグッとくるロックのやつも素晴らしい。こちらはQuebec Echoの幸福感のエモーショナルさがロックでパワーアップするようなやつ。そんなのどう考えても大好きなんだけど。。。笑。それまでの穏やかさが吹き飛ぶみたいにアツくなってロックしていく。最後まで品よく美しいのに、この曲はそれかつカッコいい。Quebec Echoの基本となっているキャラそのものが最高だけど、それにしても彼(彼ら)のオルタナロックは一段階さらによかった。

シャイニーで爽やかでふわふわなQuebec Echoのクラシカルなポップス、聴くと心が真っ白になるみたいだったし、とても朝型の音楽だったと思う。南オーストラリアのバンドだけど、オーストラリアでの12月リリース→春~夏のシーズンということでめちゃめちゃ羨ましかった。私も春~夏のシーズンにQuebec Echo聴きたい。Another Kind (M7)でテンション上げていきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9. Teen Daze - "Interior"

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永遠の夢を受け取る

 いくつ年を重ねても、10代の頃に抱いた憧れは永遠に続く。夢中になったときの感覚が自己を形成する根本的な部分にまで残るように、大人になってもそのときの夢のことをずっと覚え続ける。Teen Dazeの曲を聴いて泣きそうになるのは、彼がそうやって過去に抱いた夢のことをずっと覚え続けているのがすごく伝わるから。自分のことを虜にした80s初頭のシンセポップ・ディスコのハウスミュージックに対する憧れに馳せるように、その感覚のことを永遠にするようなロマンチックな夢のダンストラックを繰り広げる。この先もそれをずっと大好きでいるために、アンビエント作家としての本気の幻想も込めて大切に描く。もうときめきを通り越して胸がじんじんなるみたいに熱く感動した。全力で踊って楽しむようなクラブミュージックには絶対ない恍惚や愛慕のような感情を覚える。スペーシーでドリーミーだったり、フレンチでアーバンだったり、80s初期のハウスミュージックのビジョンをリアルに見せてくれるけど、その中でもTeen Dazeのアンビエントスキルにはやっぱり脱帽だった。冒頭feat. Joseph ShabasonのLast Time In This Place (M1)から本当に驚くほど引き込まれていく。これから80sのときめきいっぱいなダンスフロアに向かうとは思えないような壮絶かつ果てしない世界観。スペースディスコの"スペース"の部分をむちゃくちゃ誇張したようにも捉えられると思うけど、本当に至高の仕上がりのアンビエントだった。そこから次のSwimming (M2)で、華やかで優しい色をしたエレクトロニックのダンスが始まってゆく。Last Time In This Place (M1)の圧倒的な体験を経て、Teen Dazeの永遠の夢を受け取っていく。すごくすごく最高。この感動は1曲目の最強のアンビエントが利いてるからこそだと思う。それ以降も、80sハウスをトリッキーにアレンジして遊び尽くしたようなNite Run (M3)、大スケールのストーリーの中でTeen Dazeの最強の魔法を堪能するNowhere (M4)、広大な音の海にダイブするような恐ろしくも美しいStill Wandering (M6)などなど、終始素晴らしいアルバムだった。

そんなTeen Dazeのロマンチックな夢のダンスフロアで、私がたまらないほど幸せだった曲が表題曲のInterior (M5)。私が思う、今作で一番ダンサブルなナンバー。80sに対する憧れを表現するような遠く切なく響くサウンドなのに、曲自体はエネルギーを握りしめたような躍動を持ってる。まるでTeen Dazeの憧れに対して情熱が宿ったようなロマンチックさのエモーショナル化。こんなの絶対に素晴らしいって思う。ただでさえダンストラックとしてのグルーヴ的クオリティとかカッコよさとかがハイレベルなのに、Teen Dazeの今作におけるコンセプト的なよさのプラスもすごい。このInterior (M5)もかなり大好きだった。

Teen DazeのThemes For Dying Earth (2017)は私の2017年の年間ベスト音楽に余裕でランクインするほど好きなやつ。今作はアンビエントというより、Teen Dazeなりの80sハウスというダンスにしっかり着実な作品だったって思うけど、コテコテの80sなNeon Indianっぽさ、とてもモダンなエレクトロニカ~EDMのマデオン・ポタロビ系サウンド、サンプリングの風景描写、アンビエント以外に本当に色々持ってたなって思う。ジャケット含め、アルバムを通じて描きたかったこと、伝えたかったことが明確なコンセプトがよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8. You Said Strange - "Thousand Shadows Vol.1"

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ハイスペックなロックンロール

 ロックンロールは反抗の表現だとして、"何に対する反抗か"というところはバンドによって個性があると思う。例えばイギリスの労働階級の人たちによる不満発散型のポストパンクだったり、逆に不満やその他負の感情と対抗するようにして自身のハピネスを求めた元気モチベート型のロックンロールだったり...。You Said Strangeは、その不満発散と元気モチベートの色をどちらも併せ持ってるようなロックで、一つのアルバムに込められた意志が濃い、とても存在感の強い作品だったと思う。闇に覆われたような雰囲気のアングラ感、ヘイトフルな思いを抱えたような危険じみた興奮、だけどフランツの腰の入ったダンスのディスコパンクっぽさだったり、テンションを高めるようなアッパーなフィーリングもよく感じさせる。ジャケットで示された黒と赤のカラーのことがよく理解できるような音楽だと思うけど、芯の強い本格的なロックの意志を持ってるところが超カッコいいし、何より魅力的な要素を複数持ってるようなバンドとしてキャラクターがもうすごくすごく大好きだった 笑。メンバーの写真覗いただけもうよすぎてて惚れ惚れするのだけど、1曲目のMourning Colorsから案の定アタリだった。アングラでめちゃめちゃクールな曲なのに、途中サックスで洒落たバイブスの空間が演出されていく。You Said Strangeならではの不満発散と元気モチベートのダブル。ギターもドラムもボーカルも何もかもが本格的なポストパンクのそれ~!って感じだし 笑、ダークなのにアゲアゲな楽しさもよく堪能できるという。ほんと、バンドとして持つ作家性がハイスペック。今作のハイライトになるような完成度のMediterranean (M4)、短い曲の中で彼らの技術やセンスがいかに優れてるかが表れてるようなTalking To The Rats (M5)、8分と長くても最後まで安定して素晴らしいLanded (M8)...、どのトラックも傑作。曲によってはアクモンみたいな鮮烈のUK的ロックンロールに似た印象があったりもする。2021が特別な年なのか、私の音楽鑑賞の感度が変になってしまったのか、またはただの運なのか全然分からないけど、「またまた最高なバンド見つかったよ、、、」ってなった 笑。

You Said Strangeの今作はギターのよさも頭一つ飛び出てる気がした。代表的なところだとやっぱり3曲目のThousand Shadows...。こちもYou Said Strangeの本格的なロックンロールのナンバーだけど、楽曲後半に出てくる長尺ギターソロのクオリティが...!!笑。Tame ImpalaのCurrents (2015)とかみたいに特殊でない限り、最近だとオーディエンスを惹きつけるようなギターの見せ場というのは数的に少なくなってるのかなという気がしなくもないけど、You Said Strangeのこの曲はギターでちゃんと勝負できるような曲だと思う。シンプルながらもテクニカルですごく熱の籠ったフレーズ。You Said Strangeがロックにできること、ロックでやりたいことを100%成してるような大きなシーン。カッコよすぎてヤバい!!笑。演奏してるときのモーションとか汗とかが伝わってくるような臨場感がさらに興奮を掻き立てる。You Said Strangeの今作における、私の紛れもないベストトラックだった。

エレクトロニックとかの飾り付けなしのシンプル・オブ・大好きロックンロール。You Said Strangeを聴いたとき、「結局こういうロックが1番最高なのではないか…?!泣」みたいなことを思ってた 笑。フランスのグループということだけど、メンバーが兄弟や幼馴染で構成されてたり、仲良そうなところもめちゃめちゃ萌える...笑。私にとって無視できないようなバンドだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7. Worst Party Ever - "Dartland"

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走りながら解放的に演奏する

 なんとなく寂しかったりつらかったりしても、足を運ぶように前へ前へパンクする。特に目的地もないけど、どこかへ駆け出していくように音を奏でる。Worst Party Everは、その走ってる瞬間の解放ことを抱きしめるようなエモのバンドなのだと思った。テイストはCamp Copeみたいな甘酸っぱくて切ないインディーロックにも似てて、ときにアメフトみたいに雪のようなサウンドクリーントーンを放って、曲によってはTouché AmoréのStage Four (2016)みたいに春一番の強い風を発生させるように疾走していく。私の中で景色が移り変わるように音楽が動いていく。それは彼らなりの負の感情に対する反抗で、冒険的でドラマチックで、心満たされるような喜びについての音楽なのだと思った。もうめちゃめちゃ大好き。私的インディーロック・パンクの好みのストライクゾーンに余裕で収まってる感じだし、感情をありったけ発散するようなパンクなのにとてもとても美しい。バンド名とかメンバーの人間的なキャラでいえばPUPのような精神面も感じさせていたけど、それは後悔だとかやるせないような気持ちが激化するようなエモではなく、何かに思い馳せるような、心奪われる没頭があるというエモ。8曲目のAwlydとかマジでそう。エモはエモでも花が満開に咲き誇るような春型のエモ。ドリーミーで柔らかいサウンドスケープ、出会いや別れのことを連想させるフィーリング、そういった世界とドラマ。それらを加速させるように走りながら解放的に演奏していくということ。Worst Party Ever本当に素晴らしいって思った。Horse Showもそうだけど、12月になって春のことをめちゃめちゃ恋しくさせる作品にこんなにも出会うのはなんでだ 泣。そういうWorst Party Everの素晴らしいエモが、Prism on a Window (M1)、Where’s Jack? (M4)、Talk (M6)、New God (M10)、Natural (M11)とあった。どこかへ走るように音を鳴らして、その解放に満たされていた。Talk (M6)に関しては超最高なのに曲が短すぎて置いてけぼりにされた。

ラストのInto the PÜR (M12)はさらに感動的。全体的に春っぽいWorst Party Everの曲の中で、この曲は唯一センチメンタルに心惹かれるクリスマス的イメージがある曲だと思う 笑。それまでではエモとしてのエネルギーがスピードやモーションに対して働いたけど、こちらは楽曲のスケールに対するエネルギーの働きがあるタイプ。甘酸っぱいフィーリングも、雪のようなサウンドも、空間的に拡張するようにダイナミックになっていく。音を鳴らす解放のことをもう一段階大きく見せる。2分しかないのにめちゃめちゃ満たされてた。メロディーがフックを持ってるのがすごくすごく効いてて、もはや私のことを泣かせに来てる。まさしくラストにもってこいな一曲だった。

Worst Party Everの今作、12曲も収録してて25分以下......いやもっと演っていいよ??笑。PinkPantheressみたいにTikTokやサブスクの発達故にコンパクト化した作品もあると思うけど、でもWorst Party Everのエモの短さはそういうのじゃなかった気がする 笑。そういう観点でいえば、Provenance (M3)やIn Chamber (M5)の比較的長いやつが嬉しかった。そう、In Chamber (M5)もインディーロック系で最高の名曲だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6. Horse Show - "Falsterbo - EP"

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"ネオアコ×ポストパンク"

 ロックは感情の強化だと思う。喜怒哀楽、希望や絶望のフィーリング、憎しみであったり、誰かへの愛の感覚も。Horse Showがロックで強化した感情とは、まだ涼しさの残る、それでいてオーガニックで暖かい、春みたいなフィーリングのたまらなく素敵なものだった。音楽的特徴でいえばまさに"ネオアコ×ポストパンク"。ギターのテクスチャであったり、コンパクトなドラムの感じであったり、音の存在感とかタフネスとか、音楽的スタンスはポストパンクらしくあるのに、その上でサウンドが半透明化して、儚さを帯びて、もっともっと胸を締め付けるようなフィーリングを獲得したようなイメージ。ロックとしての熱エネルギーが全部ドリーミーなものに変換されるタイプのやつ。もうそんなの絶対に最高だから、、、笑。DIIV、Wild Nothing、Beach Fossils、心奪われるような幻想性を持ってるロックのそれらと同じ。特にHorse Showの場合、ネオアコ的空気感のグレードの高さとかはもちろん、そういう類の中でもポストパンクとしてのカッコよさがピカイチなバンドだったって思う。1曲目のUsed Toから傑作すぎ。前のめりになって行きながら美しくロックする曲で、回転力・推進力を大きく生み出すドラミングにギターが熱く反応していってる。フレーズもキャッチーでかつ心地よく、ロックが持つ熱エネルギーのドリーミー変換が最大にまで効いてる感じ...。どう考えても大好きにならざるを得ない。。。笑。しかもジャケットの春めいてる光景であったり、スウェーデン出身(アルバムのコンセプトもファルステルボってスウェーデンの町)であったり、音楽以外のところでいっても憧れをさらに喚起させるような畳み掛ける大好き要素があった 笑。ドリーミーな音楽って2010年代からもうずっと飽和してて、似たような作風のバンドは私の知らないところでも数多にいると思うのだけど、それにしてもHorse Showのポストパンクはマジで最高だなって思う。

4曲目のShameなんかもとてもよかった。自然をモチーフにしたジャケットで、ネオアコ的透明感も豊かな作風なのに、ポストパンクらしいダークネスも垣間見えるような曲。まるで一曲の中に光が当たってる場所と影になってる場所がそれぞれ混在しているような、一筋縄ではいかない異質な世界観。感情的に言っても何か泣けてくるようなサッドネスもある。こういうところもDIIVやWild Nothingにはなさそう。まさしく私の中の"ネオアコ×ポストパンク"っていう感じだった。やっぱりどう考えても最高。それは他のドリーミー音楽とは一緒に扱えない、私にとって新しいロックだった。

今年11月にデビューEPをリリースしたMandy, Indianaとかもそうだけど、Horse Showの今作を聴いて「EPじゃなくてフルレングスを出して~!泣」ってほんとにほんとに思った 笑。このクオリティで5曲収録はもったいない(?)気がする。情報チェックしてみたところ、もともとメンバーそれぞれが別のグループで活動してて、Horse Showが今作で初めての音源化らしい。ということはスーパーバンド的なところでいってもスペシャル。何より、私的に春のセンスがとても強い作品で、もうクリスマスとかどうでもいいって思いながら、暖かい季節のそれに思い馳せるようにしてひたすらエモくなってた...笑。春が来るまではファルステルボの町を画像検索しながら聴く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5. Dead Best - "Dead Best"

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最高にいい意味でいい加減

 とあるアマオケのフルート奏者が「カッコイイとダサいは表裏一体」ということを言っていた。結局表現を感じ取るのは個人の主観100%なのはもちろんだけど、確かにカッコイイとダサいは相反するようで密接な関係を持ってると思う。でもダサいには、ただのカッコイイでは到達できない楽しさがある。私にとってDead Bestは例えるなら、そんなカッコイイとダサいの楽しさを両方兼ね備えたような、笑いが止まらなくなるくらい最高なガレージロック・パンクだった 笑。こんなにゲラゲラ笑うほどテンション上がる作品もなかなか珍しい気がする 笑。それは先月のOvlovみたいな、ガレージロックの生々しいギターノイズが感情描写として感動的なものになるようなやつとは違う、何事について もっとどうでもよさそうな、シンプルにガンガンに攻めていく、最高にいい意味でいい加減なパンク 笑。曲が短すぎて1曲ループに設定して聴くのだけど、例えばDeaf, Dumb, And Blind (M3)とかすごく最高。コードのパターンが二つくらいしかなさそうなテキトーのロックンロール。テンポ感は高速だけど、何かを目指すようにして真っ直ぐ進むようなものではなく、「あーはいはい...」ってやる気の無さゆえのテンポの高速化という感じ 笑、マジでめちゃめちゃ楽しい!!ローファイ的処理でゴミゴミわちゃわちゃしてるボーカルなども合わせてそう。けどギターに関してはしっかりロックンロールでちゃんとカッコいい。そういう精神がジャケットの時点で抜け目なく表れてた。精密なビートで激しくダンスするようなエレクトロニカ類では出せない、もっと人間らしいダルさとかテキトーさの性格...。ハードコアっぽいドスが利いてるThe Lure (M8)、ドラムがメタルみたいになってて忙しそうなHaunt You (M11)笑、いちいち「曲短っ!」ってなるけど 笑、それでも私の中でめちゃめちゃよすぎてるハイテンションパンクだった。

今作とっておきの一曲はやはりなんといっても4曲目のZombies of Love...!、この曲の神っぷりといったらもう、、、笑。ドコドコドコドコ...♪って超絶に楽しいドラムのグルーヴ、そこに軽快に音をハメていくギターのコンビネーション...。ダサいとかダサいとか どうでもいいとか、ガレージ系音楽の基本的な本質を体現したような、ハピネス量が凄まじいやつ。そこに今作一メロディックな旨味をのっけるというこの完璧っぷりよ......マジで大好きで発狂しそうになる 笑。もともとDead BestのギターはQOTSAとかみたいな低音の太いハードロック系の音がしてたけど、そういうギターの重厚感みたいなところもこのZombies of Love (M4)ではよさに大貢献してる。この曲の2分半のたった一つだけでも十分にベストアルバムだった。時間的ボリュームはないけど内容的な密度でいったらとてもヘヴィ。Zombies of Loveは気分上げていきたいときに是非もってこいな曲だし、しばらく何回も聴くと思う。

Dead Best、何かに似てそうだなと思ってたのだけど、私的にはDope Bodyなんかを連想した。ノイズロックからポストハードコアにも少し寄ってそうな作風のやつ。自分が今年(最近)聴いてきた音楽の中でも、ここまでストレートでハードなロックは久しぶりだったかも。QOTSAとか、またそっち方面も少し聴きたくなってきた。(って思って振り返ってみてたらModest Mouseの新譜とか聴きたくなってきた)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4. Mario Batkovic - "INTROSPECTIO"

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一生懸命になって闇を奏でる

 例えば架空の映画のためのサウンドトラック。The Cinematic OrchestraのMa Fleur (2007)や、最近であれば青葉市子のアダンの風 (2020)。音楽の物語を堪能することは、ときに漫画やその他映像作品と同等の鑑賞になり得る。Mario Batkovicの今作も私にとってそういう類の作品だった。クラシックから電子音楽までカバーした映画音楽的作曲性の濃いインストゥルメンタルのエクスペリメンタルの、この上なく魅力的な闇の概念の芸術化。教会での神格的な儀式、革命のような戦争、地獄と宇宙、そして黒魔術...。アコーディオンを主体とした高貴な印象が強いけど、憂鬱や恐怖、または激高や狂気、それらの混沌、闇というものが所有するあらゆる負の要素が音楽に繋がってる。そしてそれらをドラマチックに、威厳を作るように、悲壮の思いを込めて表現する。闇の概念を物語化し、リスナーの中で世界を与え、音楽が感情的な作用以上のものをもたらすということ。それはまるで、自身の闇の力を解き放つための音楽で、同時に人間が持つ闇のことを愛するためのような音楽。なんて素晴らしいんだろう。神殿の扉が開かれるようなオペラの1曲目SANATIO (feat. Cantus Domus Choir)でアルバムが幕を開け、2曲目のREPERTIO (feat. Clive Deamer & Mxlx)でMario Batkovicのアコーディオンが呪文を唱え始める。ドラムが火花を散らすように燃えるその様子はどことなく地獄的かもしれないけど、アコーディオンの呪文は何か尊いものを秘めている。怒りのフィーリングの裏に物語が抱えたもう一つのリアルがある。混沌というものにこれほどまで惹かれていく自分のことが信じられない。生理的嫌悪感とかを狙ったエクストリームなハードコアなど、人間の闇を思う存分吐き出すような作品はこの世にいくつもあると思うけど、Mario Batkovicの今作は全くそういう類のものではない。もっと解釈できない、近づくことのできない美しい複雑性を持った芸術。そして何より、人間の闇の存在を大切に見せるような作品。建造物のようなジャケットの中に入りこんで、自分だけが思い描く壮絶な物語を体験する。とても大好きなタイプの作品だった。2曲目、3曲目、4曲目、世界観が様々なところもすごく秀逸。

