アルバム感想(温)

My Favorite Music

「2021年9月ベストアルバムTOP10」感想

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今月は後から最高なやつが見つかるパターンが多くて困ってた、、、1位級のアルバムがゴロゴロあってランキングを選ぶのがかなりハードだったし、ボリューミーすぎてベスト10に入れたいやつも余裕で10枚から漏れちゃって、、、(TT)(TT)

今月の最高すぎてヤバいアルバムのTOP10の感想をランキングで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10. Kaitlyn Aurelia Smith & Emile Mosseri - "I Could Be Your Dog (Prequel)"

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音楽の進化

 モジュールシンセアーティストであるKaitlyn Aurelia Smith、そしてラストブラックマン・イン・サンフランシスコとかミナリとかのA24作品の音楽を手掛けたEmile Mosseri、そんな二人が共作したエクスペリメンタルのミニアルバム。それは言ってしまえば、"宇宙や精神世界を巧みに描くKaitlyn Aurelia SmithによるA24的映画音楽"みたいなことかなと思うのだけど、もうミニアルバムとは考えられないくらいの完成度と贅沢さを持ってる作品だった。Kaitlynの従来のサイエンティフィックなサウンドスケープによるSF的かつ瞑想的な体験と、そこにシネマティックでかつメロディックな映画音楽的アプローチがプラスされたイメージ。今まで体感型としての要素が強かったKaitlynの音楽に対して、A24的映画のストーリーの再現性みたいなものも組み合わさって、音楽が体感以上の意味を持つようになった作品だと思う。Moon In Your Eye (M2)とか本当に素晴らしすぎる。リスナーに幻覚を与えるKaitlynの魔術的なモジュールシンセの祭典をドラマチックに仕上げた曲。まるで物語の主人公が何かを成し遂げたような、勝利や祝福の描写を持ったメロディーだけど、曲名の"Moon In Your Eye"という状況設定と、Kaitlynのモジュールシンセのサイケデリックサウンドが、その勝利や祝福のニュアンスを大きく変える。宇宙や精神世界を舞台にした、異次元的で特別な感動、、、これがミニアルバムってもったいなさすぎる…!!泣。Kaitlynの瞑想的なシンセの世界観と、A24的映画音楽のEmileの作家性がほんとにぴったり一致してる感じ。短い曲だけど、その中に彼女たちのよさが結晶されてた。もっと聴きたい、もっと作ってほしいって思う。ハイビジョンなMVもめちゃめちゃ好き。

進化っておもしろい。例えばロボット、1960年代の鉄腕アトムとかのお絵描きみたいなアニメに熱狂した当時の人が、それから約50年後のスピルバーグ制作の実写版トランスフォーマーとか観たら、あまりのハイテクさにもう失神するんじゃないかなって思う 笑。ありえないものが実際に実現してしまうような驚異、音楽にもそんなような進化があると私は考えているけど、KaitlynとEmileの今作では特に、「もはや自然環境のサウンドと何も区別が付けられなくなる"エレクトロニックの発達"」というところを感じていた。シンセのサウンドのテクスチャにこだわりまくったようなI Could Be Your Dog (M4)もめちゃめちゃ素晴らしい。楽曲後半に出てくる夢想的なセンスのあのサウンド、自然的なものの一部ではないと疑いを持てなくなるようなエレクトロニック処理の人工音に感じるのだけど、現代の音楽はこんなところまで進化したんだって驚愕する。耳を凝らしてみれば、自然環境にもエレクトロニックなサウンドと同じ性質のものがたくさん見つかるのかもしれないけど、それでも自然と見分けがつかない人工音の発達というのは、まるで自分の感受性が限界に達していくようなヤバさがあると思う。視覚情報のように具体性を持たない音の芸術だからこその進化。そして何より、驚異的に美しい。I  Could Be Your Dog (M4)に関しては純粋にリラクゼーションの特性が強いし、世界観や物語の想像性という点でも鑑賞的内容度が本当に高い。改めて、一般的なミニアルバムの作品とは比べ物にならないような内容だった。

KaitlynとEmileはご近所さんらしく、今作はお互いが意気投合しつつも少し軽いノリで制作されたような作品なのかなって推測してる。果たしてそんなちょっとしたことでこんなに超大作が生まれるだろうか。。。笑。サウンドメイキング、シーンをしっかり把握できるようなメロディーの説得力、センス、作家性...、この二人本当に好き。普段のKaitlynの作品には見られないようなピアノがあるMoonweed (M7)も最高だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9. Spirits Having Fun - "Two"