中でもfeat. Colin StetsonのQUIS EST QUIS (M4)の凄まじさは、私の理解を遥かに超えたものがあった。それはMario BatkovicのアコーディオンとColin Stetsonのサックスを激しく交錯させて描く黒魔術。音楽の魔法を信じて、自分達の力を注ぎ込んで、まるで何か生贄を捧げるように、一心不乱になって闇を奏でる。闇を必要として、闇に憧れて、闇のことを一生懸命に愛そうとする。どうしてそんなことができるのだろう。私はこの光景を、この現実を、到底信じることができない。それはまるで、グロテスクであるとか、死であるとか、殺意であるとか、闇というものに関連する全ての事柄を肯定するような姿。循環呼吸の奏法で無限に音を並べ、命を懸けるように必死で闇を描いていく。この祈りは一体何なのだろう、そしてこの音楽の物語が秘めた概念とは一体何なのだろう。闇についてこんなにも惹かれたことはない。闇のことをこんなにも大好きになったことはない。MarioとColinの二人の黒魔術のシーンは、私にとってそういうものだった。私にとって未だかつてないほど、そういうものであった。真っ黒な邪気が辺りに立ち込めるようなバスサックスの響き、楽器の音色なのか声音なのか認識できないような魔物の呻き、Mario Batkovicのアコーディオンによる教会的で神殿的な世界も印象強いけど、感触的に言えばほぼColin Stetsonの曲だった気がする。彼の新曲を聴けたみたいで嬉しかったのはもちろん、まさか二人のコラボレーションがここまで驚異的なものだなんて本当に知らなかった。

闇を愛するということ、似たもので言えばThe KnifeのShaking the Habitual (2013)とかそうだったかもしれない。薬物を過剰摂取して狂っていくようなフィーリングですら美しいと思えてしまうようなもの。芸術にはそれができる。芸術がリアルであればあるほど、芸術が描く理想は力を持つのだと思う。Mario Batkovicの奏でる闇は本当に素晴らしかった。他のコラボアーティストも見事だった。でも何より、Colin Stetsonの曲がほんとに嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3. Various Artists - "The Way We Descend"

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イメージをこの手に

 "The Way We Descend"、ドイツのレーベル(arch)がプロデュースしたアーティスト9組によるコンピレーションアルバムの本作は、彼らが音楽の神秘的な創造にどうして夢中になるのか、音楽でしか叶えられない現実逃避が彼らにとってどんな意味を持つのか、そういったものを体現した作品だったと思う。アンビエントIDM、エレクトロアコースティック、数々の非現実について保存したエクスペリメンタルのコレクション。Paule Perrierは神話のような宗教音楽で魂の存在について表現するように(M1)、Samu Gokuは秘境の地で見つけた幻の景色を描くように(M2)、John Gürtlerは極限や無についての精神世界を極めるように(M3)、Toxido Maskは宇宙や永遠の概念と深々と向き合うように(M4)、P. Lopezは音と心の共鳴によるエネルギーと命のことを崇めるように(M5)、Flaminiaは地底に奥に眠る地獄的な力を獲得するように(M6)、BnjmnとMandingoは音楽によって瞑想の集中力を深化させるように(M7, M8)、そしてR. Kittは秩序と混沌の不可分の関係を愛して世界を受け入れるように(M9)...。それは紛れもなく、とてつもない喜びであった。誰も手が届かないような、自分だけのかけがえのない理想に接近するということ。例えどれだけ非現実的な観念であったとしても、音楽の実体化によってそのイメージを自分のものにするということ。それが彼らの、"The Way We Descend"であったのだと分かった。もう半端ないくらい好きだった。その喜びは、非現実的なものを通じた自分と現実についての享受であるとか、自己を再発見するような記憶とマインドのトリップであるとか、あるいはそういった人間の内向性の価値に気付くことの音楽でもあったと思う。そういった理想や芸術的なものの数々が、アーティストそれぞれの力強い9曲に落とし込まれてる。カセットテープのカバーを正方形に逆トリミングしたエメラルド色のジャケットは、神秘的なものの象徴以上にそれらのアートの創造の偉大さと恐ろしさも物語っていたかもしれない。ものすごく素晴らしかった。参加してるアーティストみんな全然知らなかったけど、電子音楽の崇高な傑作の一つだって思った。

3曲目Evol Si Elpmisから5曲目Klrまでのコンボがとりわけ素晴らしい。もう好きすぎてどうにかなってしまうかと思った。Evol Si Elpmis (M3)は映画音楽家のJohn Gürtlerによる音響エレクトロニカ的な一曲で、繊細で多感なサウンドがリスナーの奥底まで影響していくような曲。放心してしまいそうになるほど音楽が持つミステリーと引力が大きいのだけど、その中でずっと伸びるように響く音の存在がたまらなく美しい。続いてのToxido MaskのArtemidorus (M4)は、それまで多感だったサウンドがさらに巨大化したような曲で、リスナーを飲み込むようなスケールのホールを発生させる。この浮力の威力は本当に凄まじいと思う。"The Way We Descend"の恐ろしさがこの曲でもっと高まっていた。そこから次のP. LopezのKlr (M5)では、あまりの素晴らしさにもう意識が飛びそうになってた。繊細さも幻想性も何もかもが激しく重く大きくなる。それまでになかったエネルギーの共鳴が生まれていく。もう鳥肌が止まらない。空間的な創造、感情的な影響、これこそ、他の芸術では成し得ない、音楽だけでしか叶えられない現実逃避であると思った。P. Lopezが愛した音楽による理想のアクセス。私的にはJon HopkinsのMusic For Psychedelic Therapyの6曲目とほぼ同値。アーティスト達の"The Way We Descend"が、私にこの上なく伝わった。もう大好きで大好きでたまらなかった。このP. Lopezは別名Ariel Me llamoというアーティストらしいけど、もしこの人が別に作品を制作したら絶対聴きたい。他の曲も最高だったけど、やっぱりこの3曲目~5曲目はもうめちゃめちゃに格別だった。

今作はもともとカセットテープ媒体のリリースだったみたいだけど、サブスクのジャケットにするときそれのカバーを開く形で正方形化にしたのもすごく好きだった。カセットテープはカセットテープでまたいいし、正方形型のアートワークもユニークで最高に魅力的だと思う。また今作はV.A.のコンピレーションというところも言わずもがな特徴的だけど、知らなかった個性的なアーティストを知る上でもとても有益な作品。私的にはJohn Gürtlerとか今回知れてよかった。Ariel Me llamo (P. Lopez)に関しては今後も音源絶対追っていきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2. Father Figuer - "Jack of All Fruits"

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真理

 Father Figueの音楽は、流動や揺らぎについてのスロウコアで、水の感覚のシューゲイザーで、メランコリーの中を漂流するファンタジアであったと思う。メロディーが液体状に溶けるようにして浸透していくとき、自分の中の水の感情を知る。飲み込まれていくような、沈んでいくようなフィーリングスを、逆らうことができない恐怖と安らぎを、それらの神秘と恵みのことを知る。それは私にとって、自分の中にある悲しみの存在を見つけることであった。自分自身の愛することができない部分、消すことができないような憂い、自分の中にある悲しみのことを見つめることであった。Father Figueの音楽は、そこにある真理を見せる。自分が水の感情を所有していることを、ありのままであることの尊さを、自分の魂が無罪であることを教える。この音楽は、一人の人間の魂を救うような芸術であると思う。私は彼らの曲を聴いて、私がこの世で1番尊敬してる、この世で1番憧れてるEmily Crossと同一の信念を感じた。ホーリーなもの、スピリチュアルなもの、自分よりもっと大きな存在のことを信じる、安らぎというものを永遠に追い求めるような生き方。改めて鑑賞したら、死んでしまいそうになるくらい自分が好きな作家性のアーティストであった。水の感覚が流れていくとき、神秘や恵みの音が奏でられるとき、Father Figueの音楽が私にその真理を見せる。Apathy (M8)とか尋常じゃない。水面に映る波紋を描くようなメロディー、零れるような三拍子。メランコリーの中で振動する音の余韻が、自分に水の感情を持っていることを実感させ、自分の感情との反応を起こしていく。ありのままの尊さを呈する芸術。絶えず、絶えず美しい。悲しみにここまで夢中になれるとは思わなかった。自分の悲しみのこと、こんなにも愛することができるなんて思わなかった。その事実が何より嬉しいと思う。この音楽がここに在ることが、本当に本当に嬉しい。聴けば聴くほど好きになる作品だった。もう抜け出せないほどハマってしまった。

水についての音楽アートといえば、今年であればDolphin MidwivesのBody of Waterとか絶対に無視できない。でも、Father Figueが奏でていた水の概念は、エクスペリメンタルやアンビエントであるよりずっとロックだった。それには人間の情熱が宿っていて、音にわずかに血液が流れているようで、生々しい感覚のとてもエモーショナルなものがあったように思える。Sink (M3)、Ghost (M5)、Rerto (M6)、そういったロック的要素をふんだんに含んだナンバーも素晴らしい。中でも特に、アルバムリリース前からシングルカットされていたGarden (M7)については別格だったと思う。1曲目ChokeやApathy (M8)のようなリードトラックとはまた別方面でよさを確立した、シューゲイザー・ギターロック系の一曲。音楽が大きく動くようなシーンがとてつもなく感動的なのだけど、ギターが放った音が空間に残るようなその様子は目を疑うほどの絶景だった。心臓を鷲掴みするような、驚異的な美しさの瞬間があった。今まで見せていた水の幻想が姿形を変えるとき。こんな感動ありえないって思う。思い出しただけで胸の奥がギュッとなって泣きそうになる。聴けば聴くほど好きになる作品だったけど、まさかここまで素晴らしかったとは最初気付けなかった。Garden (M7)→Apathy (M8)の連続が本当に大好きすぎてヤバすぎる。

『鏡がひび割れたり、覆われたり、ねじれたり、失われたりすることがあっても、重要なのは見続けること。自分のことを100万回見つけることは、100万回の人生を生きることである』。Father Figueのコメントの内容を解釈したとき、自分の中で何かが爆発しそうになった。あまりにも大好きで気絶しそうだった。『好奇心は己を潰す』ってどこかの偉人が言ってた気がするけど、「大好きなものが大好きすぎると死んでしまう」ということには深く共感する。私的にFather Figueの音楽ではそういう状態に陥っていた。音楽の内容、作家性、作り手の想いと願い...。ジャケットの「果物が地面に転がっている」という絵的な説明一つ取ってもとてもとても芸術的。もともとVondelparkであったり、"水の音"というものが個人的に大好きであったのだけど、Father Figueはその大好きの塊のような音楽だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1. Aeon Station - "Observatory"

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痛いほど伝わる

 何かを表現するのは、芸術を創るのは、音楽を鳴らすのは、誰かに伝えたいことがあるから。信じたいこと、信じてほしいことがあるから。それは不特定多数の人に対する単なる自己顕示かもしれない。また、誰かに分かってもらえるように表現することで、自分の中の思いを巨大化させたりするのかもしれない。14年かけて制作したAeon Stationの本作は、Bruce Springsteenと似た性質のアメリカンなロックで、同時にBroken Social Sceneみたいに音楽的スケールと充実性に富んだオルタネイティブのロックだった。アートワークのように開放的なスカイブルー色をしていて、遠くまで広がっていて、どこか懐かしくて、切なくて、それでいて自分にとってかけがえない思い出を握りしめるみたいに、自分のことを強く信じるような、そんなような音だった。追憶的バラード、願いを込めたフォークソング、そして心が震えて止まらなくなる激情のギターロック。Aeon StationことKevin Whelanの伝えたいことは、それらによって実感できる満たされる感覚のこと、悦びのこと、それらの心の存在のことだったと思う。どうしてもそれを伝えたいのだと思った。例えそれが、届けたい人に届かなくても、感じてもらえなくても、一生懸命にガムシャラになって、心のことを伝えようとしていた。だから、痛いほど伝わる。閉ざされた心を呼び覚ますように、止まっていた感情を動かすように、「これでもか、これでもか」と悔しさも込めながら、私に精一杯ぶつけるようにロックを鳴らす。きっとこれは、Kevin Whelanの悲しみでもあると思う。何かを願うこと、祈りを捧げることは、一種の悲しみの表現だから。その悲しみの共感が、私のことを癒すように作用した。私が心に負った傷に対して、「これでもか、これでもか」と、力いっぱい癒すように影響した。初めて8曲目のAirを聴いたとき、鑑賞後も絶えず涙が止まらなかった。まるで私が共感を感じて受けとめるための感覚器官の機能が限界に達するような体験で、壊れそうなほど感動した。私がこの世で1番好きなロックは例えばBroken Social Sceneの7/4 (Shoreline)とかなのだけど、どれだけ自分の人生が不完全であっても、それでも自分の人生が最高だって、ありがとうの気持ちでいっぱいになるように満たされる瞬間を刻むロックのこと、私はこの世界で一番愛してるって思う。そういう曲を死ぬまでずっと聴いていたい。私にとってAeon Stationの今作のAir (M8)もそんな曲だった。それも、その満たされる感覚のことを一生懸命に伝えようとするロック。もう命尽きそうなほど好き。この世で一番ロックなものは何かと聞かれたら話は別だけど、私がこの世で一番好きなタイプのロックの曲だった。

Observatory (天文台)というアルバムのテーマは、Kevin Whelanと彼の自閉症の息子との関係から着想を得たという。制作の14年分の人生、息子に対して伝えたい想いが募りに募ってアルバムになったのだと、楽曲の感情からそういう事実が伺える。私にとって、このテーマはとても普遍的なことだと思った。例えば自分の大切な人が亡くなってしまったとき、それでも自分の想いをどうにかして届けたいと願ったり、亡くなっていないとしても、別れてもう二度と会えないかもしれないという人とかに対してもそう。対象は誰であれ、「どうしても伝えたいこと伝えようとする」という作品。このアルバムは、全ての曲にそういうドラマを持っていた気がした。2曲目のLeavesも私の胸を深く打つ。隠れているもの、見えているもの、私とあなたとの間にある全て(And it’s all the in-between-us from what we hide to what we seem)、じっくりと時間をかけるように、エモーショナルなエネルギーの花が咲く。離れ離れでいても想うことを絶対に止めない。彼がロックを鳴らす理由が分かった。彼の信じたいことが何か分かった。だから、痛いほど響く。身体が割れそうになる。私にとって、とても強い音楽だった。強烈なロックだった。Fade (M3)であるとかQueens (M6)であるとか、他の曲でもやっぱり泣いてしまった。とてつもなく傑作のアルバムだと思う。

The Wrensの2003年作を聴いたときはまぁまぁいいなーぐらいの好みレベルだったのだけど、今作のKevin Whelanのソロの方はそこからするともうありえないくらい素晴らしかった気がする。The War on Drugsといい、2020年代でもホープフルなアメリカンロックが引けを取らない。特にAeon Stationの今作は、本当に泣きすぎて眼球がズキズキと痛かった。本当に本当に大好きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

プレイリスト 

Apple Music ↓

温の「2021年12月ベストアルバム(温)」をApple Musicで

 

Spotify

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「2021年11月ベストアルバムTOP10」感想

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今年も残すところあと1ヶ月...2021年ありがとう...ってしみじみ思いながら大好きな新譜をまとめてた 笑。来月は"「2020年下半期『月間ベストアルバムTOP10』から漏れてしまったベストアルバムTOP10」感想"も書こうかなと思う。

今月のスーパー大好きな新譜TOP10の感想をランキングで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10. Mr Twin Sister - "Al Mundo Azul"

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無敵の幸せオシャレ

 もし私がこの世で最も美しいものは何と聞かれたら、Mr Twin SisterのMr Twin Sister (2014)って答えると思う。私が思う、この世で最も美しい音、最も美しい形をした音楽。冗談抜きで、私が死ぬほど好きなアルバムの1つ。彼らのオルタネイティブロックには、Twin SisterからMr Twin Sisterへ改名後は特に、シティポップやジャズフュージョンに宿る高級感やエレガンスをこれ以上ないほど抽出したみたいな作家性があって、細部の細部まで精製した彫刻品のような、息もできなくなるほど心奪われるものがあった。(彼らの音楽で私が今までに何度窒息死しかけたことか...。)今作Al Mundo Azulは、そんな芸術性・美術性を極めたみたいなMr Twin Sisterの音楽スキルでもって、それらをハイレベルなオシャレのために注力したような、前衛的でとてもアーティスティックなダンストラックになってたと思う。ボーカルAndrea Estellaのメロウで高尚な歌声、艶やかなサウンドのテクスチャ、信じられないほど綺麗な透明感を放つサウンドスケープ...。それらの特性がグルーヴィーなダンスのアレンジによってイメージを変化させ、よりファッショナブルでよりポップな方向へ発展したみたい。美しさのあまり窒息しそうになるMr Twin Sisterの感覚は変わらず、その上で音楽がポジティブなモチベーションを獲得したような感じもする。こちらの作風でも たまらなく贅沢な幸せがあった。。。笑。2曲目のExpressionsとか本当にヤバい。Mr Twin Sisterの艶やかさ・透明感がさっぱりとしたシャイニーさを生み出す瞬間。心が隅々まで浄化するサウンドなのに、ベースのスラップはダイレクトにリスナーを弾ませ、ファンクやディスコのステージみたいに盛り上がっていく。Mr Twin Sisterのパーティーが始まる。あまりの幸福度にため息が漏れる。前作Salt (2018)の1曲目Keep On Mixingでもフロアをバチッバチにアげていくクラブミュージック性があったけど、今作のExpressionsはそれより幸福感が特化な仕上がり。私の中ではNatalie Pressと同じ無敵の幸せオシャレソングで、ほっこり過ごしたい朝とかにリピりまくりたい曲。実はMr Twin Sisterの本作はリリース前に楽しみすぎて夜も眠れなかったのだけど、実際このExpressionsで「ありがとうございます...ありがとうございます...」ってなってた 笑。美的なセンスのハイレベルなオシャレへの応用。6曲目のBallarinoとかもヤバかった。

ポジティブなモチベーションのダンスポップ、全体で見れば今作はMr Twin Sisterのテクニカルなところ(遊び心)が遠慮なく全開のアルバムだったなと思う。Fantasy (M1)ではスパニッシュなテーマとよくマッチする情熱と華のサウンドがしたり、Carmen (M4)はクラシカルなディスコなのにフレーズがやたらセンセーショナルだったり、Polvo (M7)では歌がずっとスペイン語だったり...笑。音の選別、曲単位で多岐に渡るコンセプト、全曲においてどこかに必ず独創性とトリッキーさが見いだせる感じ。Mr Twin Sisterが秘めていたエクスペリメンタルさがもっと吹っ切れたような楽しさ、前衛的でとてもアーティスティックなよさ、これもまた今作の贅沢なところだと思った。10曲目のDespoilとかも、Mr Twin Sisterにしかない至極のクリアネスをトリッキーなダンスポップに使ってて本当にテンション上がる 笑。前作Salt (2018)の延長的なところもあるような、作風の幅がさらに自由に広がったアルバム。ボーカルAndreaが元気そうで嬉しかった。

Mr Twin Sister (2014)ってマジで1ヶ月に1回は必ず聴くくらい、私の超絶ベストアルバムなのだけど、そういう大好きなアーティストの曲の手持ちが今作でまた増えたのめちゃ嬉しい。今回を機にSalt (2018)も聴き返したりして、2曲目のAlien FM神曲すぎるよなーとか改めて思ったり...笑。今作Al Mundo AzulではExpressions (M2)とBallarino (M6)が特にお気に入り。私における無敵の幸せオシャレソングだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9. Flight Facilities - "FOREVER"

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海外セレブの香水CM曲のような。

 例えばロサンゼルスの仲良しプロデューサー二人組によるClassixxであるとか、実力派DJによる精神的余裕たっぷりなディスコのやつってやっぱり最強のハピネスがあると思う 笑。テクノとかバチバチにクールなクラブミュージックよりも落ち着いたゆったりめのダンス。その気持ちよさに見合うようなポップでカラフルなフロアの演出。Flight Facilitiesの今作も私にとってそういう音楽の位置付けで、余裕たっぷりの最強なハピネスのディスコだと思ったけど、彼らのサウンドから得られるホットなエネルギーには何か病みつきになるような特別なものがあった。特徴的に言えば、都心のリッチな雰囲気のファッションビルとかで流れてそうな、あるいは海外セレブの香水のCMとかで使われてそうな、心地よくもハイレベルにオシャレなエレクトロニカの感じ。ニューウエーヴとかスペースディスコみたいな80sみの強い音楽よりもずっと垢抜けてるけど、洗練されたグルーヴには少し原始的な衝動のようなものを感じさせるし、シンセベースもエレクトロニックピアノもみんなほっかほかに暖まってる 笑。また、ジャケットが提示する砂漠、飛行機のメタリックな外面によって砂の色が反射したゴールドの色味、それらの空間だとかイメージとか、アルバムそのものが特殊なホットネスを体現してる。めちゃめちゃオシャレで気持ちいいだけでなく、アルバムの総合的な力でもって音楽のエモーションが熱を帯びて伝達してくるところが素晴らしいと思う。2曲目のWhat I Wantとか最高。必要最低限のスタイリッシュなまとまり、それが醸し出す安定感や余裕、ホットな感覚に仕上げたFlight Facilitiesのサウンドメイキング、それら諸々の要素を貫くBROODSのボーカルの歌...。ハイレベルなオシャレと熱を帯びたエモーション、私が今作のことが大好きな1番の要因といってもいい。このWhat I Wantはすごくリピートしてた。タイトルトラックのFOREVER (M7)もfeat. BROODSだし、BROODS大活躍の一作だと思う。

イケイケに攻めたハウスでもストリングスでオシャレさが崩れないLights Up (feat. Channel Tres) (M1)、ダンサブルなグルーヴと切ないメロディーが最高な反応を見せるHeavy (feat. Your Smith) (M3)、ダンスフロアの閉じた空間よりももっと果てしない空間が心沁みるAltitude (M5)、情熱的でカッコいい曲調でもハマってるWait & See (feat. BRUX)...。今作は抜かりなく全曲一丁前な完成度なアルバムだと思うけど、feat. Emma LouiseのラストIf Only I Could (M11)は案の定格別だった...。私Emma Louiseマジで超絶に大好きで、2018年のLilac Everythingとかリリース同年現地オーストラリア(パースだけど)で購入するくらいにはむちゃくちゃベストアルバムだったのだけど、Flight FacilitiesといえばEmma Louise~なところはあるし、今作のもう一つの傑作ソングだったと思う...!What I Want (M2)とかで見せていたスタイリッシュな印象よりも、より派手めに豪華にラストを飾った1曲の感じ。コーラスがこれまた華やかだし、それがFlight Facilitiesのホットなサウンドで情熱的なカラーに染まってるところにグッとくる。全体を通じてFlight Facilitiesの今作は余裕感のある自信作だった気がするけど、"FOREVER"というタイトルに込めた彼らの音を、最後この曲で締めるっていうのがすごくいい。MarthaGunnとかと同じ、ビーチで聴きたい曲。夏が恋しい冬に聴いてもいい曲だった。

アーティストが自身のシンボルを大々的にアルバムジャケットにするタイプの作品ってカッコいいと思う。去年だとDisclosureとか興奮してた。今作の場合、砂漠ってモチーフでここまで音楽のオシャレさと適合させるなんて本当にハイセンスだなって思う。その中でも飛行機の存在がとてもでかい。外見的にも内容的にもハマれる作品だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8. boys be kko - "Hensa"

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安心感と呪いの二つの支配

 ジャケットは全然好きじゃないし、もしかしたらワーストなのだけど、それでも聴いてみてそんなジャケットでも大好きにさせるような音楽だったのだとしたら、それはほんとに正真正銘に素晴らしいアルバムなのだと思う。まさかこんな、ミステリアスなインパクトで心臓が掴まれそうになるハウスのエレクトロニカだとは思ってなかった...笑。日本の風土を反映したような新鮮な空気感とか、眠りからぼんやり目を覚ましたときのようなぬくい質感のシンセとか、気持ちが落ち着く平和的で穏やかな雰囲気の音楽なのに、いつも霊妙なオーラを纏っていて、音楽の背後に人知を超越した存在があって、穏やかな雰囲気に反するようなシリアスと緊張を含んでる。それは例えるなら、音楽的居心地のよさとしての夢中と、不思議なものに対する興味で他の何も手に着かなくなるような夢中と、安心感と呪いの二つについての支配があるもの。初めてジャケットを見たときは何の期待も浮かばなかったけど、いざ聴いてみたらツボみがすごくすごく深かった...笑。このワールドめちゃめちゃ好き。Chad's Ra (M2)ではそのインパクトに鳥肌が立ちまくる。1曲目のOregelisの朝日が沁みるようなシーンの次で、意識が覚醒するような神秘と出会う曲。曲調的にはRobag Wruhmeっぽい優しいエレクトロニカだけど、シンセの漂流と低音の引力で不気味なフィーリングを作用させながら、途中にものすごく聖なるコーラスを発生させる。しかもダンスフロアを意識した音楽的ピークの設定とも重ねて、それらの不思議・不気味・神秘に対して興奮のニュアンスも付与したり。圧倒的に素晴らしすぎてびっくりした。ジャケットの外観的にはDan Deaconとかみたいな愉快爽快エレクトロニカだと思ってたら、その逆だったし、ていうかもはや逆どころではなかった。ほんと、神経が引きつってゾッとする恐ろしさにすら見舞われる、明るく元気なジャケットの見方が180度変わる。想像を超えるよさとはまさにこのとこだって思う。そういう、自分にとってびっくりするほど素晴らしい曲がMago (M3)、Bias Japan (M7)、Ano Kyo Ku (M9)とたくさんあった。boys be kkoことRyunosuke Hayashiのプロジェクトということで日本作品だけど、ダントツに大好きだった。

5曲目のThwimmyは恐ろしが薄くて聴きやすい曲だけど、こちらも世界観が濃くてすごくツボる。この曲もChad's Ra (M2)にあった聖なる女性ボーカルがあるけど、アルバムが全体的に持ってる神秘的なテーマの中でも、こちらのThwimmyはとても天国的。メロディックなシンセは歓迎のように、ダンスは祝福のように、音楽の神秘的な作用が全部リスナーの幸せに直結していく。Chad's Ra (M2)とは別の質の夢中。この曲も素晴らしくて見逃せなかった。サンプリング含め日本的なアレンジの部分もこれまた美美しい。ほんと、ジャケットの第一印象が全て吹っ飛ぶよさだった...笑(ごめん 泣)

もともとエレクトロニカは非人間的な音楽であるという点で、血の通わないような冷たさであったり、非生命的な死の感覚だったりというものを本質に所持しているものだと思う。boys be kkoの本作は、エレクトロニカのその冷たい(クールな)性質がとても見事に機能してた作品だった気がする。優しくてソフトな感触のシンセをよく起用した癒し系のエレクトロニカなのに、そこに神秘的で非人間的なモチーフがたくさん散りばめられていて、エレクトロニカの味わいがよさが複数に重なる感じ。居心地と興味、安心感と呪い、音楽に対する引力の倍加、強力な夢中。boys be kkoSNS覗いてみたらラーメンの投稿ばっかりだったけど、なんか人間的にも好きになってきたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7. Nation of Language - "A Way Forward"

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シンセポップに宿る勇敢な意志

 リスナーに対して80sの感覚を蘇らせる再現系のポストパンク・ニューウェーヴ。それはアーティストが過去への憧憬と敬愛を込めたトリビュートの産物であり、何よりリスナーへ非現実感(非現在感)の喜びを最高に体感させてくれる音楽...。Black MarbleとかChor Boyとかと同様、Nation of Languageもそういった古き良き時代性を完璧に成したニューウェーヴ(シンセポップ)だったと思うけど、シンプルさとかチープさに磨きをかけたようなものすごく本格的な再現系音楽でありながら、80sらしい未来的な可能性のワクワクをしっかり噛み締めていて、何か巨大な希望を力強く掲げるような、シンセポップらしからぬリスナーの心に刺さるような勇敢な姿も持っていたと思う。Across That Fine Line (M2)では、前のめりになった進行力のあるグルーヴでリスナーを半端なくノリノリにさせつつ、タイミングよくギターでロックしたり、The Grey Commute (M5)ではシンプルでチープながらも何かに立ち向かうときのような広大な空間のシーンを見せたり、This Fractured Mind (M6)ではキュートな印象のシンセポップの中でリスナーの心を動かすような威力の高いフレーズを鳴らしたり...。何も飾らない純粋の賜物のようなシンセのサウンドは親しみ深く愛嬌があってこんなにもキュンキュンするのに、曲想的には勇気とか勝利とかそういうニュアンスが含まれていて、可愛いサウンドのイメージらしからぬカッコいい精神を持ってる感じ。特にThis Fractured Mind (M6)は、メロディーの "可愛いのにカッコいい" のそれが本当によすぎてた 笑。The Radio Dept.みたいに、ローファイとかチープさであるとかが ときめきとして最大に作用するようなシンセポップも間違いなく最高だけど、Nation of Languageの場合、そういう音の表情的な部分の可愛さはもちろん、アーティストが意志として持つカッコよさとのギャップ・バランスみたいなのが本当に素晴らしかった。ソウルフルなボーカルの存在感も大貢献してると思う。てかメンバー達の雰囲気がめちゃめちゃ好き...笑。自分でも意外なほどハマる本格派ニューウェーヴだった。

9曲目のA Word & a Waveとかもめちゃめちゃいい。リスナーをハイにさせるようにソフトなシンセが点滅して鳴り響き、点の連続が遠くまで続く1本の線を作っていく。光が道となる。こんなにもピコピコしててかわいいのに、音楽に対する態度は真剣で、その道はとてもホーリーな印象すらも思わせた。ただの再現系ニューウェーヴでは、この道は切り開けない。この尊さは描けない。A Word & a Wave (M9)は私にそんなことを訴えた。楽しいのにシンセポップとは思えないような深みと重み。気軽に摂取したい曲でありながら、じっくりと聴き込みたいような曲。やっぱりNation of Languageはただの再現系ニューウェーヴではなかったと思う。サウンドメインキングも歌もすごく感動してた。

古き良き時代のよさを提唱する80s作品は、ここ10年少しの現代の混沌とした世界の中で、理想であったり、正解であったり、今を生きる人達が求める真実のようなものを見せてくれる世界観があると思う。非現実(非現在)であることの憧憬と喜び。Nation of Languageは、その希望を追い求めたバンドだと思った。ニューウェーヴに対する真剣な態度、そして勇敢な音。This Fractured Mind (M6)とA Word & a Wave (M9)が私の超お気に入り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6. Holy Other - "Lieve"

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闇に落ちることで生じるリバースの浮遊感

 Sunn O)))ドゥームメタルによる重低音マッサージであるとか、意図的に過度な音圧のグラビティをかけて実現できる癒しってあると思う。それはノイズでもサイケでもない特殊な快感で、ホットヨガであるとか、加重布団であるとか、あえて負荷をかけることで何倍ものリラックス効果を発揮するような類のもの。その中でもHoly Otherは、その過度な音圧によってブラックホールや深海のような とてつもなくディープでダークなリラックスを創造してるアンビエントダウンテンポだったと思う。一度飲み込まれたら絶対に抵抗できないような圧力と密度、闇に落ちることで生じるリバースの浮遊感、それらの衝撃的な気持ちよさと美しさの精神的ハイ。前作Held (2012)なんかは私の指折りのストレス発散ミュージックだったのだけど、今作Lieveの方は単なるストレス発散に留まらず、1曲1曲が持つ世界のバリエーションが広く、音楽的物語のスケールも大きく、癒しBGM以上にとても音楽的な充実のある作品だった。オリエンタルな弦楽器のメロディーが宗教的な意味合いを所有していくAbsolutes (M3)、癒しのダークに悲壮的なニュアンスも加わったようなHeartrendering (feat. NYX) (M4)、シュレッドされた音の崩壊が痛みの表現にもなるUp Heave (M5)、高速に震える音がディープでダークなリラックスの中で興奮を作るGroundless (feat. NYX) (M7)...。従来通りリスナーを飲み込んで無に帰すような音圧の音楽だけど、そのグラビティによるリスナーへの影響には様々な世界観があって、サウンドメイキングもリズムパターンも多様な表現と演出があって、これまでのHoly Otherのアンビエントダウンテンポとは別のドラマがあった。ジャケットのベッドは寝室ではなく、もっと非現実的な精神世界にも感じられてゾクゾクがヤバくなる。ダークめの音楽の中ではかなり上位の大好きさ...。特にNicolas JaarとかTim Heckerとか、スピリチュアル系のところが猛烈にハマる。あまりにも音圧の体感力がすごいから連続してリピートするようなアルバムではないけど、それに見合った印象に残る深い一発がある作品だと思った。

今作で1番好きだったのが9曲目のShudder。音圧のグラビティによって闇に落ちること、Holy Otherの音楽のことが改めて大好きだと思い知らされた曲。相変わらずディープな低音の闇の世界を繰り広げてるけど、その中で静かにバチバチと音を立ててる。闇の世界で小さな存在が鳴り響く。もうマジでハチャメチャにカッコいい、、、笑。Holy Otherの音楽は私にとってストレス発散的な感覚が強く、今までずっとそういう聴き方しかできていなかったけど、この曲で初めてHoly Otherのカッコよさに気付かされた。闇に落ちること、飲み込まれること、その体験・感覚に含まれる異質な気持ちよさ。快感と解放、アーティストが求める特別な何か。ドラマチックさが濃い今作の作風で、Holy Otherのそのアート性に気付かされた。ものすごく惹かれる。。。闇の要素が連想させる悲しみの感情、絶望、死、眠り、現実逃避、救済...。数々の感情と、数々のシーン、そして数々のドラマ。私にとっては前作Held (2012)以上にアルバム中のワールド数と鑑賞的内容度がとても大きかった。Holy Otherはもう、私の中で単なるストレス発散ミュージックじゃなくなった。今回の新譜すごくよかったと思う。

前作Held (2012)は、会社のお昼寝タイムとかに聴いてた。真っ黒の部屋の中で音に埋め尽くされるような体験、潰されるような音圧で信じ難い解放を得る。重低音エレクトロニカの名作であり、ストレス発散ミュージックとしても傑作。今作もそんな"Holy Other"な音がいっぱいしてて嬉しかった。また彼の音楽が無性に聴きたくなって我慢できなくなったときとかは、イコライザーの設定で低音をアップさせて聴くのもありだって思う 笑。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5. OVLOV - "Buds"

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灼熱のギターの刹那

 (過去作Tru (2018)のリリース当初、気になっていながらも結局スルーしてしまったあのときの私よ......聞こえていますか......それはスルーしたら絶対にいけません......(TT)(TT)笑)。今作Budsで初めてOvlovのことちゃんと鑑賞したのだけど、こんなにもめちゃめちゃに素晴らしいバンドを今まで見逃してたのか、、、ってすごくすごく後悔した。灼熱のギターノイズをクールに鳴らすようなガレージロック・パンク。皮膚が焼けそうになるくらい凄まじく高熱のロックなのに、その炎はどこか儚くて、切なくて、"今この瞬間だけ燃える"というような刹那すら感じさせる。ただ感情を激化させて攻撃的になるようなロックとは違う、燃え上がる中にもメランコリックな心があって、音を鳴らすときに何か大切なものを握りしめていたり、エモーショナルさを体現するための芯がちゃんと通ってるようなロック。2018年当時はまだサブスクをやっておらず、YouTubeでも試聴できなかったTru (2018)はレコードをオンラインショップのカートにまで移動させてたのに...あのとき最終的にポチらなかった自分を必死で呪いたくなる 泣。今作Buds (2021)もそんな灼熱のギターノイズが胸に響きまくるようなアルバムだったけど、爽快に駆け抜けてくドライブや心に沁みるさらりとしたメロディーなど、今作も見所満載な一作であった気がする。3曲目のLand of Steve-Oとか5曲目のStrokesとかとても好き。ギターノイズの炎はエンジンを点火させ、心に沁みるメロディーがドキドキを掻き立てて、推進力のあるグルーヴがリスナーの求める場所へ連れてってくれる。Ovlovのスピリットが行き届いたロックであり、聴くと最高に元気になるようなポップさもあるナンバー。Ovlov本当に最高...。今作でも もっともっと聴きまくりたいって思うような曲がたくさんあったし、ギターソロも格別でめちゃテンション高まる。30分未満と短いけど、見所ポイントが随所に用意されてるようなアルバムだった。

ラストのFeel the Pain (M8)に関してはドラムがマジで最高...!灼熱のギターノイズとしてのパワーだけでなく、手数の多い畳み掛けるようなドラムによるパワーの演出。2曲目のEat Moreにあったようなドラゴンの咆哮みたいなサウンドとはまた別の、ラストスパートまで力を込め続けるような激情がある。先月のGeeseみたいに歯を食いしばるようにして鳴らすドラムってやっぱりどうしようもないくらい心打たれまくるし、こういう曲って本当に素晴らしいと思う。ドラムの存在とコントラストを利かせたような女性ボーカルのしっとりしたメロディーの浮遊感もいい。なんといってもギターが格別なバンドだけど、Feel the Pain (M8)では+αでもう一つ感激させられた。

今作Buds (2021)も大好きだけど、正直なところ過去作Tru (2018)の方が好みかもしれない...。こんな最高な作品をスルーしてたのマジでかなり悔しい...泣。フィジカル超欲しくなって色々見てみたけど、どのショップでも廃盤だった 泣。泣きたくなる気持ちを抑えて、再びBudsを再生する。1曲目から何かが破裂するみたいにギターの灼熱が発生してドライブしていく。私を燃え上がらせる。今作Budsも素晴らしい、短いのがもったない。もっともっと聴きたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4. Aurora Dee Raynes - "Invisible Things"