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非現実的であることの期待と不安

 子供の頃におとぎ話の絵本を読んでいたとき、知らない世界へ飛び込むようなワクワクの感覚と同時に、真実が存在しないような空想特有の暗黒の部分も感じていた気がする。ファンタジーとは素敵でありながらもどこか恐ろしさを持っているし、そこには現実との絶対的な距離感を持った無限の切なさがあるのだと思う。私はその感覚のことをたまらなく愛おしく思っているし、そういった作品に巨大な憧れを抱いているのだけど、枠に囚われないポストロックのSpirits Having Funは、感情表現以上に物語を描くような高度なアンサンブルで、そのファンタジーの正と負の二面性の部分を見事に表現していた。ハスキーな女性ボーカルによるフェアリーライクなファルセット、子供心くすぐるピュアなメロディー、それでいながらコードを持たない不安定な曲調、次から次へ物語が新しく生まれていく展開、僅かな緊張感、そして幻想を生みだすためのクリエイティブなサウンドメイキング...。ジャケットのうさぎさんのシンボルのように愛らしいのに、譜面がとても複雑な感じで、ときに怖く、ときに胸を引き裂くような悲しみすらも創造してる。非現実的であることのときめきと切なさ、そしてその感覚に触れる、私にとってかけがえのない時間...。もう完全に虜になる。3曲目のThe Leaf Is a Chorusとかまさにそんな感じ。ぴょんぴょん飛び跳ねるようなリズムに、どこかに迷い込むようなミステリアスなメロディーで、音楽が「こっちへおいでよ」と語りかけるようにリスナーを導いていく。この期待と不安のフィーリング、正と負の二面性、もうこれぞファンタジーって感じがする...!ファルセットのボーカルには不思議ちゃんみたいなキャラ感も出てるし、ギターの綺麗なクランチのサウンドは全く予想できないリフやフレーズを形成するし、音楽が常にファンタジーの正と負の部分を秘めてるような丁度いいバランスがあった。何より、その二面性の奥が本当に深い!7月の頭にリリースされた作品だけど、正直まだまだ聴き足りないって思う。Hold the Phone (M2)とかの不気味な印象にイコライジングされたサウンドの使い方とかもすごい。鑑賞部分が多いアルバムだし、そして私にとってツボすぎる世界観だった。

5曲目のSee a Skyも強烈。この曲に関しては、Spirits Having Funの現実と空想の絶対的な距離感を最も感じさせるような、とてもとてもセンチメンタルな曲。でもそれは、メランコリックになって生命力が奪われてしまうような切なさなどではなく、ファンタジーに惹かれることで生じる、何か没頭するような引力を含んだ切なさの感じ。例えるなら"空想にふける"という内向的な体験を1番極めた状態なのだけど、本当にとてつもなく美しいって思う。うさぎさんのジャケが効いて、その切なさが自分の中で何か愛おしいものとして変換されたとき、Spirits Having Funに対してありがとうって心から思った。大人になっても、こうやってファンタジーのことに思いを馳せることができるって本当にありがたい。Spirits Having Funは、そういうこと実現できるクオリティだった。

初めて知ったグループだけど、バンド名もめちゃめちゃ突き刺さる。音楽だけでなく、ピュアネスを意識してることがバンドの名前の時点から伝わってくる。アーティスト写真やメンバーの雰囲気も自分が特に大好きな感じ。メロディーが風変りでおもしろいAm There (M10)とか、変拍子を自在に扱ったThe Sweet Oak (M12)とかも大好きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8. more* - "2/2 - EP"