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情熱と充実

 音楽を鳴らすための情熱、そして音楽を鳴らすことの充実。伝えたい思いに熱を込めて、それを解き放つときの美しいフィーリングを忘れない。Aurora Dee Raynesのデビューアルバムの今作は、ジャジーでブルージーなテイストのR&B・ソウルだと思うのだけど、感情豊かな歌とビートのバイタリティと、ムーディーでメロディックな味わい深い陶酔感、それぞれの混合体のような音楽だったと思う。奏者個々のエネルギーが組み合わさるようなファンクチックなアンサンブルの印象もあれば、空間的な演出が高品質なしっとり沁み渡る気持ちよさのくつろぎ系音楽でもある感じ。グルーヴ的な面のよさでもサウンド的な面のよさでも二刀流してるみたいなところが最強だし、一般的なR&B・ソウルにはなさそうなオルタネイティブでエレクトロニックなスタイルもあったり...。私が相当大好きな作品だった 笑。ファンクロック的なパワーとバッキングのクールネスが最高に魅力的に交わるThe Letter (M1)、出だしのスピード感の時点でもう最高が確定しすぎてて笑っちゃうFind My Way (M4)、鍵盤楽器の瑞々しいメロディーがリスナーの心を奪いまくるようなBreak Free (M6)...。このBreak Free (M6)に関しては、美しさを思いっきり強調するようなスウィングの利いた揺らぎのグルーヴとかも本当にヤバい。曲が始まってメロディーが奏でられた瞬間に「やばーー(TT)」ってなる曲が多くて 笑、アルバムがよさを一定に維持し続けてる。さらに私的にはドラムとかパーカッション要素にもずっっっとツボってた 笑。ドラミングが自由なオルタナロックっぽさ、ジャジーな雰囲気の空間、情熱と充実。ジャケットもめちゃんめちゃ好き。

Aurora Dee Raynesの今作のハイライトは3曲目のCrazy That You Loveだったかなと思う。何かにじっと集中する手数の多いドラミング、今にも泣きそうになるような音楽の様相。R&B・ソウルの多感なフィーリングと、ファンキーな熱量と、ジャジーでブルージーな気品、それぞれが影響しあって生まれる、Aurora Dee Raynesのリアル。もうすごくすごく心に残る。アルバムの中でとても目立つような存在の曲で、他の曲よりもドラマチックだった。手数の多いドラムが大好きだけど、"どうして手数が多くなるのか"、"何に一生懸命になっているか"というところが、Aurora Dee Raynesのソウルによってもっとエモーショナルなものになってたと思う。ラスト11曲目のJazz Blanketも同様に傑作。こちらはインストゥルメンタルだけど、Aurora Dee Raynesの技術力とセンスがいかに素晴らしいのかが伺えるような曲。管楽器のメロディーがめちゃめちゃリッチ。。。ほんと、アルバムが最高を維持し続けてる。サウンドとグルーヴと全部大好きだった。

Aurora Dee Raynesってソロではなく6人組のプロジェクトらしい。大体R&B・ソウルのアーティストってグループのイメージがあまり無いのだけど、Aurora Dee Raynesは普通にバンドだった。...それを知るとなんだか好感度がさらに上がる...笑。アーティスト写真を確認してみたらびっくりするくらい私好みの感じ。ジャケットだけでなくメンバーについても惹かれるものがあるという強さ。音楽的にも当然いいわけだし、Aurora Dee Raynesすごく応援したくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3. Snail Mail - "Valentine"

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メロディーがずっとずっと幸せ

 Snail Mailを聴くとマジで"🥺"の顔になる 笑。ロックの反抗・自由、ポップスのピュアネス・ロマンス、それらの二つの意志を一つに持った"ロマンチストなロッカー"…もうめちゃめちゃ最高じゃない??笑。弦を力強く掻き鳴らすようなギターヒーローとしての一面もあり、夜の情緒を表現するようなセンチメンタルソングの名手でもあり、それらの多様なエモさを兼ね備えた、本当に魅力満点のSSWだと思う。前作Lush (2018)はどちらかといえばインディーロック主体の作品だったと思うけど、今作はストリングスを大胆に採用した華やかさ最大のシンフォニックバラードとか、ロマンチックさにより着実な80s風インディーポップの強化とか、ヴィンテージ感をプラスするようにしてSnail Mailのポップをもっとグレードアップさせた作品だった気がする。前作で特徴的だったユースフルな愛おしさとかギターロックのスタンスをなくさず、より品良く素敵な方向性へ向かった作品の感じ…。とにかくメロディーが全て幸せすぎてもう。。。笑。グルーヴィーなポップなのが最高にオシャレなBen Franklin (M2)、Snail Mailならではのセンチメンタルなロックが炸裂するHeadlock (M3)、切なすぎて泣きそうになるくらいのラブソングなLight Blue (M4)...。ロックの曲でもずっとキラキラしてるし、アコースティックの弾き語りでも心に刺さりまくるし、夜景を脳内再生させるような最高に綺麗なサウンドスケープを誇ってる。そしてメロディーがずっとずっと幸せ。特に今作で、Snail MailことLindsey Jordanの歌声の素晴らしさを改めて思い知らされた。。。(喉お大事に。。。)ロックのときはちゃんとアグレッシブに歌うのに、そうでないときはどこか可憐な印象を感じさせる。幅広い感情の、とても人間的な魅力を放つ声質。メロディーがもっと幸せに味わえる声質。マジでSnail Mailのこともっともっと大好きになる。ロックにポップ、そしてバラード、彼女のよさがビシビシ伝わってくるような作品だった。

私的に、今作の特別さを決定付ける代表的な曲がやっぱりForever (Sailing) (M5)だったと思う。(この曲マジで大好き。。。笑)。Snail Mailのギターロック、センチメンタルなポップス・バラード、まさしく彼女のスキルが全て表れたようなイチオシの一曲な感じだけど、今作のメインテーマである「Valentine」の上品なスウィートネスが一番堪能できる曲だと思う。ギターの音色はJay SomのEverybody Works (2017)みたいにとてもセンセーショナルな響きをしてるけど、ファンタジックであるというよりかはノスタルジックなものとして機能してる感じで、レトロチックなムードとか、それらのヴィンテージな趣にたっぷり浸れる。Snail Mailが見せる、もう一段階上の幸せ...。Snail Mailのキャラクターはもちろん、オリジナリティとしても目立ったものがある気がする。というか、こういうForever (Sailing) (M5)で表れてるヴィンテージ感、アートワークで表現された「Valentine」のコンセプト、ピンク色のジャケットを着たLindseyの絵面だけで何か完璧に完成されてない?笑。そしてこの服尋常じゃないくらい素敵すぎない??!!泣。そんな彼女のアートワークを見ながら、またForever (Sailing) (M5)を聴いて酔いしれまくる。。。はー大好き。マジで「メロディー幸せかぁ」ってずっとツッコミながら聴いてた 笑。

個人的に今作のSnail Mailは少しシティポップ的にも捉えられたかも。夜の街を散歩してるときとかのBGMとして、自分の中の幸福感をチャージしたいときに聴きたいアルバムの一つ。2019年で言えばAlex G、2020年ならSoccer Mommyとかだったけど、今年におけるその枠はSnail Mailが最有力だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2. Penelope Isles - "Which Way to Happy"

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ベッドルームで独りきり、望みが全て叶う

 超特大ベッドルームポップによるスペクタル夢の世界。。。笑。Penelope Islesの今作は、ネオサイケデリアとかギターロックとかシューゲイザーとかアンビエントとか、強力なアプローチを駆使したドリーミーなファンタジーの圧倒的体験だったと思う。それは恋心だったり、夜空だったり、願いだったり、何かへの憧れだったり、夢の世界に関連する素敵なこと全て、大迫力にドラマチックに拡張する。胸が締め付けられるようなことも、美しいものも、何もかもが空間的にも感情的にもパワーアップさせて、私に襲い掛かってくる。もう多幸感がやばすぎる。。。エネルギッシュなロックでそれらの夢をパワフルに届けたり、ハイトーンボイスの歌でピュアネスを強烈に触発させたり、ときには洪水のようにドバドバと、ときには激しくガツンガツンと、リスナーにありったけのメロディーを与えていく。アルバムのどこをピックアップしても100%素晴らしいと思うのだけど、例えばMiss Moon (M6)とかめちゃめちゃに名曲。ドリーミー、サイケ、シューゲ、ローファイ、ありとあらゆる"夢"の欲張りセット。壮大でインパクトがあるのにひたすら優しくて、メロディーが流れるたびに心がズキズキする。。。このメロディーの幸福レベルは一体なんだろう、、、笑。恍惚が限界を超えて泣き叫びたくなるほどの壮大さがある。ベッドルームで独りきりでも、この音楽を再生すれば私はたちまち満たされる。この音楽を再生すれば、望みが全て叶うような夢の世界を満喫できる。もう大好きすぎて気絶しそう。夢想的な曲調なのにライブ的なスケール感があるところが最強なんだと思う。メロディーが全部ヤバいくらいキラキラしてた。私にとってはボリューミーで高密度な超大作のベッドルームポップだった。ロック系もバラード系もみんな完璧だった。

Sailing Still (M5)とSudoku (M7)みたいな安眠効果の強いナンバーもたまらない。ロック系の曲にはないディープさと重み、"夢"のメロディーに対するエクスタシーとサッドネスに心打たれて泣きそうになる。それは多幸感で嬉しくて泣きそうになるのか、あまりの美しさに耐えられなくなって泣きそうになるのか、はたまたどちらもなのか、私にはもう分からない。私の中で一体何が起きているのか分からない。もうエモくてエモくて仕方がなかった。パワフルなサウンドだけでなく、しっとりしたサウンドも丁寧に使いこなすダイナミクス的な部分でのエモーショナルさにも優れてる。6曲目のMiss Moonがもうバリバリに素晴らしいのに、5曲目も6曲目も超絶に名ソングで、もう5→6→7の流れが贅沢ウルトラコンボパンチすぎてた、、、笑。それでいて8曲目のHave You Heardもときめき大全開ロック&ポップスでヤバい。なんという最高の連続、、、。そんな中でも、Sailing Still (M5)とSudoku (M7)は特に眠れない夜とか、都会の街で独り寂しく思ってるときとか、そういうときに是非是非聞きたい曲だった。私にとってかけがえのないベッドルームポップ。こういうドリーミー成分が大量含まれてるウェットな曲ってめちゃめちゃ貴重だよなとも思う。

ドリーミー、サイケ、シューゲ、ローファイ、ありとあらゆるドラッグ音楽によるファンタジーというところだとCandy Clawsが神だと思う。彼らのCeres & Calypso in the Deep Time Forever (2013)とか死ぬほど好きなのだけど、私的にPenelope Islesの今作はそれにとても似てる作風だった。これはちょっとヤバい。メロディーというメロディーが本当に素晴らしすぎる。望みが全て叶うような夢の世界を満喫、ドリーミーなファンタジーの圧倒的体験。Terrified (M1)、Rocking At the Bottom (M2)のロックはもちろん、In a Cage (M11)のアンビエントまで、びっくりするくらい最高なアルバムだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1. Jon Hopkins - "Music for Psychedelic Therapy"

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この美しい概念の一部でありたい

 真の安らぎは永遠に手に入らない。それは「《もう自分は今ここで死んでもいい》」ということを心から認められる状態になることだから。それは自殺とは異なる、平常の状態で死の恐怖を乗り越えるということ。命を絶つときの恐怖を乗り越えるなんて、そんなことは到底不可能だと思う。『人は本当は幸せにはなれない』、欲望がいつまでも叶わないように、理想が常に打ち砕かれるように。そうやって私は、ときどき自分の人生が無価値なものであると感じてしまう。自分の心の傷は一生治せないのだと、そんな絶望を感じてしまう。Jon Hopkinsの今作は、フィールドレコーディングのサンプリングを織り交ぜたヒーリング特化のアンビエントでもって、そんな絶望を感じる私に、幸せになれないと傷だらけになっている私に、「それでも大丈夫だよ」と言ってくれる作品であった気がする。"どうすれば不安は解消されるのか" 、"本当に傷ついてる人を慰めるために音楽で何ができるのか"、それを本気で研究して、救済を必要としている人のために送る作品。環境音楽によるアプローチのTayos Caves, Ecuador (M2~M4)、瞑想によるアプローチのLove Flows over Us in Prismatic Waves~Deep in the Glowing Heart~Ascending, Dawn Sky (M5~M7)、そして"詩"によるアプローチのArriving~Sit Around the Fire (M8,M9)、どのチャプターも威力が異常なものだった。洞窟の中で雨音を感じて、自然の澄み渡った空気を吸って、巨大な重低音で無重力を体感して、照射される光に導かれてゆく。誰も影響が及ばない、私だけの絶対的なリラックス空間の創造と、大気圏を突破して宇宙へ到達するようなマインドのトリップ。Deep in the Glowing Heart (M6)を初めて聴いて、得体のしれない概念の、それでいて究極的に神秘的なあのエネルギーと出会ったとき、「《もう自分は今ここで死んでもいい》」と思える瞬間があった。Sit Around the Fire (M9)を聴いて、自分の人生の価値を思い出して"ありがとう"と心から思える瞬間があった。それは、私が彼の音楽を聴いて感じる、「大丈夫だよ」とか「心配しないでいいよ」というメッセージ。感動がありえないくらいバカでかくて、圧倒されて死にそうになって、満たされて満たされて満たされまくる音楽。もうたまらなく大好きだった。もともとImmunity (2013)のときから彼がリスナーのヒーリングを意識したアーティストだということは把握していたけど、今作ではアーティストというよりもう完全に、まさにセラピストだったなと思う。私にとっては、Floating PointsのPromises (2021)と同様、人知を超えるレベルの影響力を持っているような作品の一つだった。

音楽は時間の芸術で、時間変化、モーション、それらのエネルギーに関する芸術だと思う。Deep in the Glowing Heart (M6)は私にとってそういう曲だった。5曲目Love Flows over Us in Prismatic Wavesで大気圏まで上昇するように召された後、Deep in the Glowing Heart (M6)でとうとう宇宙に到達する。光と闇に挟まれる。マインドの世界の中で重力を克服する。落ちていって、昇っていって、回転する。そこにエネルギーを、得体の知れない何かを感じる。この感情は一体何なのだろうか、今私は本当に生きているのだろうか。私は、自分がこの神秘的な概念の一部であると信じたい。自分の命が絶たれて、この音楽を二度と味わうことができなくなっても、感覚を繋ぐための神経の信号が一生途絶えてても、この美しい概念の一部でありたい。...そんなことを強く願っていたら、涙腺がバグるみたいにしてずっとずっと泣いてしまっていた。私にとって真の安らぎを叶えようとする"幻覚セラピー (Music for Psychedelic Therapy)"。本当に、本当に、嬉しい音だった。導かれるような光の音と、それと逆方向に向かうような闇の音、それぞれがベクトルを持っていて、交わるように動いて、私にエネルギーを感じさせる。音の時間変化がもたらす、決して理解できない、実体を証明できないような存在。そんなエネルギーを感じられるということが、今作にとって最大のセラピーなのだと思った。この作品は本当に価値がある。Emmerald Rushとかフロアを沸かせるようなJon Hopkinsももちろん最高だけど、それとは全く違う内容でポテンシャルを発揮してるみたい。すごすぎる。もう恐ろしい。アーティストとして、人として、そしてセラピストとして、これからもずっと応援したいって、すごくすごく思った。

Sit Around the Fire (M9)ももちろん無視できない。Deep in the Glowing Heart (M6)であんなにもすさまじく素晴らしいことをしておいて、まだやるのって思う。ノマドランドみたいに、広大な土地の黄昏、焚火で暖を取るようなシーンを連想させるような曲。長旅の疲れを癒すように、緊張をほぐすように、そして固まった心をこじ開けるように、彼の渾身の和声を与えていく。そこに外の空気が流れてくるのを感じる。途中、本のページが風でめくれるようなサウンドが出てくるけど、私はそこで理性がぶち壊れるほど泣いてしまった。「あなたのlifeは大切なものだよ」という内容のリリックの曲の中で、その"lifeの大切さ"を表す情景を一発で体現したサウンド。冗談抜きでセンスが頭おかしすぎて狂ってると思う。何をどんなことをすればこんなシーンを生み出せるのか意味が分からない。ラストにこれを持ってくるという重み的な点でも強烈。個人的にはDeep in the Glowing Heart (M6)の次に大好きな曲だった。

泣いた泣いたしか言ってなくて頭悪い感想だけど、実はTayos Caves, Ecuador II(M3)でも思いっきり泣いてた。洞窟の中へ中へ。さっきまで聞こえていた雨の音はもう聞こえない。飲み込まれていく。現実のことを忘れて、誰も何も及ばないようなところで、それを信じて、音楽を聴いていく。それは私にとって一種の宇宙旅行でもあった。この壮絶な体験も、気が付いたらやっぱり涙が零れてた。本当に巨大な一撃の癒しだった。1曲目から9曲目まで、全てのチャプターがそれぞれ素晴らしかった。Deep in the Glowing Heart (M6)のあの感覚は、一生忘れないと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

プレイリスト

Apple Music ↓

温の「2021年11月ベストアルバム(温)」をApple Musicで

 

Spotify

open.spotify.com

 

その他 とてもよかったもの

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Bent Knee - "Frosting"

chloe mk - "All the Same All OK"

Courtney Barnett - "Things Take Time, Take Time"

East Coast Low - "Seas on Fire"

Emma Ruth Rundle - "Engine of Hell"

Land of Talk - "Calming Night Partner - EP"

Mandy, Indiana - "... - EP"

Miłosz Pękala - "8 Pieces in Different Tempos"

Neev - "Currants - EP"

Pariss - "Soaked in Indigo Moonlight"

Sarah La Puerta - "Strange Parade"

Sun Dress - "The Return of Kid Laredo - EP"

 

 

 

 

「2021年10月ベストアルバムTOP10」感想

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今月のベストアルバムは迷いに迷って、結局のところ決まりませんでした...(T_T)(T_T)(いや決まらなかったのかよ)。最後のあとがきの所に「その他 とてもよかったもの」って載せてるけど、そこにあるやつ全部ベストアルバム。...と言いつつ、今月も断腸の思いで10枚を選び抜いた、、、(なんでこんなに最高な新譜ばかりなのだろう)

今月の最高すぎてヤバすぎる新譜のTOP10、感想をランキングで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10. Coco - "Coco"

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しっとりマイルドのバロックポップ風味

 私の好きな女性ボーカリストランキングの5本指には入るであろうMaia Friedmanのもう一つのプロジェクト。Dirty Projectorsではコーラス部隊の一人としての活躍だったけど、Cocoの本作は、Dirty Projectorsでは隠されていた彼女固有の作家性を存分に解き放ったような作品......Maiaのファンである私にとってめちゃめちゃ嬉しいやつ。。。笑。作風はメロウなインディーロック〜フォークのオルタナの感じで、Angel OlsenとかJulia Holterとかみたいな、大人びた気品やバロックポップの風味が特徴的なとても優美な音楽。でもそれに反して、大人っぽくないピュアな表情を見せたり、スティールギターやチェンバロなどの特殊なサウンドを取り入れた、固定観念に縛られないオリジナリティや新しさなんかにも恵まれてる。古すぎず今風すぎずのバランス、渋すぎず厳格すぎずで丁度いい品格、高潔すぎない馴染みやすさ、それらのしっとりとした印象の心地よさがすごくすごく素晴らしいなと思うのだけど、それをあのMaia Friedmanが演奏してるというのが本当にたまらなくて、、、笑。高音域と中音域の間における耳への調和性・リラックス特性だとか、サスティーンの丁寧なディテールとか、フィーリングの微妙な起伏と力加減とか、声質的にも歌唱的にも安定感が抜群な歌、私が本当に大好きなボーカル。ゆったりバラードの中でマイルドな深みをグッと引き出したEmpty Beach (M1)、バロックポップやBeach Houseの高貴なドリームポップを彷彿させるKnots (M2)、インディーロックでも美しさが止まらないOne Time Villain (M6)、ボサノバっぽいトロピカルさが最高にポカポカのOver the Houses (M7)......。どの曲においても、Maia Friedmanのキャラクターが最高にハマってると思う。中でもCome Along (M4)とかはMaia Friedmanの歌要素だけでなく、ストリングスとギターの華麗に舞う旋律のところでも素晴らしかったり。正直に言ってしまえば、ジャケットの時点で大好きなのが決定的だったのだけど、実際まったりしすぎないちょうどいいフックがある、飽きっぽくない作品でめちゃめちゃよかったと思う。

メロディーのフックというところだと、もうなんといってもLast of the Loving (M3)の神曲っぷりがすごい。。。笑。しっとりマイルドなバロックポップ風味の今作の中でも、最もモーションが大きいフォークポップ。丁寧さ重視の歌であることは変わらず、その中で可能な限りエモーションを広げるような躍動感...。このキャッチーなフレーズ、ノリノリのグルーヴ、Maiaが本当に気持ちよさそうに喜びながら歌ってる感じが伝わってきて、楽曲に対する好感度がさらにバカ上がりする、、、笑。3分未満の短い曲であっさりしてるけど、幸福感が体内に残るパワフルな存在の1曲だと思う。こちらも攻めすぎず守りすぎずな絶妙のアクセントを持っていて、Cocoの今作のことをもっと大好きにさせる1曲だった。

男性ボーカルの方も活躍する、Eleanor (M9)、Anybody’s Guess (M10)のロマンチックな曲もやっぱり素晴らしい。メロウだけどポップ、クラシカルだけどモダン、硬すぎず柔らかすぎずで、本当に器用なグループだなって思う。Anybody’s Guess (M10)は改めて聴くとMaia Friedmanのパートのメロディーが素敵すぎてギュンギュンなる...笑。Maia Friedmanマジで大好き。Cassandra Jenknisとも親交があるみたいだけど、なんて私得な関係なんだろう。。。笑

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9. Eris Drew - "Quivering in Time"

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カッコいい路線で突き進まない遊び心豊かな寄り道

 私の中の"大好き"が持続しすぎて、体力が削り取られまくるようなハウス・ブレイクのダンストラック、、、笑。ディスコほどゆったりでもなく、テクノほど攻撃的でもなく、ダンスに対する欲求が過不足なく消費されるようなやつ。少しノイジーなハットの裏打ちとかが特徴的で、ほどよくホットで、スタイリッシュながらもファンキーで、アシッドなピリ辛のスパイシーさもあるようなダンスのコレクションだと思うのだけど、カッコよさ重視というよりかはハピネス重視というか、ピコピコサウンドを始めとする適度な可愛さを持ってるようなところが最高にお気に入りだった 笑。Pick 'em Up (M2)とか置いてきぼりになるくらい最高がずっと止まらなくて大爆笑する 笑。ハウスにしてはややハードコアめな 手数の多い刺激のある曲。リズムパターンとかトラックメイキング的な点で見ればすごくイケイケな曲だと思うけど、小動物みたいなミニサイズ感のあるカットボイスであったり、やたらミステリアスチックなシンセのフレーズだったり、カッコいい路線で突き進まない遊び心豊かな寄り道がたくさんある感じがする。そういうスタンスでもって7分強の中でいくつもシーン展開していくのだけど、ほんとに驚異的に楽しい曲だった 笑。初めて聴いたときはその引き出しの多さにめちゃめちゃびっくりする。それ以降の曲、プリミティブな電子音のLoving Clav (M3)とか、ちょっとクールダウンするみたいに落着きを取り戻すA Howling Wind (M4)なんかもかわいい。ダンスとしてのクオリティはもちろん、スタイル的な面でよりハマる作品だった。

ビートのパンチが最大に効いてるようなラストのQuivering in Time (M9)なんかもやっぱりよかった。こちらもブレイクやレイヴなどのクラブミュージック特有の熱気を持ってると思うけど、ムード的に明るくて、曲調的にもハッピーで、それまでのEris Drewの楽しい作家性をこちらでも根強く持ってる気がする。ダンスにものすごく着実なアルバムだけど、その中で最後の最後までフロアを盛り上げようとしてるところがすごくいいなって思う。コンポーザーとして一流という以上に、DJとして最高にプロフェッショナルだということ。Ela MinusLaurel Haloみたいな超クールな女性エレクトロニカアーティストとはまた違う人柄のよさ。Pick 'em Up (M2)は何度でも聴きたい。

直近のクラブミュージックだと、例えば今年8月のShire TのTomorrow’s People (2021)なんか傑作だったなと思うけど、Eris Drewの本作は、とりわけダンス密度的なところのパワーがすごかった 笑。53分みっちりダンス。私はクラブミュージックはよく料理中に鑑賞するのだけど、寒くなってくるとシチューとか作るし、煮込みに時間がかかる系の料理のクッキングタイムBGMとして活用したいアルバムだって思った 笑。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8. Sassy 009 - "Heart Ego" 

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テクノのクールネスがポップスのキラキラに適合するとき

 退屈をワクワクに変えるような、心のエネルギーを感化させるような、キラキラしたフィーリングをいっぱい届けてくれるポップスの恵み。もしそのワクワクの喜びがもっとハイなものになったら、もしその心内エネルギーの感化がもっと刺激的になったら、一体どうなってしまうのだろう...。Sassy 009の今作は、そういったポップスの喜びの過激化を実現した作品だと思う...!笑。可憐で綺麗で純粋無垢のウィスパーボイス、歌だけで捉えればドリームポップの雰囲気が強い感じもするけど、藍色の光を放つような90sクラブミュージック特性であったり、意識がフラッシュするようなセンシティブな音響エレクトロニカ、あとは生気が取り除かれるようなゴーストリーなアンビエントとか、音楽がめちゃめちゃクールな要素ばっかりで構成されてる。メインの印象はエレポップなのに、ときに思いっきりハウス・テクノで、ときに思いっきりアングラで、クールでありながらとても高い熱量の興奮を持ってる感じ。あぁ本当にカッコいい、、、笑。オープニングのForever Seventeen (M1)の段階であまりにクールでびっくりするけど、その第一印象のギャップを最大に活かすようなBlue Racecar (M2)でマジでむちゃくちゃテンション上がる!笑。夜のハイウェイを駆け抜けるような高速回転ビートのテクノポップ。こんなにもエネルギッシュなのに、ハイなのに、それに相関するようにメロディーがもっとキャッチーにもっとキラキラに進化してる。クールネスがポップスのキラキラにぴったり適合するこの感じ...本当にお見事だと思う。私が思う90sテクノの温度感だったり、ポップにしては少しアブノーマルなキャラクターの部分でいっても魅力的。Bicepみたいな幻想シンセが際立ってるEgo Heart Ego (M8)なんかも超素晴らしい。ここまでテクノ性が極められてると、あまりの興奮にアドレナリンが止まらなくなる...笑。サウンドもいい、メロディーもいい、最高にカッコいいエレポップだった。

Sassy 009の今作を機に初めてハイパーポップというものをちゃんと意識したのだけど、確かにこれは大きなムーヴメントになりそうだなって私も思った。王道的なところで言えばCharli XCXとかかなと思うのだけど、プロミシング・ヤング・ウーマンの劇中挿入歌のBoys (Droeloe Remix)とか、そういやつは私も大のお気に入り。次世代的というかハイファイというか、"ハイパー"って表現を使うのがすごく納得なのだけど、Sassy 009の場合は、そういうハイパーポップとしてのよさだけでなく、冷たい温度感の90sテクノ・IDM感みたいなところが特にツボってた。Aphex TwinAutechreUnderworld......サイバネティック性の濃いエレクトロニカのそれ。去年のHappynessとか、インディーロックの分野でも90sチックな作風って私的に激アツだったし、2020年代における90sのリバイバルってなかなかいいかもしれない...笑。というか、流行の周期的に考えて80sのリバイバルの次なるステップにそういう90sブームが来るのが全然想像できる。Sassy 009の今作は、そんな90sのリバイバルの先駆け的なアルバムだったかもしれないって思った。音楽の内容的なところのワクワクだけでなく、作品の位置づけ的にもそういう何か今後楽しそうな予感を感じさせてくれた。

2曲目のBlue Racecarを聴いたときに思い浮かんだ夜のハイウェイのイメージ、なんだかChouchouの1619kHzなんかも思い出した 笑。クールな音感のエレクトロニカ、こういう夜に似合う音楽もやっぱり最高だよなって思う。特にSassy 009のBlue Racecarの場合はスピード感の興奮が本当に抜群。心地よさもカッコよさもスペシャルで、私的にかなりのベストソングだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7. Xenia Rubinos - "Una Rosa"

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深海のように深い深いブルー

 自身のルーツになってるカリブ音楽の原始的な衝動、R&B・ソウルのレンジの広いエモーション、ファンクロックのトリッキーでテクニカルなコンポージング...。Xenia Rubinosは、音楽の伝統と命を引き継ぐ継承者で、力強い表現者で、そして卓越した音楽アーティストの一人なのだと思う。2019年の夏、私が大学院1年生のとき、研究室でHair Recedingを聴いたのが彼女の音楽との初めて出会いなのだけど、そのときは周りがドン引きするレベルで号泣してしまったのを今でも覚えてる。その感情は例えるなら、どうしても悲しいのに無理やり笑うような、それでもやっぱり悲しくてボロボロになりながら一生懸命耐えるような、正と負のフィーリングが心の中で激しく暴走する曲だった。Xenia Rubinosのソウルミュージック・ファンクロックだからこそ成せたような表現。今作「Ura Rosa」も、そういう特別な感情を実現した作品で、なおかつ劇的な迫力も感じさせる、凄みの増したアルバムだったなと思う。Ice Princess (M1)、Una Rosa (M2)では、ケースに保管された花のアートワークが象徴する、美しいものに手の届かないときの胸を締め付ける感情をドラマチックに体現してるみたい。Xenia Rubinosのメインのファンクロックに到達する前から、フルートの独奏曲だけでこの美しさ...。その後に来るWorking All the Time (M4)、Sacude (M5)、Who Shot Ya? (M6)の3連続最高ソングで、私の欲望はとことん満たされた。。。笑。カリブ音楽のトロピカルな情熱、一打一打がパワフルなファンクロックのモチベーション、それらのビビットなソウル...。中でもSacude (M5)は、明るいXeniaの音楽とは裏腹に、背筋の凍るような狂気のインパクトなどもあったり。Who Shot Ya? (M6)に関しては、あまりのエキセントリックなカットボイスのメロディーに恐怖すら感じてしまう。正と負の感情が激しく暴走して、芸術的な爆発を起こして、私にみなぎるほどのソウルを与えていく。やっぱりとても好き。1作目のMagic Trix (2013)のときから、叩きつけて鳴らすようなシンセであったり、自分の内に秘めた思いを剝き出しに表現するのが達者なアーティストであったと思うけど、今作はよりエレクトロニックでエクスペリメンタルな部分が濃かったし、アルバムのストーリー的なところでも表現力が磨かれていた感じがする。新譜のアナウンス時から密かに楽しみにしてたけど、予想通り満足感のある一作だった 笑。

Working All the Time (M4)、Sacude (M5)、Who Shot Ya? (M6)の3連続が最高だと唱えつつ、1番傑作なのは9曲目のDon't Put Me in Redかなと思う。深海のような世界の中で深い深いブルー色に染まった曲。一つ一つ打点の強かった従来のファンクロックとは一味違う、ずっとずっと遠くに伸びていく歌がある。Ice Princess (M1)やアートワークの花(Una Rosa)で提示していた、胸を締め付ける切ないコンセプトに帰還したみたいで、今作の肝となる、最もメッセージ性の強力なリードトラックなのだと思う。「Don't put me in red」、「I hate it」、彼女の中からポロポロ零れるその思いを、全部受け止めたくなる。自分の悲しみと深いシンパシーを呼び起こして、どうしようもなくなるみたいに泣いてしまう。「Don't, don't」、「No」、Xeniaの全身で訴えるようなMVを見てさらに泣く。それは、Hair Receding以来のXeniaの感動だった。

前作Black Terry Cat (2016)なんかも鑑賞してみると、改めてXenia Rubinosってテクニカルでトリッキーなアーテイストだなと思う。畑違いではあると思うけど、私的にはAnna Meredithなんかにも共通した個性を感じる。特にやっぱりエモーションであるとか、ソウルであるとか、そういう部分には何物に代えられない、彼女固有の自由と表現力があると思った。Si Llego (M12)でメランコリックに下げて、What Is This Voice? (M13)でまたトーンを明るく調整して、最後のFin (M14)で魔法的に締める、12曲目~14曲目のクロージングの流れも素晴らしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6. Pond - "9"

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「いいぞ~いけいけー!」ってなるサイケパーティー

 Pondといえば、オーストラリアが誇るもう一つのインパラであり、現代のサイケロックシーンを担うバンドの中でも私にとってイチオシのバンド。前作Tasmania (2019)では、サイケポップのユートピアを大迫力で繰り広げたような かなりの大作だったと思うけど、今作「9」は、またさらに彼らのライブ感とステージ感の迫力を音源化したような、ボルテージとエンターテイメント性の強い熱狂的なサイケロック作品だったと思う...!笑。グラムロックにディスコパンク、サイケデリアが生み出す幻覚的なヴィジョンだけでなく、より派手やかにハジけるようなエネルギーが上乗せされてる作風。力強いビートによって音楽のカラーが激しく転換していくようなHuman Touch (M2)、Pondのムードとかバイブスとかをたっぷり堪能できるAmerica's Cup (M3)、ソウルフルなグルーヴの中でソウルフルなフレーズを次々と決めていくTake Me Avalon I'm Young (M4)、まだまだ興奮を止めない超ダンサブルなPink Lunettes (M5)、哀愁を込めた最高にグッとくるナンバーのGold Cup / Plastic Sole (M8)、そしてそれまでの熱狂の体験に愛情と多幸感を添えてフィナーレを飾るToast (M10)...。もう最高のパーティーアルバムだと思う 笑。低音のブーミング、ギターのエネルギッシュな刺激、シンセのピッカピカの発光...、脳内麻薬が分泌されていくサイケとしての質はもちろん、アルバム1枚の中にライブ的な興奮のそれが高密度に詰まってるイメージ。あまりの楽しさに2曲目のHuman Touchとか「いいぞ~いけいけー!」ってなる 笑。1度聴いたらニヤニヤが止まらなくなるような作品だった。

今作においてとりわけ最高だなと思うところが、Song For Agnes (M1)とRambo (M7)の後半部分の展開。音楽が一段階高まるようなヒートアップするパッセージを持ってるやつ。Rambo (M7)に関してはメロディーが転調的に変形するけど、ライブ的な興奮の中でこういうことされると本当に感動する、、、笑。思わず踊りたくなるハッピーなグルーヴ、ネオサイケデリア系の幸福感、音楽がピークに達するまでのシーケンスのところも最高。1曲目からずっと大好きだけど、Rambo (M7)は特に唸らされてた。また1曲目のSong For Agnesは、フレンチポップのHalo Maudとのコラボ曲ということで、一般的なサイケロックよりも品のあるゴージャスな覇気を持ってるというのもあり、こちらもまた楽曲後半の展開がアツい...!アルバムの一発目の掴みとしては本当に申し分のない1曲だなと思う。1曲1曲という以上に、1枚のアルバムとして大好きだった。

私がPondが好きになったのは実は遅くて、確か2019年入ってから。3年前大学院1年生の頃、教授やその他学生の付き添いなしに、たった一人でオーストラリア(パース)の国際学会に参加したことがあったのだけど、そこで出会ったレコード屋の店員さんにPondのThe Weather (2017)を猛プッシュされたのがきっかけ。「ねぇPond知ってる?」「これマジで最高でしょ。なんで聴かないの??」みたいに 笑。実際、The Weatherの1曲目の30000 Megatonsとかほんとにほんとに名曲だった。今でもふとオーストラリアの死ぬほど幸せだった当時の思い出と、Pondの大ファンなその店員さんのことを思い出す...。(Taylor Knoxっぽい人だった。)今作「9」も大変素晴らしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5. Geese - "Projector"

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不滅のロック作品だって疑わない...!泣

 全然ノーマークのところからマジでとんでもなく大好きなバンドと巡り合った。。。泣。苛立ちと反抗、自由の追求、ロックンロールが叶えてくれる喜びを心から愛したような、いびつで不思議で混沌とした、命溢れるインディーロック・ポストパンクのやつ。Sports TeamやParquet Courtsとかと同様、お調子者感のある陽気なディスコパンクとか、突破力の高いガレージロックなどが基本フォームな感じだけど、楽しそうな人達だと思って安心してたら一気にアンダーグラウンドになって冷酷にダークに豹変したり、ハッピーだったのが思い出せなくなるくらい心奪われるメランコリーの情景を映し出したりする。一貫性の見出せないようなスリリングな危なさ、その熱量と複雑性、誰にも支配されず、ロックンロールに無我夢中になって全力で生きるということ。3曲目のFantasies / Survivalとか、私の音楽鑑賞能力のキャパがオーバーするみたいに感動しまくって、本気で気絶するかと思った。思わず涙が零れてしまった。前半だけを聴けば のびのびとしたインディーロックだけど、中盤以降は何かが吹っ切れたみたいに、加速して加速して猛烈にダッシュしていく。もう誰にも止められなくなる。ギターは光をビカビカ放射し、ドラムは制御が解除されたように猛ってオーディエンスの理性を吹き飛ばし、それらのアンサンブル全てでもって、ロックンロールの幸せを全力で謳っていく。ロックで命を燃焼させるような感覚をここまで味わったのは久々かも...。Geeseはその感覚を思い出させてくれた。私の生命力をフルチャージしてくれた。マジでマジで素晴らしい、、、!これは不滅のロック作品だって疑わない、、、!泣。Twitterでさりげなく知ったのだけど、想像をありえないくらい上回るくらい新鋭のバンドだった...笑。

6分強の曲の中でGeeseの変化球が存分に楽しめるDisco (M5)、滲み出るアングラのムードがGeeseの本物感を証明するようなProjector (M6)笑、曲を再生した瞬間によさというよさがグワーッと広がっていくExploding House (M7)、インディーロックのインディー成分のエッセンスだけで作られてる感じがもう最高すぎて笑っちゃうBottle (M8)......1曲目から最後まで、もう嘘みたいに全曲素晴らしいと思うけど、エンディングのOpportunity is Knocking (M9)もまた今作最強の1曲だと思った。絶対無敵のグルーヴのノリ、ギターの気持ちいいサクサク、鍵盤楽器の沁み渡る幻想...ありとあらゆるバイブス・サウンド・メロディーが、私の中に届いていく。私を最高に満たしてくれる。Geeseは一見すると一貫性のない混沌としたロックだけど、それでもどうして彼らがロックを演ってるのかという理由の部分については、もう十分すぎるほど理解できると思う。反抗、発散、快感、Fantasies / Survival (M3)やOpportunity is Knocking (M9)を聴いて、ロックンロールのことが本当に大好きなんだということが痛いほど伝わる。ほんと、私にとって好感度が果てしないグループだった 笑。

Geeseはブルックリンのバンドということだけど、その界隈で最近はルーキーがドバドバとデビューしてる気がするし、私の感性がおかしいのか分からないけど、「一体どれだけ最高なグループ出現するんだよ、、、泣」ってツッコミ入れたくなってしまう 笑。まだまだGeeseクラスのバンドが大量に眠っているのだろうか...。それにしても、Geeseの3曲目のFantasies / Survivalのよさは本当に尋常じゃなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4. Sóley - "Mother Melancholia"