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過去と現在の巨大な成り立ちの上で、今の私がいる

 私がmore*のロックのことを限りなく愛してるのは、一つの音楽の中に昔っぽさと今っぽさの作風が完璧に共存していて、"過去の音楽が今の時代も生きてる"とかそういう魅力以上に、過去の時代の音楽を継承すること、オマージュによって音楽への愛をもっと特別なものにすること、そういうことを叶える魔法性みたいなものがmore*のロックに詰まりまくってるところ。リメイクものであったり、単純なアップデートものというだけでなく、存在そのものが信じられないような、もっと神秘的で刺激的なエモーショナルさがある。アコギがちゃんと聞こえるようなカントリー上がりのアメリカンロック感、70年代に流行したグラミーな音感、ハッピーなサイケデリック感、あとはボサノバみたいなポカポカしたトロピカルさなんかも...。彼らが影響を受けた60s~70sのロックのルーツがふんだんに発揮された、とっても昔っぽい雰囲気の音楽のなのに、全体で見るとローファイやネオアコなどを連想させるような確実な今っぽさを感じる。特にThe Radio Dept.みたいなハイトーンなボーカル(MacRae)のクリアネスが本当にすごくて、センシティビティとかフレッシュさが高いものに仕上がってる。この過去と現在が不思議に両立してる感じというか、それによる音楽の特殊な存在感みたいなのが本当に大好きで、もうずっとずっと惹かれてた。EPの5曲漏れなくめちゃめちゃ最高だけど、その中でも4曲目のIsn't That Just Like Meがもう好きすぎてしんどい。。。アメリカンロック・サイケロックのクラシカルな趣があるバラードの中で、MacRaeの美しすぎるハイトーンボイスが炸裂しまくるような曲。思い馳せるようなノスタルジーに夢心地の歌を重ねて実現する驚異的な幸福、もうびっくりするくらい感動する。本当に至福すぎる曲なのだけど、その中に過去と現在が一体になったmore*ならでは魔法性も持ってるわけだから、とにかくディープな思いに駆られまくる。その前のGreen (M3)も、5曲目のLazy Jamesも、そんなような調子でめちゃめちゃ素敵。ジャケットのレコードのように素朴でありながらも美しさが止まらないような、そんなEPだった。

芸術とは、ある特別な方法で"リアル"を実体化して出現させるということ。心であったり、感情であったり、色であったり、風景であったり、そして世界であったり...。そこには様々な文化があって、過去と現在があって、それらの巨大な成り立ちの上で、今の私がいる。more*は、私にとってそんな"巨大な成り立ち"を感じさせるバンドで、私が触れてきた音楽たちに、これまでの何年もの歴史があったんだということを思い知らせる壮絶さも持っていた。しかもmore*の場合、アメリカンロックの大人っぽさとハイトーンなボーカルの大人っぽさが共通して繋がるような、音楽に一体感のあるまとまりがある。過去と現在がバラバラに存在しているのではなく、more*というバンドが鳴らす、一つの音楽として、その巨大な成り立ちが存在しているということ。もうすごくすごく最高。。。バンドのキャラクターとして一気に大ファンになった。このバンドを知れてよかったって本当に思う。マジでめちゃめちゃ大好き。

2020年の7月にリリースされてた1/2の方も傑作すぎてつらい、、、てかこれを聴き逃がしてたことが何よりつらい 泣。1/2の方はもっとアクティビティが強い感じ。これらのEP2枚をフルレングスのアルバムとしてリリースしてくれたら嬉しいなって思う。ボーカルのMacRaeは俳優の方がメインっぽいけど、写真見たら超イケメンだった、、、こんなに最高な音楽を奏でて、演技もできて、なんかもう色々ヤバいなって思ってる 泣。本当に大ファン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7. Blvck Hippie - "If You Feel Alone At Parties"