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聖なる想い

 死の世界を通じて描きたいもの。この世に対する虚無、暴力や破壊への怒りと悲しみ、残酷なもの、恨み、あるいはそういったものの無念...。Sóleyの今作は、ポストクラシカルとアートポップのアイスランド音楽による死の世界のダークファンタジーであり、心の傷や絶望についての作品で、同時に何かSóleyにとって重要なものを訴える、彼女の聖なる想いを可能な限り反映させたアルバムだったと思う。霊魂の漂流を表すようなオルガンとストリングス、地獄を連想させるような低音の闇の響き、冷たい温度感を持った幽玄的なサウンドスケープ、そして宗教的で心霊的なキャラクターを持った歌...。それはまさしく、安らぎを得るための死者の弔い。そして、Sóleyの全身全霊をかけた冥福の祈り。偽りのない真実の愛で、誰かのことを本気で想うということ。傷を癒したいという切実に願うこと。もう私の大好きメーターが狂ってぶち壊れそうになる。アイスランド音楽が持つイメージ的な部分での尊さと、死の世界を通じて描く聖なる想いという内容的な部分での尊さ、美しさのレベルが本当に尋常じゃない。1曲目のSunrise Skullsから抜群に神曲だと思う。重力の作用をもたらすようにリスナーを暗黒へ墜としながら、弦楽器のピッチカートによって魂の灯火を与え、ピアノのメロディーで精霊を呼び覚ましていく。悲しみと命、それらの光と闇について芸術。ストリングスの重奏は、Sóleyの切実なる祈りに威厳を創り出すよう。とてつもなく、とてつもなく素晴らしい。アイスランド音楽によるダークファンタジーだからこそ描ける心霊的な表現の魔法。Tim HeckerのKonoyo (2018)・Anoyo (2019)とかと同様、死の世界、黄泉の国の体験型の芸術でありながら、心の傷や人間の感情について着実なコンセプトだったり、魂の浄化と解放の必要性を提示するような部分であったり、人々に対するメッセージ性を強く持っていた。Sóleyが死の世界を通じて描きたかったものは、そういうことなのだと分かった。ただただ表面的に幻想的というのでは決してない。丁度1ヶ月前くらいにSóleyの2011年作のフィジカルを買ったりしてたのだけど、今作は今までの作品の中でもダントツに好きかもしれない。死神みたいなジャケットが持つインパクトも素晴らしかった。

6曲目のDesertとか今作屈指の名曲だと思う。悪魔のビートと天使の歌声、一つの音楽の中で生と死の両サイドをどちらも所持している曲。こんな曲今までに聴いたことがない。幻想性も、心霊的な魔法も、聖なる想いも、Sóleyの創造をドラマチックに壮絶に見せていく。彼女が秘めた祈りの存在をさらに強調する。本当にグッと引き込まれる曲だと思う。トリップホップというか、スロウコアというか、そういう音楽のキャラクター的なところでいってもカッコいい。闇が深いあまり聴いててしんどくなるくらいの4曲目と5曲目からのシーケンスからだと尚味わい深い。どう考えても大好きだった。

Sigur RósだとかÓlafur Arnaldsだとか、アイスランド音楽ってだけでもう相当のよさを持ってるのに、Sóleyの今作は一層宗教性が濃く、より神秘的でより尊くて、本当に格別の作品だったなと思う。北欧の純粋な自然とか、文化であるとか、そういったものとダークファンタジーというテーマの相性が最高の形で発揮された作品。私のツボの奥の奥まで刺激する、私の大好きでたまらないもののてんこ盛りセットの感じ。集団自殺にインスパイアされたというところがよく伺えるCircles (M2)とか、死の世界観がメインの中で最も天国的な癒しをくれるIn Heaven (M7)とか、アルバムとして本当に素晴らしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3. Hovvdy - "True Love"

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フォークロックの花、Hovvdyの本領の開花

 Hovvdyのフォークロック、それはくすんだ色の鉛筆画のようなとても繊細なサウンドスケープ。Cranberry (2018)で提示していたように、モノトーンのような色味を感じさせるざらついたアコースティックのその響きは、純粋であることの美しさだとか、素朴であることの優しさとか、フォーキーな音楽に心惹かれる要因の本質的なものを体現していたと思う。今作「True Love」は、そんなモノトーンで描かれていたようなCranberryとかのフォークロックの作風に対して、色数を追加し、明るいフィーリングを強め、まるで花を咲かすように音楽の命を芽生えさせたフォークロックの作品。それまでのHovvdyの作風で所有していた、フォークであることの儚さやセンセーショナルな部分を保持しつつも、暖かみをもっと豊かに彩色したメロディー。なんかもう、私にとっても、そして彼らにとっても、これが1番ベストなHovvdyの作風なのではと疑うほど、これ以上ないくらいの出来の一作だと思う。感動量が本当に凄まじい。オープニングのSometimes (M1)で、その暖かみのある印象に一発で虜になった後、2曲目のタイトルトラックTrue Loveでもう心から満たされてた。気持ちが弾むような高揚を含んだとてもシャイニーなフィーリングがある曲だけど、心をくすぐるような性質のあるハスキーボイスとアコースティックのザラザラしたテクスチャが、高揚の感情に対してもっと繊細な影響を及ぼすように作用する。Cranberry (2018)で特徴的だった感傷的な感情、それとは異なる安らぎや温もりの感覚を持った音楽の存在、色々なものが組み合わさって、不思議な反応を生成して、深みを生み出して、私の心をじんじんと活性化させていく...。なんて音楽なんだろう。。。1度聴いたら決してスルーすることができない、私のコアの部分にしっかり届くような、絶対的な大好きさを誇る作品。これまでにWhitneyやHop Alongなど、フォークロックでトップクラスに大好きなバンドって色々出会ってきたけど、このアルバムでHovvdyもそこに仲間入りした。仲間入りせざるを得なかった。私的フォークロックの最高峰な名盤。Cranberryとかとはまた違う方向性での傑作だった。

True Love (M2)からの流れで丁度いい感じにしんみり系へ着地するLake June (M3)、そこからもっとハッピーに楽しくなるGSM (M4)、あとはAlex Gみたいなキラキラのフォークポップっぽさも感じさせるHope (M6)、暖かみよりも切なさが勝るタイプでもやっぱり素晴らしいHue (M10)、そしてインディーロック感も最高に似合っててテンション高まるJunior Day League (M11)...。今作はアルバムとして実に強力な1枚だなと思うけど、その中でも7曲目のJoyには何度でもコテンパンにされてしまった。True Love (M2)と似た系統の、高揚感を含んだシャイニーで花いっぱいのフォークロックで、Hovvdyのありったけの思いを詰め込んだような曲。"We could get back together"(また一緒に暮らそうよ)、" Hang out, in joy"(喜びの中で一緒に過ごそう)、それはまるで、好きな人へ送る愛の告白のようなもので、「True Love」の華々しさが最も暖かみを帯びる瞬間。もうあまりによすぎてて怖い。ただでさえこの上なく心沁みるフォークロックなのに、そういう表現の中で「大好き」とか「ありがとう」を一生懸命になって伝えるとか、そんなの受け取ってしまったらもう耐えられなくなってしまう。満たされるのと同時に、嬉しくて嬉しくて泣いてしまう。Hovvdyの中でも指折りのとてつもない名曲。私が絶対的に大好きなそれだった。

ピアノのアルペジオの光がほとばしるBlindsided (M9)も本当に美しい。True Love (M2)とJoy (M7)にあった、春めいた空気や秋晴れのような涼しい温度感のロックだけでなく、夜に似合うようなメランコリックでブルーな色をしたフォークの作風でも最高だということ。情景描写もそうだし、その中で生まれる皮膚感覚的なセンセーショナルさみたいなものであるとか、Hovvdy本当に素晴らしいと思う。もう異常なほど大好き。似た性質のフォークであれば直近だとSkullcrusherのEPとか思い出すけど、今作はそれと同率レベルの神作だったと思う。フォークロックの花が咲く、Hovvdyの本領が開花する。人肌が恋しいようなタイミングでは特にぴったりな1枚かなと思う。(秋・冬のシーズンはまさにそう。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2. Magdalena Bay - "Mercurial World"

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ジャンボパフェ

 Magdalana Bayを構成しているもの、スペーシーなシンセポップ、カラフルなディスコ、ダンスオリエンテッドなハウス、シックなシティポップ、ドリーミーなニューゲイザー、シンフォニックなR&B・ソウル、ノイジーなハードコア、マッシブなポストEDM...。私の中で何かがひっくり返るくらいの、ワールドとワールドと驚きの融合。そしてそれに適う桁違いの楽しさ、、、笑。フレッシュなアイディアが溢れて止まらない、革新的な素晴らしさのエレポップ作品だと思う...!!とにかく素材数が膨大で、音楽を描くためのパレットが大きくて、一つ一つに楽曲に含まれるカラーがとても濃厚なイメージだけど、ときめきやハピネスにインパクトを付加して、エレポップの味わいをもっと贅沢にしてる感じがする。3曲目〜4曲目のDrawing of the Season, Secrets (Your Fire)のコンボとかほんとに無敵すぎて…笑。手数の多いパーカッション、切れ味の効いたファンキーなベース、通常のシンセポップでは見られないようなワイルドシックなサウンドのメイクアップ。それだけでなく、1回聴いただけじゃ情報処理できないくらい細かい装飾を多量に施してたり…。すごく攻めてるポップ、まるでありとあらゆるスイーツとデザートを豪快に投入したジャンボパフェみたい 笑。特に4曲目のSecrets (Your Fire)は、楽曲の見せ場のパートで音圧の高い多楽器ブレンドサウンドを決めるみたいな演出のところがマジでヤバい...!泣。もう心がときめく~どころじゃない 笑、心を震わすような力強い感動がある。もうエレポップでこんなに圧倒されて興奮することなんてないと思う。とても攻めた、贅沢で濃厚で、とってもインパクトが高い幸せ。全曲通じてトラックメイキング的な部分がずっと天才的で、めちゃめちゃテクニカルなところにも唸らされる。3曲目〜4曲目のDrawing of the Season, Secrets (Your Fire)に留まらず、多幸感で胸がいっぱいになって昇天しそうになるパーティーチューン的なHysterical Us (M9)とか、楽しすぎて笑いが止まらなくなる今作一ダンストラックなDreamcatching (M13)とか、持ってる作風のレパートリーの全部が本当に素晴らしかった。

あまりの迫力に意識が飛びかけるChaeri (M7)とかもマジで最高...!私はColdplayとか、M83の『Hurry Up, We're Dreaming』とか、巨大なスケールで描く"エレクトロニック・幻想"の体験のそれが本気で大好きなのだけど、Chaeriはまさにそんな感じ。音楽が頂点に辿り着いたとき、耳が割れそうになるほどの凄まじい轟音で、エレポップのカラフルなサウンドスケープの絶景をリスナーに届けていく。満天の星を発生させるみたいに、美しいものを空間上に果てしなく広げていく...。圧巻のライブクオリティ音源。。。それは例えるなら、私にとっての幸せの起爆剤のようなもの。ひとたびそれが再生されれば、私は人生の中でも最大クラスの喜びをこんなにも容易く手に入られてしまう...。こういう類の曲ってもう絶対に素晴らしいと思う。このChaeriも今作で1位2位を争う大好きさだった。Secrets (Your Fire)の時点で迫力の表現力は腕っぷしだと分かっていたけど、まさかこんな、心臓が突き破れそうなほどのパワフルさも持ってるなんて...笑。ポップとしてのメロディー力も、センスもスキルも全てが一丁前。Magdalana Bayほんとに無敵だなって思う。

膨大な素材によって成り立ったMagdalana Bayのエレポップ、一歩間違えれば支離滅裂で気持ち悪いものになってしまいそうな気もしたけど、個人的にMagdalana Bayの今作は、Grimesとかによって開拓されたアバンギャルドな10sポップカルチャーであったり、TikiTok、ハイパーポップなど、現在のトレンドの発展系の一部として捉えられるような、ルーツ的に見て一貫性を見出せるものだった。ワールドとワールドが滅茶苦茶に混雑してるような不統一なものというよりかは、これまでのエレポップを継承した上で到達した、ある種の新境地的な音楽として印象...。異質な存在感、未体験性、オリジナリティの点で本当に魅了されるし、何よりドキドキとワクワクが強烈で、ほんっっとに楽しい。新しい音楽を発掘するモチベーションの根源はこういうところにある気がする。自分の命が蘇るような喜びとの出会い。マンガ・アニメ・小説・映画・美術...一度きりの人生の中で、私が自分の命を消費したいと願うもの。私の中でキングオブエレポップといえば無論CHVRCHESなのだけど、2020年代という区分でいえばMagdalana Bayは最有力候補かもしれない。ほんと、めちゃんこウルトラハイパー大好きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1. The War on Drugs - "I Don't Live Here Anymore"

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もっと高鳴りを。もっと情熱を。

 The War on Drugs、それは美しい冒険。彼らのハートランドロック・クラシックロックには、広大な空間を舞台にしたドラマと、悲しみを乗り越えるような主人公の姿があると思う。サウンドスケープは人生を反映するように壮大で、故郷、旅立ち、迷いや不安、葛藤、勇気、そして勝利などについて示されているみたい。その冒険は、私を特別な場所へ連れてってくれる。雪が降るように、星の光が瞬くようにピアノが流れ、閉ざされた心を開くように歌と詩が琴線に触れ、何かを信じるように力強くギターを奏でていく。私に果てしない景色を見せて、溢れるほどの感情を与えて、心を震わせ、奮い立たせる。「もっと高鳴りを、もっと情熱を」、身体が全力でそれを求めてる。もっと彼らの音楽に導かれたい。私もこの物語の主人公のように悲しみを乗り越えたい。希望を強く噛みしめたい。もう絶叫したくなってしまう。ライブを想像したとき、失神寸前まで泣き叫ぶ自分の姿が目に浮かぶ。今作はA Deeper Understanding (2017)と同じ、ハートランドロックのアメリカンなクセがきつすぎない、ストレートでトラディショナルながらもとても現代に響くロックの作風だったと思うけど、アルバムの導入パートのLiving Proof (M1)から顔面がぐしゃぐしゃになるみたいに感動した。雪ジャケの世界と深くシンクロするような、心に刺さるアコースティックと鍵盤打楽器の煌めき。それはとてもクリアで、純粋で、同時に雪解けのように甘く、とてもとても暖かい。そういったものがThe War on Drugsのロックンロールによって生まれ、それらが所有する景観と物語の諸々を私に胸いっぱいくれる。今作もまた格別に素晴らしいと思う。10曲あるうちの1曲目の段階でここまで泣かされたら後半ヤバいぞと心配しつつ、案の定2曲目のHarmonia's Dreamで体中のエネルギーがフル稼働するみたいに心揺さぶられた。彼らの代名詞的なホープフルなロックンロール、行く先を眩しく照らすようなシンセとギターのメロディーは、私にとって核心に触れる何かの真実や答えを教えてくれるみたいだった。本当にどこまでも感動する。2曲目以降に展開されるギターロックコースずっと最高。従来通りの彼ららしい作風に、音楽の景観を豊かにするための適確なサウンドメイキング、シーズン的にもぴったりな雪ジャケの風情、そしてそれらの連動...。これまでのアルバムでも名曲という名曲がいくつもあったと思うけど、今作もアルバムとして総合的にハイレベルの感じ。本当に最高のThe War on Drugsだった。

1曲目のLiving Proofでもう今作のハイライトに十分なり得ると思うけど、8曲目のWastedも相当ヤバかったと思う。The War on Drugの代表曲であろうRed Eyesと同じ、命を刻むような激アツのビートが特徴的な1曲。音楽の思いが天にも届くくらい、とにかくアッパーなロックンロールで、世界が晴れ渡るような、心に虹が差し込むような、そんな開放で満たされてる。本当にありがとうって思った。楽曲中盤以降、そのシャイニーな開放が畳み掛けるように激化していくところが本当にヤバい。前作A Deeper Understanding (2017)でいう4曲目Strangest Thingみたいな、ディープでヘヴィな一撃がある曲も大大大好きだけど、The War on DrugsはやっぱりこっちのRed Eyesタイプの曲も捨て難い...。MIDI打ち込みのコンピュータミュージックがいくら栄えようとも、一切ブレずにロックンロールをし続ける。どれだけ時代が変わろうとも、不変のよさを提供し続けてくれる。本当に偉大なバンドだと思う。

70s~80sのクリスマス感というところもすごくよかった。実はちょうどこの前Alex CameronのForced Witness (2017)を聴いてて、私の中でそこらへんのブームが形成されてたところ...笑。ハロウィンが過ぎればクリスマス一直線だし、また最高にロマンチックな季節がやってくる。年末とか今作のOccasional Rain (M10)を聴いてエモくなりたい。その冒険で、その情熱で、私を特別な世界に連れて行ってほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

プレイリスト

Apple Music↓

温の「2021年10月ベストアルバム(温)」をApple Musicで

 

Sportify↓

open.spotify.com

 

 

 

その他 とてもよかったもの

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Black Marble - "Fast Idol"

Boy Scouts - "Wayfinder"

Charlotte Cornfield - "Highs in the Minuses"

Cid Rim - "Songs Of Vienna"

Coldplay - "Music of the Spheres"

Ducks Ltd. - "Modern Fiction"

illuminati hotties - "Let Me Do One More"

James Blake - "Friends That Break Your Heart"

Kedr Livanskiy - "Liminal Soul"

Lapcat - "Till We Meet Again"

Lily Konigsberg - "Lily We Need to Talk Now"

Marissa Nadler - "The Path of the Clouds"

Mathew Herbert - "Musca"

Moaning Lisa - "Something Like This But Not This"

PinkPanther - "to hell with it"

Porches - "All Day Gentle Hold !"

Ross From Friends - "Tread"

Sigur Rós - "Obsidian"

sir Was - "Let the Morning Come"

Tirzah - "Colourgrade"

Wave Racer - "To Stop From Falling Off the Earth"

Wet - "Letter Blue"

The World Is a Beautiful Place & I Am No Longer Afraid To Die - "Illusory Walls"

Yoru - "Yeah. Yeah? Yeah! - EP"

 

 

 

「2021年9月ベストアルバムTOP10」感想

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今月は後から最高なやつが見つかるパターンが多くて困ってた、、、1位級のアルバムがゴロゴロあってランキングを選ぶのがかなりハードだったし、ボリューミーすぎてベスト10に入れたいやつも余裕で10枚から漏れちゃって、、、(TT)(TT)

今月の最高すぎてヤバいアルバムのTOP10の感想をランキングで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10. Kaitlyn Aurelia Smith & Emile Mosseri - "I Could Be Your Dog (Prequel)"

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音楽の進化

 モジュールシンセアーティストであるKaitlyn Aurelia Smith、そしてラストブラックマン・イン・サンフランシスコとかミナリとかのA24作品の音楽を手掛けたEmile Mosseri、そんな二人が共作したエクスペリメンタルのミニアルバム。それは言ってしまえば、"宇宙や精神世界を巧みに描くKaitlyn Aurelia SmithによるA24的映画音楽"みたいなことかなと思うのだけど、もうミニアルバムとは考えられないくらいの完成度と贅沢さを持ってる作品だった。Kaitlynの従来のサイエンティフィックなサウンドスケープによるSF的かつ瞑想的な体験と、そこにシネマティックでかつメロディックな映画音楽的アプローチがプラスされたイメージ。今まで体感型としての要素が強かったKaitlynの音楽に対して、A24的映画のストーリーの再現性みたいなものも組み合わさって、音楽が体感以上の意味を持つようになった作品だと思う。Moon In Your Eye (M2)とか本当に素晴らしすぎる。リスナーに幻覚を与えるKaitlynの魔術的なモジュールシンセの祭典をドラマチックに仕上げた曲。まるで物語の主人公が何かを成し遂げたような、勝利や祝福の描写を持ったメロディーだけど、曲名の"Moon In Your Eye"という状況設定と、Kaitlynのモジュールシンセのサイケデリックサウンドが、その勝利や祝福のニュアンスを大きく変える。宇宙や精神世界を舞台にした、異次元的で特別な感動、、、これがミニアルバムってもったいなさすぎる…!!泣。Kaitlynの瞑想的なシンセの世界観と、A24的映画音楽のEmileの作家性がほんとにぴったり一致してる感じ。短い曲だけど、その中に彼女たちのよさが結晶されてた。もっと聴きたい、もっと作ってほしいって思う。ハイビジョンなMVもめちゃめちゃ好き。

進化っておもしろい。例えばロボット、1960年代の鉄腕アトムとかのお絵描きみたいなアニメに熱狂した当時の人が、それから約50年後のスピルバーグ制作の実写版トランスフォーマーとか観たら、あまりのハイテクさにもう失神するんじゃないかなって思う 笑。ありえないものが実際に実現してしまうような驚異、音楽にもそんなような進化があると私は考えているけど、KaitlynとEmileの今作では特に、「もはや自然環境のサウンドと何も区別が付けられなくなる"エレクトロニックの発達"」というところを感じていた。シンセのサウンドのテクスチャにこだわりまくったようなI Could Be Your Dog (M4)もめちゃめちゃ素晴らしい。楽曲後半に出てくる夢想的なセンスのあのサウンド、自然的なものの一部ではないと疑いを持てなくなるようなエレクトロニック処理の人工音に感じるのだけど、現代の音楽はこんなところまで進化したんだって驚愕する。耳を凝らしてみれば、自然環境にもエレクトロニックなサウンドと同じ性質のものがたくさん見つかるのかもしれないけど、それでも自然と見分けがつかない人工音の発達というのは、まるで自分の感受性が限界に達していくようなヤバさがあると思う。視覚情報のように具体性を持たない音の芸術だからこその進化。そして何より、驚異的に美しい。I  Could Be Your Dog (M4)に関しては純粋にリラクゼーションの特性が強いし、世界観や物語の想像性という点でも鑑賞的内容度が本当に高い。改めて、一般的なミニアルバムの作品とは比べ物にならないような内容だった。

KaitlynとEmileはご近所さんらしく、今作はお互いが意気投合しつつも少し軽いノリで制作されたような作品なのかなって推測してる。果たしてそんなちょっとしたことでこんなに超大作が生まれるだろうか。。。笑。サウンドメイキング、シーンをしっかり把握できるようなメロディーの説得力、センス、作家性...、この二人本当に好き。普段のKaitlynの作品には見られないようなピアノがあるMoonweed (M7)も最高だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9. Spirits Having Fun - "Two"

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非現実的であることの期待と不安

 子供の頃におとぎ話の絵本を読んでいたとき、知らない世界へ飛び込むようなワクワクの感覚と同時に、真実が存在しないような空想特有の暗黒の部分も感じていた気がする。ファンタジーとは素敵でありながらもどこか恐ろしさを持っているし、そこには現実との絶対的な距離感を持った無限の切なさがあるのだと思う。私はその感覚のことをたまらなく愛おしく思っているし、そういった作品に巨大な憧れを抱いているのだけど、枠に囚われないポストロックのSpirits Having Funは、感情表現以上に物語を描くような高度なアンサンブルで、そのファンタジーの正と負の二面性の部分を見事に表現していた。ハスキーな女性ボーカルによるフェアリーライクなファルセット、子供心くすぐるピュアなメロディー、それでいながらコードを持たない不安定な曲調、次から次へ物語が新しく生まれていく展開、僅かな緊張感、そして幻想を生みだすためのクリエイティブなサウンドメイキング...。ジャケットのうさぎさんのシンボルのように愛らしいのに、譜面がとても複雑な感じで、ときに怖く、ときに胸を引き裂くような悲しみすらも創造してる。非現実的であることのときめきと切なさ、そしてその感覚に触れる、私にとってかけがえのない時間...。もう完全に虜になる。3曲目のThe Leaf Is a Chorusとかまさにそんな感じ。ぴょんぴょん飛び跳ねるようなリズムに、どこかに迷い込むようなミステリアスなメロディーで、音楽が「こっちへおいでよ」と語りかけるようにリスナーを導いていく。この期待と不安のフィーリング、正と負の二面性、もうこれぞファンタジーって感じがする...!ファルセットのボーカルには不思議ちゃんみたいなキャラ感も出てるし、ギターの綺麗なクランチのサウンドは全く予想できないリフやフレーズを形成するし、音楽が常にファンタジーの正と負の部分を秘めてるような丁度いいバランスがあった。何より、その二面性の奥が本当に深い!7月の頭にリリースされた作品だけど、正直まだまだ聴き足りないって思う。Hold the Phone (M2)とかの不気味な印象にイコライジングされたサウンドの使い方とかもすごい。鑑賞部分が多いアルバムだし、そして私にとってツボすぎる世界観だった。

5曲目のSee a Skyも強烈。この曲に関しては、Spirits Having Funの現実と空想の絶対的な距離感を最も感じさせるような、とてもとてもセンチメンタルな曲。でもそれは、メランコリックになって生命力が奪われてしまうような切なさなどではなく、ファンタジーに惹かれることで生じる、何か没頭するような引力を含んだ切なさの感じ。例えるなら"空想にふける"という内向的な体験を1番極めた状態なのだけど、本当にとてつもなく美しいって思う。うさぎさんのジャケが効いて、その切なさが自分の中で何か愛おしいものとして変換されたとき、Spirits Having Funに対してありがとうって心から思った。大人になっても、こうやってファンタジーのことに思いを馳せることができるって本当にありがたい。Spirits Having Funは、そういうこと実現できるクオリティだった。

初めて知ったグループだけど、バンド名もめちゃめちゃ突き刺さる。音楽だけでなく、ピュアネスを意識してることがバンドの名前の時点から伝わってくる。アーティスト写真やメンバーの雰囲気も自分が特に大好きな感じ。メロディーが風変りでおもしろいAm There (M10)とか、変拍子を自在に扱ったThe Sweet Oak (M12)とかも大好きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8. more* - "2/2 - EP"

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過去と現在の巨大な成り立ちの上で、今の私がいる

 私がmore*のロックのことを限りなく愛してるのは、一つの音楽の中に昔っぽさと今っぽさの作風が完璧に共存していて、"過去の音楽が今の時代も生きてる"とかそういう魅力以上に、過去の時代の音楽を継承すること、オマージュによって音楽への愛をもっと特別なものにすること、そういうことを叶える魔法性みたいなものがmore*のロックに詰まりまくってるところ。リメイクものであったり、単純なアップデートものというだけでなく、存在そのものが信じられないような、もっと神秘的で刺激的なエモーショナルさがある。アコギがちゃんと聞こえるようなカントリー上がりのアメリカンロック感、70年代に流行したグラミーな音感、ハッピーなサイケデリック感、あとはボサノバみたいなポカポカしたトロピカルさなんかも...。彼らが影響を受けた60s~70sのロックのルーツがふんだんに発揮された、とっても昔っぽい雰囲気の音楽のなのに、全体で見るとローファイやネオアコなどを連想させるような確実な今っぽさを感じる。特にThe Radio Dept.みたいなハイトーンなボーカル(MacRae)のクリアネスが本当にすごくて、センシティビティとかフレッシュさが高いものに仕上がってる。この過去と現在が不思議に両立してる感じというか、それによる音楽の特殊な存在感みたいなのが本当に大好きで、もうずっとずっと惹かれてた。EPの5曲漏れなくめちゃめちゃ最高だけど、その中でも4曲目のIsn't That Just Like Meがもう好きすぎてしんどい。。。アメリカンロック・サイケロックのクラシカルな趣があるバラードの中で、MacRaeの美しすぎるハイトーンボイスが炸裂しまくるような曲。思い馳せるようなノスタルジーに夢心地の歌を重ねて実現する驚異的な幸福、もうびっくりするくらい感動する。本当に至福すぎる曲なのだけど、その中に過去と現在が一体になったmore*ならでは魔法性も持ってるわけだから、とにかくディープな思いに駆られまくる。その前のGreen (M3)も、5曲目のLazy Jamesも、そんなような調子でめちゃめちゃ素敵。ジャケットのレコードのように素朴でありながらも美しさが止まらないような、そんなEPだった。

芸術とは、ある特別な方法で"リアル"を実体化して出現させるということ。心であったり、感情であったり、色であったり、風景であったり、そして世界であったり...。そこには様々な文化があって、過去と現在があって、それらの巨大な成り立ちの上で、今の私がいる。more*は、私にとってそんな"巨大な成り立ち"を感じさせるバンドで、私が触れてきた音楽たちに、これまでの何年もの歴史があったんだということを思い知らせる壮絶さも持っていた。しかもmore*の場合、アメリカンロックの大人っぽさとハイトーンなボーカルの大人っぽさが共通して繋がるような、音楽に一体感のあるまとまりがある。過去と現在がバラバラに存在しているのではなく、more*というバンドが鳴らす、一つの音楽として、その巨大な成り立ちが存在しているということ。もうすごくすごく最高。。。バンドのキャラクターとして一気に大ファンになった。このバンドを知れてよかったって本当に思う。マジでめちゃめちゃ大好き。

2020年の7月にリリースされてた1/2の方も傑作すぎてつらい、、、てかこれを聴き逃がしてたことが何よりつらい 泣。1/2の方はもっとアクティビティが強い感じ。これらのEP2枚をフルレングスのアルバムとしてリリースしてくれたら嬉しいなって思う。ボーカルのMacRaeは俳優の方がメインっぽいけど、写真見たら超イケメンだった、、、こんなに最高な音楽を奏でて、演技もできて、なんかもう色々ヤバいなって思ってる 泣。本当に大ファン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7. Blvck Hippie - "If You Feel Alone At Parties"

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こんな至高のメランコリー…愛さずにはいられない

 「もしパーティーで独りに感じるのなら ("If You Feel Alone At Parties")」、Blvck Hippieが紡いだ感情は、心にぽっかり穴が空くような寂しさだったり、日々生きていて時折感じる虚無感であったり、悲しくて、やるせなくて、それでいてとても人間らしく、愛すべき美しい情緒のものだったと思う。Pet Shimmersであったり、Lomeldaであったり、センチメンタルなフィーリングが搔き立てられまくる傑作というのは去年も色々あったと思うけど、Blvck Hippieはその類の中でも、メランコリックさがさらに一層極められた、今年屈指の芸術的なセンチメンタル音楽だったと思う。色褪せたローファイのサウンドに胸がつぶれそうになって、何かに思い馳せるようにしてドリーミーな気分に浸って、それらのエモさをありったけ堪能するオルタネイティブのロック。渦巻くギターのアルペジオに心が奪われて持っていかれてしまうArt School (M1)、メランコリックだけど切なくなりすぎないロックさが嬉しいAnswering Machine (M2)、深海に潜り込んでいくようなディープなドリーミーなサウンドが本当に最高なNye (M3)、今作の全てがそこに詰まってるタイトルトラックのIf You Feel Alone At Parties (M4)、秋の夜長のお供に是非とも持ってこいなSmoke Break Interlude (M5)、洞窟の中で響くような残響がセンチメンタルを美しく助長する July 5th (M8)......全曲がよすぎて全く隙がない。ダメだ、、、こんな至高のメランコリー、もう愛さずにはいられないよ、、、って思う 笑。9曲目~10曲目のTechnicolorも傑作。Blvck Hippieが泣きそうになるまで歌ってる様子が垣間見える、今作で1番気持ちが入ってるのではないかと思う曲。Blvck Hippieが込めたメランコリーが、ドリーミーに儚く揺れる3拍子の影響で最高に美しい状態になる。それがロックとして鳴らされて、一つの大きな情景となって、私に届いていく...。切なくて切なくてたまらない。その後にたたみかける弦楽パートも反則級の美しさ。前半の時点で超傑作だったのに、最後の最後まで飽きることなく素晴らしくて「なんだこれ 泣」って思った 笑。2021年秋のとっておきの思い出にしたくなるアルバム。

今作が傑作である所以は、6曲目のBunkbedにもあったと思う。こちらは今作一アグレッシブなナンバーだけど、メランコリー関係なくこれまたとても名曲...。音楽的にはCirca WavesとかCatfish And The Bottlemenとかにすごく似てると思うのだけど、正統派のロック・エモみたいな感じでバリバリにカッコイイ。センチメンタルなフィーリングが綺麗なアルバムでも、やっぱり根底にあるものはロックなんだなと思った。Answering Machine (M2)もそうだけど、気持ちが沈みすぎずアルバムのメランコリーを安定的に獲得できる 笑。ほんと、器用で隙のないアルバムだった。

私は、メンタルタイムトラベルという"音楽を聴いたらその時の記憶・感覚が蘇る"というやつのことを愛してる。私の体育会系の友達の中には、「大会の直前のアップとかに聞いてた曲は、そのときの感覚を思い出すから嫌だ」という人もいてウルトラびっくりしたけど 笑、私は悲しかったことも、しんどかったことも、好きな音楽によるメンタルタイムトラベルの思い出補正効果的なところを利用したい。今年の秋はBlvck Hippieで保存する。もう耳がもげるまでリピートして聴いて、脳みそに焼き付ける 笑。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6. Proc Fiskal - "SIREN SPINE SYSEX"

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音のランダムを幻想へ適応させる

 捨てられたものを再生利用するようにしてビデオゲームや身の回りの電子音をかき集め、カルチャーのおもちゃ箱のようなフットワーク~インストゥルメンタル・グライムを制作するProc Fiskal。パターンの中に膨大な数のパーツを詰め込み、それを高速的に展開する彼の作家性には、"緻密に計算してランダム性を導く"というような、楽しさとミステリアスさが結合した最高の魅力があったと思う。そんな2018年のデビューアルバムInsulaから、今作はオルガンやストリングスの性質がある聖なるサウンドや、民族音楽などの儀式的な雰囲気もたくさん採用した、Proc Fiskalの幻想性をさらに追及したような作品...。ジャケットを見たときから「もうこれ凄まじく大好きなやつじゃん、、、」って予感してたけど、案の定めちゃめちゃ大好きだった 笑。1曲目~3曲目のAnti Chessst、Convaerge Iana、Humancargoe Esttの前半でもうグイグイ引き込まれるけど、特にConvaerge Iana (M2)は皮膚が逆立ちしそうになるくらいヤバかった。緻密に計算してランダムを描くというProc Fiskalの作風にあったミステリアス性のところが、もっと神的な威力を発揮するようなナンバー。音を高速に繰り出していくハイな体験は、今までにないほどスピリチュアル化し、カルチャーのおもちゃ箱みたいな膨大なサンプリングは、神聖で同時に恐ろしいカオスとしての表現になる。なんという発展性...。これまでに持っていたProc Fiskalの持ち味的なところが、特殊なコンセプトでさらにブラッシュアップされてる。そしてそれが、神秘的な音楽が大好物な私のツボにさらに接近する結果に...笑。特に今作は、Met Path Thoth (M5)とかそうだけど、サウンドの存在感を大切に扱ったような音の与え方がとにかく素晴らしい。ただバチバチにカッコいいエレクトロニカを演って満足するだけでなく、描きたいものとしっかり向き合うようなアーティストとしての理念がちゃんとある。Insula (2018)の頃から聴きまくってたけど、今作はそれ以上に大好きだった。

ネクストレベル的なところでいうと、10曲目のLeith Tornn Carnalとかも超最高。フットワーク~インストゥルメンタル・グライムを貫いてきたProc Fiskalが、ここではまた別のスタイルを確立してる。R&Bっぽいホットな熱を持ってるダンストラックで、テクニカルなクセのないすっきりとした仕上がり。この少しルーズで穏和な感じもすごくいい!もともと遊び心溢れるアーティストだったと思うけど、こういうフラットなイメージでさらにその余裕のある人柄の人物像が見えてきた気がする。少し音圧の高いビート音を使った曲の激しさのバランスの部分も好きだし、幻想性の強いアルバムのことを重たくしすぎないところに貢献してるのもいい。他のリードトラックに劣らず、このLeith Tornn Carnal (M10)もすごく印象に残る曲だった。

秋はNicolas JaarやNothaj Thingみたいなエレクトロニカのやつを大量に摂取したくなる。Sharon Van EttenやRhye(泣)など、ぽっかり空いた心の穴を埋めてくれるような曲も秋は最高だけど、今年の秋はエレクトロニカが私のブーム。Proc Fiskalもこれを機にInsula (2018)を聴き直したりしてた。相変わらず内容度がとても濃い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5. MarthaGunn - "Something Good Will Happen"

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この音楽を朝へ持っていきたい。海へ持っていきたい。

 薄明りのオレンジ色をした朝焼けの空、遠く彼方まで続く海とその水平線、その空間上で鳴らす、5人のメンバーの音...。それは肌に沁みるようなリアルな温度感を持っていて、同時にリスナーのハートを照らすような炎も持っていて、どこかヒロイックで、何よりとてもとてもホープフルなエネルギーが込められた音。こういう、落ち込んでいるときも意欲を自然にモチベートしてくれるような、作品を通じてリスナーに希望を捧げるような音楽のことが私は好きすぎてマジで泣いちゃうのだけど、MarthaGunnが持っているもの、作品を通じて提示したいもの、そして彼女たちが届けたいものは、他のホープフルな音楽とは違うところがあった。朝焼けの質と全く同じような、涼しくも暖かいドリーミーなサウンドスケープ、腰の入ったファンクチックなグルーヴの生命力の伝達、The KIllersとかみたいな大規模なステージ感による高い感動レベル...。優しさとエネルギッシュさとダイナミックさがいっぺんに集約されたようなロック・ポップスで、それを朝焼けと海のジャケットの"夜明け"というコンセプトで象徴付けてる。この部分が超超超最高すぎてた。3曲目のGiving Inとかほんとに素晴らしい。朝とビーチがよく似合う爽やかで賑々しい雰囲気の曲。気分を持ち直すようなアップライズのフィーリングだったり、これから何かが始まるような高揚感であったり、それらの解放感みたいなものを、ジャケの朝焼けの空と海の広大な世界にリンクさせて、グルーヴィーにダイナミックにホープフルに奏でるような感じ。朝焼けとそれを見たときの自分のフィーリングをイメージしながら、そしてそれらの意図を狙った造り手の思いも合わせて感じながら聴くと、エモーショナルさがグワッッッと込み上げてくる。例えるならまさしくHAIMのWant You Backみたいな曲だと思うけど、MarthaGunnのこちらの方がやっぱり"朝焼け"という身に染みる温度感と、そのクリーンな感覚の美しさが強力だった。実際にこういう朝焼けの景色が見れる海辺のところで、そのときの時間帯で聴きたいって、本当に本当にめちゃめちゃ思う、、、この音楽を朝へ持っていきたい。海へ持っていきたい。それができたら私はどれだけ幸せだろうか...泣、MarthaGunnを聴くとそういうことをずっと考える。今までにないほど朝焼けへの憧れを強く喚起させる曲。他の曲に関しても、メロディーとかドラムとか全部全部よかった。

MarthaGunnのこのアルバムで私がドハマりしてるのが、6曲目のlost In The Moments。今作の中で、私が1番好きなMarthaGunnの"朝焼け感"。ロックでありながら少しシンセポップ的なキャラクターも感じさせる曲で、他のトラックよりもダンス要素さがより洗練されてるやつ。このダンサブルな喜びが、MarthaGunnが掲げる朝焼けの世界とシンクロするときの興奮が本当にヤバすぎてた...。心が高鳴って、希望で胸がいっぱいになって、自分の中に未来だとか可能性とかそういうものをうんと感じていくときのあのフィーリングを、ダンスの力強いビートで刻み込むということ。まるで自己肯定感の最上クラスみたいな、1番幸せな感覚の瞬間を思いっきり噛みしめるみたいに。もうめちゃめちゃにヤバい、、、臨場感も高くて、朝焼け的サウンドスケープもダイナミックさも一段階ハイレベルになってるのがまたヤバい。曲を聴き終えた後でも、メンバー達が映るそのジャケットを見ただけでそれを思い出す。私の心に残りまくるMarthaGunnの朝焼け。もうハチャメチャに大好きな曲だった。

MarthaGunnって、中世のイギリスで実在した歴史上の人物の女性らしい。夜明けが象徴する希望、やっぱりどこかヒロイックなバンドだなって思った。Little Simzとかとはまた違う、シャイニーなニュアンスのある革命っぽさ。このジャケがもし朝焼けじゃなく夕焼けだとしても、私はこれからもずっと大好きだと思う 笑。10曲目のSee You Againみたいな、寄り添って抱きしめてくれるような曲もめちゃ素晴らしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4. Nala Sinephro - "Space 1.8"

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幻のメロディー

 最初の1曲目Space 1を聴いたとき、感触でいえば100%Floating Pointsだった。静寂と無と果てしなさを体現した次世代型のアートで、名前の通りとてもとてもスペーシーな音楽の作品。ピアノやサックスの旋律に酔いしれまくるコンテンポラリータイプのジャズをメインに、無重力の空間を無心になって漂流していくようなアンビエントから、近未来の瞑想空間を演出するような音響エレクトロニカまで、電子音楽を応用した"宇宙旅行的ジャズ"という感じに出来上がってる。これを聴いてる時間が本当に最高なひと時すぎて、、、笑。電子音楽の高級感、ジャズが放つ色気と甘い香り、それらのハイクラスなオシャレ感、そしてそれをいつまでもリスナーに提供してくれるような無限性...。それは、Alessandro Cortiniみたいな「宇宙独りぼっちSF映画」的な壮絶な孤独感に苛まれるようなものとは全然違くて、むしろずっとそこにいたくなる居心地のよさやヒーリングの効力を強く持ってるもの。1曲目Space 1からその宇宙空間の設定を済ませて、2曲目のSpace 2から無敵の贅沢モードに突入する...笑。こういう果てしなさを持ってる世界観だと、普通なら不安感も煽られたりするはずだと思うけど、Nala Sinephroの場合はSpace 1からエレクトロニックピアノの浸透性が高くて、リスナーの心をほぐすような安心感を最強に作ってくれる...。Space 1でそういう状態になれるからこそ、Space 2やSpace 4のジャズアンサンブルを心ゆくまで堪能できるということ。"宇宙旅行的ジャズ"ってやっぱりどこまでもヤバいと思うし、実際にサックスとか感情の起伏がとても綺麗にコントロールされた極上の演奏...。Floating Points的な作風に私がめちゃめちゃ弱いというのもあったし、もうメロメロになりまくてった。。。笑

Space 5とSpace 6も大好きだけど、Space 8はもっとお気に入りだった。17分越えの大規模なヒーリングのアンビエントを体験して、最終的にNala Sinephroの神髄に辿り着くような曲。中盤以降12分ごろに宙を飛行するメロディーが表れるけど、電子音楽のスページーなコンセプトの無限性という点から、私にはそれが不死鳥に思える。Nala Sinephroの長い長い冒険、または壮絶な精神統一を経た後に出会う、幻のメロディー。素晴らしすぎてマジでびっくりする。宇宙旅行的ジャズの体験は、ただの贅沢タイムではなく、ただのヒーリングのサービスでもなく、全て幻のメロディーと出会うためのものだったんだと思い知るような圧倒...。これを22歳の若さで作ったという事実がありえない、、、笑。ほんと、なんて卓越したアーティストなんだろう。

今作は9月10日リリースのアルバムだったらしいけど、マジで全然スルーしてた...(ピッチで取り扱ってくれなかったらずっと気づかなかった。)ピッチにすごく感謝、そしてWarpメーリングリストを迷わず登録した。引っ越し予定してるからあんまりものを買いたくないのだけど、Nala Sinephroの今作は是非レコード手に入れたい、、、(希少すぎてもう無理かな...(TT)(TT))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3. Little Simz - "Sometimes I Might Be Introvert"

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イマジネイティブを武器として

 音楽はイメージを創り出す。時にそれは、自身の内側に王国を築くことだって可能にする。メロディーは意志となり、精神となり、アーティストとリスナーの肉体にまで力強く宿る...。世界を震撼させるプログレッシブさを含んでるLittle Simzの今作は、そういった音楽の力が思い切り込められたような、パワフルでかつとてもアーティスティックでカルチュラルな作品だったと思う。1時間のアルバムの内の10%程度しか占めてないとはいえ、今作の核となるようなオープニングのIntrovertが、もう「これでもかァ!!」ってくらい名曲...笑。ラスボス戦のバトルBGMのような精神が高ぶりまくる神々しいシンフォニーのヒップホップ。ドラムロールとティンパニーとチューバが豪快にヘヴィな迫力を生み出して、ストリングスとギターの弦楽器達が鮮やかにリッチに空間を飾っていく...。エネルギー、ステージ、バリエーション、何もかもが大スケールなのに、それらが全てLittle Simzたった一人の存在を導くように演出されてるのが本当に本当にヤバすぎる。もともと今作は、オーケストラのスタイルを基本としたエレガントでゴージャスな作風が特徴的だけど、それは大御所のアーティスト達とたくさんコラボするような豪華さではなく、むしろその逆で、たった一人の人物のパフォーマンスだけで成り立ってるような豪華さだということ。オーケストラのバッキングが彼女の存在をライトアップし、その覇気を纏いながら堂々と歌うような姿がある。それはまるで、Little Simzという人物のクリエイティビティが、想像性が、そして彼女の内面に抱えているものがいかに強大なものであるかを訴えるような、彼女の渾身の一撃。「私も人間なんだ」、「私の内面は、これほどまでに豊かなのだ」と言うように。...もう感動と熱狂が収まらない、、、!!泣。私の心を震わせる、同時に恐怖を打ち破るような勇気もくれる、Little SimzのIntrovertはそんな曲。もう素晴らしくて素晴らしくてたまらない。楽曲冒頭のオペラチックなファンファーレのパートを聴いただけでももうクオリティが段違いだなって思う。それ以降の展開のストーリ性だとかメロディーの種類とかの点でいってもバケモノのような完成度。それらが全て意志となり、力となり、これ以上にないほどの"反抗"となる...。この圧倒的で革命的なやつは、もはやハードコアだとかエモとか他の種類の音楽にも決して再現できない気がする。何度リピートしても鳥肌が立つってもう怖いんだけど、、、笑。他にも、Introvertと同じ質のシンフォニック性を持ってるのが嬉しいI Love You I Hate You (M4)、ソウル・ゴスペル系のほっこりするハートウォーミングがあるLittle Q, Pt. 1&2 (M5,6)、ラップのアグレッシブさと管楽器のウィンディーな印象の対比が超カッコイイStanding Ovation (M9)、一転変わってエレクトロニックのカラフルなムードのギャップでギュンギュンくるProtect My Energy (M13)、そしてジャジーにしっとりと仕上げた最高にウェットなThe Garden Interlude~How Did You Get Here (M17,M18)などなど、いい曲がめちゃ盛りだくさんの超充実したアルバムだった。Introvertなしにしても十分に傑作の感じがした。

これまでに、社会に対して何か変革を起こすような、またはそういうことを志した作品って数え切れないほどあったと思うけど、Little Simzの今作の場合は、従来でありがちだった過激な表現であったり、過度な感情表現による反抗などではなくて、人間の持つイマジネイティブなパワーや、人間の内面の豊かさについて主張した反抗だったと思う。パワフルではあるけど あくまでアーティスティックでカルチュアルな表現として完成させて、普遍的な人間らしさの価値について説いたようなイメージ。私的にはこの部分が猛烈にツボだった。Introvertのような神々しい曲とは別に、11曲目のThe Rapper That Came To Teaなんかもすごく印象に残る曲だったと思う。ディズニーのミュージカルみたいにめちゃめちゃファンタジックなオーケストラのナンバー。Introvertとは雰囲気が全く違うけど、"私の内面がいかに豊かであるか"というような主張の部分には、Introvertで訴えていた精神にも通じるものがあった気がする。社会に対してただガムシャラに怒るような闘い方をするのではなく、アーティストならではのイマジネイティブさを武器とした闘い方。もう本当にLittle Simz大好き。感情であるとか思想であるとか、私も自分の内面こそ1番大切にしたいし、できるのであれば、私は自分の存在価値は容姿や学歴など表面的なステータスではなく、自分の内面にあるもので確立したい。だからこそ、これ以上ないくらい革命的なIntrovertにおいて、自身の豊かさ・内面について訴えるLittle Simzの姿が、私にとってはどこか英雄的にも見えた。"Sometimes I might be introvert"、これはほんとに名盤だと思う。

私が音源を所持してるヒップホップ作品は、例えばDanny Brownの2016年作とかTyler, The Creatorの2017年作とかで、やっぱりヒップホップはまだまだ守備範囲がガバガバなのだけど、その中でもLittle Simzの今作は、私史上1番夢中になれるヒップホップ作品だったかも。6月の月間ベストアルバムのSaultのところでも言ったAzealia BanksとかKreayshawnとか、私の好きな他のフィメールラッパーの作品よりもハマるアルバム。社会に対するムーヴメント的なところで言ってももちろん無視できない感じ。改めて、音楽が持つ力というものを実感できた気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2. Sufjan Stevens & Angelo De Augustine - "A Beginner's Mind"

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音楽による映画が持つイズムの感情化

 記憶に眠る大切な思い出を再現するような、誰かに愛されていたことを思い出すような、フォーキーで和やかで、ドリーミーでこの上なく暖かくて、センセーショナルに心に沁み渡る、真心が深く深く込められたSufjan StevensとAngelo De Augustineのインディーフォーク×ニューエイジ。今作はそんな作家性でもって、有名なホラー・スリラー・ドラマなどの映画のインスピレーションで作られたアルバムで、映画というものが普遍的に持つある種のイズムを、音楽によって感情化したような作品だと思う。映画が物語る人生観であったり、感覚であったり、またはそれに対する個人の思想だとか、スフィアンとアンジェロの二人のフィルターを通じて、映画が持つ概念を大切に音楽化したということ。結果的に、クオリティとか充実度がめちゃめちゃ半端ない一作になってた。。。とにかく、「作品に込められたものは何か」とか「作品から何を得たのか」というのが確実に伝わってくるようなリアリティであるとか、それを的確に表現する幅広い方向性を持ったアレンジのテクニックだとか、それらの納得感や説得力であるとか、そういう部分の徹底っぷりが本当にすごく感じられる。ディズニーのファンタジーアドベンチャーの『オズ(1985)』を題材とした今作3曲目のBack To Ozとか名曲すぎてヤバい。少女の心情に着実な可愛いグルーヴのリズムパターン、ファンタジーの世界観に着実なメロディックなフレーズ、そして物語の主人公に通じる全てに人へエールを送るようなスフィアンとアンジェロの二人の意思の反映...。ここにはスフィアンの過去作のCarrie & Lowell (2015)とかThe Ascension (2020)にもなかった新しいビジョンがあるし、そこに対して映画の物語すらも借りて来てしまうようなところが本当にずるい...笑。何より、フレーズに対するリリックの音のハメ方が最高すぎる。"Get it right, follow my heart" (自分の心に従って)、"Back to, back to Oz~♪、思わずこちらも口ずさみたくなる、キャッチーさに富みまくった至高のメロディー。リリックの内容のよさも相まってるし、本当に格別な1曲だと思った。もちろん、『ベルリン・天使の詩(1987)』が題材のReach Out (M1)とか、『イヴの総て(1950)』が題材のLady Macbeth In Chains (M2)とかも紛れもなく素晴らしかった。

『マッドマックス(1979)』のMurder and Crime (M8)もめちゃめちゃ名曲だと思う。暴力や破壊の世界の中で作品が示唆するもの。それを受け取った二人が音楽として残すもの。私的には何かレクイエムというか、ロウソクに灯りが灯るような、そういった質の温もりを感じる。それは弔いのようなもので、命の真価について真摯に向き合ったものであって、そしてスフィアンとアンジェロの作家性が炸裂しまくったような曲。映画からインスパイアされた作風だからこそ生み出せた、彼らにとって、そして私にとってかけがえのない一曲。もう大好きが止まらない。スフィアンのCarrie & Lowell (2015)っぽいアプローチが尚刺さる。そこから9曲目の(This Is) The Thingの流れも とてもとてもエモーショナルだった。

私の人生ベストアーティストの5本指に入るSufjan Stevens(Angelo De Augustineももちろん大好きです)、今作は初期の頃の ほのぼのフォークやCarrie & Lowell (2015)の色が濃かったところも嬉しかった。The Ascension (2020)もめちゃめちゃ泣いてたけど、今作のフォークはなんともSufjan Stevensらしいテイスト。シカゴならではのクリスマス感などもあったし、涼しくなってきた今のシーズンに合うこと合うこと...笑。あと実は、『ベルリン・天使の詩(1987)』に関しては『竜とそばかすの姫』の主人公ベルの翼のモチーフにもなってた作品で、私的にとてもトレンドだった 笑。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1. Lyra Pramuk - "Delta"

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神に対抗する禁断の芸術

 声、それはすなわち生命力。Lyra Pramukは自身の声音のみでFountain (2020)を制作し、"Fountain"という概念が所有する命やその神秘を偽りなく生々しく象徴したのだと思う。そこには詩はなく、形もなく、ただひたすらに己の声を誰かに届けようとするような、自らの生命力を全て信仰に捧げるという、究極的な祈りの姿を持っていた。今作Deltaは、その"声"に共感した総勢12名のアーティストによる、Fountainの拡張版的なリミックスのアルバム。Ben Frost、Colin Self、Hudson Mohawke、Vessel...ユニークなコンポーザー達が、Fountainの楽曲にそれぞれのアイデンティティを反応させ、Lyraの信仰に対してさらに力を及ぼすということ。それは、Lyraの声を基盤として曲を再構成するという、アートからアートを生み出すような二重構造の構築がある。Lyraの信仰を別の造り手が独自に解釈し、Fountainの命と神秘がさらなる世界を生み、それらがコレクションされ約90分の巨大な超大作となった"Delta"は、例えるなら恒星の集合によって形成された銀河のようなアルバムだった。もはや、存在することが信じられない。Lyraの声が、生命力が、何人もの偉大なるアーティストの手によって、一つの大きな魂となる瞬間。私にはこれが、まるで人間が神に対抗するための禁断の芸術のようにすら思えてしまう。12人の鬼才達がLyraの声をリスペクトし、称え、作品の持つもの全てを強調するところは、「Fountainというアルバムの命・神秘・信仰がもたらすものが、どれほど特別で、どれほど価値のあるものか」ということを全身全霊を懸けて訴えてるようにも感じられる。1曲目Offering (feat. Valgeir Sigurðsson)を経た後の2曲目のWitness (feat. Colin Self) [Selfless Rework]からとてつもなくて耐えられない。Colin Selfらしいエキセントリックでヒステリックなアレンジで、原曲Witnessのハーモニックなアンビエントに恐ろしく危険なハードコア系のダンス性が吸収されてる。原曲の時点であれほどエモーショナルだったのに、Colin Selfの激しい怒りのニュアンスで、自分の生命力を捧げようとするLyraの信仰の部分に、何か狂気のようなニュアンスも付加してるイメージ。オリジナル版のFountainにはなかった興奮と爆発力。あまりにも壮絶すぎる。やっぱり、Godspeed You! Black Emperorとか、祈りに対して命がけになるような熱さを持っている音楽ってこの世界で1番素晴らしいって思う。ハードコア系のゴスさがあるColin Selfの特性も、ビートの打撃感とかWitnessの曲調にちょうどいいアクセントでハマってたし、Lyraの音楽との相性がとてもよくて本当に素晴らしかった。そういう神みたいな曲が、Returnless (feat. Kara-Lis Coverdale) (M5)だったり、Fountain (ars amatoria) [feat. Vessel] (M7)と数々用意されてる。造り手のユニークな解釈のおもしろさ、芸術性の発揮、興奮と爆発力、命と神秘と信仰のさらなる創造、それらが何重にもなった、神に対抗するような力...。もう頭おかしくなるくらい大好きなアルバムだった。

Hudson MohawkeがフィーチャリングしてるTendril (Midnight Peach Rework) (M4)も画期的で驚異的に素晴らしかったと思う。抽象画のような不明瞭さがあるLyraの原曲に対して、もっと意識がハッとさせられるような鮮明なシンセサウンドの起用。従来の高貴なイメージに反するようなシンセポップ的バランスで仕上げてるのがセンスやばすぎるし、それによって音楽に対する食いつき具合がグッと変わっていく。どうしたらこんなにも奇抜なアレンジを違和感なくスタイリッシュに適用できるのだろうか。原曲のTendrilにあった華々しさみたいなものがもっと色鮮やかに開花していて、曲の解釈のおもしろさ、さらなる世界の創造、Lyraに対するリスペクト、そのアピール、何もかもが見事だったと思う。Lyraの曲の魅力の再発見というのはもちろん、Hudson Mohawkeに対しての好感もアップする。そういうことが、Deltaというアルバムの中で何十曲もの規模で実現されてるということ。やっぱり考えられない。色々な意味で本当に桁違いな作品であった。

私の2020年のベストソングはぶっちぎりでLyra PramukのNew Moon。祈りを概念化した漠然としたアンビエントの存在と、曲名で定義付けられる音楽の世界観・ストーリーの組み合わせ方のところに、もう命尽きる限界のところまで感動して、聴く度に失明する勢いで泣いてた。私にとってそんなLyra Pramukが、グローバルなアーティストが大規模にクロスオーバーするという形で、Lyraの音楽に込められたものを何人もの作家がトリビュートするというプロジェクトを作ってくれたわけだから、それはそれはヤバいよな、、、って思った。。。普段リミックスってスルーしがちだけど、私にとって今作はそれが絶対に不可能だったアルバム。Lyraの生命力をシンボライズするようなDonna Huancaのアートワークも理性がぶち壊れるレベルで好きだった。ほんと、Valgeir SigurðssonとかGabber Modus OperandiとかTygapawとか、コラボしてる全アーティストのことが好きになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

プレイリスト

Apple Music ↓

温の「2021年9月ベストアルバム(温)」をApple Musicで

 

Spotify

open.spotify.com

 

その他 9月のベストアルバム

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Ada Lea - "one hand on the steering wheel the other sewing a garden"

Andy Shauf - "Wilds"

Ásgeir - "The Sky Is Painted Gray Today - EP"

Blunt Bangs - "Proper Smoker"

Central Heat Exchange - "Central Heat Exchange"

Dark Family - "Dark Family"

Low - "Hey What"

Mild High Club - "Going Going Gone"

Sleigh Bells - "Texis"

SUUNS - "The Witness"