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こんな至高のメランコリー…愛さずにはいられない

 「もしパーティーで独りに感じるのなら ("If You Feel Alone At Parties")」、Blvck Hippieが紡いだ感情は、心にぽっかり穴が空くような寂しさだったり、日々生きていて時折感じる虚無感であったり、悲しくて、やるせなくて、それでいてとても人間らしく、愛すべき美しい情緒のものだったと思う。Pet Shimmersであったり、Lomeldaであったり、センチメンタルなフィーリングが搔き立てられまくる傑作というのは去年も色々あったと思うけど、Blvck Hippieはその類の中でも、メランコリックさがさらに一層極められた、今年屈指の芸術的なセンチメンタル音楽だったと思う。色褪せたローファイのサウンドに胸がつぶれそうになって、何かに思い馳せるようにしてドリーミーな気分に浸って、それらのエモさをありったけ堪能するオルタネイティブのロック。渦巻くギターのアルペジオに心が奪われて持っていかれてしまうArt School (M1)、メランコリックだけど切なくなりすぎないロックさが嬉しいAnswering Machine (M2)、深海に潜り込んでいくようなディープなドリーミーなサウンドが本当に最高なNye (M3)、今作の全てがそこに詰まってるタイトルトラックのIf You Feel Alone At Parties (M4)、秋の夜長のお供に是非とも持ってこいなSmoke Break Interlude (M5)、洞窟の中で響くような残響がセンチメンタルを美しく助長する July 5th (M8)......全曲がよすぎて全く隙がない。ダメだ、、、こんな至高のメランコリー、もう愛さずにはいられないよ、、、って思う 笑。9曲目~10曲目のTechnicolorも傑作。Blvck Hippieが泣きそうになるまで歌ってる様子が垣間見える、今作で1番気持ちが入ってるのではないかと思う曲。Blvck Hippieが込めたメランコリーが、ドリーミーに儚く揺れる3拍子の影響で最高に美しい状態になる。それがロックとして鳴らされて、一つの大きな情景となって、私に届いていく...。切なくて切なくてたまらない。その後にたたみかける弦楽パートも反則級の美しさ。前半の時点で超傑作だったのに、最後の最後まで飽きることなく素晴らしくて「なんだこれ 泣」って思った 笑。2021年秋のとっておきの思い出にしたくなるアルバム。

今作が傑作である所以は、6曲目のBunkbedにもあったと思う。こちらは今作一アグレッシブなナンバーだけど、メランコリー関係なくこれまたとても名曲...。音楽的にはCirca WavesとかCatfish And The Bottlemenとかにすごく似てると思うのだけど、正統派のロック・エモみたいな感じでバリバリにカッコイイ。センチメンタルなフィーリングが綺麗なアルバムでも、やっぱり根底にあるものはロックなんだなと思った。Answering Machine (M2)もそうだけど、気持ちが沈みすぎずアルバムのメランコリーを安定的に獲得できる 笑。ほんと、器用で隙のないアルバムだった。

私は、メンタルタイムトラベルという"音楽を聴いたらその時の記憶・感覚が蘇る"というやつのことを愛してる。私の体育会系の友達の中には、「大会の直前のアップとかに聞いてた曲は、そのときの感覚を思い出すから嫌だ」という人もいてウルトラびっくりしたけど 笑、私は悲しかったことも、しんどかったことも、好きな音楽によるメンタルタイムトラベルの思い出補正効果的なところを利用したい。今年の秋はBlvck Hippieで保存する。もう耳がもげるまでリピートして聴いて、脳みそに焼き付ける 笑。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6. Proc Fiskal - "SIREN SPINE SYSEX"

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音のランダムを幻想へ適応させる

 捨てられたものを再生利用するようにしてビデオゲームや身の回りの電子音をかき集め、カルチャーのおもちゃ箱のようなフットワーク~インストゥルメンタル・グライムを制作するProc Fiskal。パターンの中に膨大な数のパーツを詰め込み、それを高速的に展開する彼の作家性には、"緻密に計算してランダム性を導く"というような、楽しさとミステリアスさが結合した最高の魅力があったと思う。そんな2018年のデビューアルバムInsulaから、今作はオルガンやストリングスの性質がある聖なるサウンドや、民族音楽などの儀式的な雰囲気もたくさん採用した、Proc Fiskalの幻想性をさらに追及したような作品...。ジャケットを見たときから「もうこれ凄まじく大好きなやつじゃん、、、」って予感してたけど、案の定めちゃめちゃ大好きだった 笑。1曲目~3曲目のAnti Chessst、Convaerge Iana、Humancargoe Esttの前半でもうグイグイ引き込まれるけど、特にConvaerge Iana (M2)は皮膚が逆立ちしそうになるくらいヤバかった。緻密に計算してランダムを描くというProc Fiskalの作風にあったミステリアス性のところが、もっと神的な威力を発揮するようなナンバー。音を高速に繰り出していくハイな体験は、今までにないほどスピリチュアル化し、カルチャーのおもちゃ箱みたいな膨大なサンプリングは、神聖で同時に恐ろしいカオスとしての表現になる。なんという発展性...。これまでに持っていたProc Fiskalの持ち味的なところが、特殊なコンセプトでさらにブラッシュアップされてる。そしてそれが、神秘的な音楽が大好物な私のツボにさらに接近する結果に...笑。特に今作は、Met Path Thoth (M5)とかそうだけど、サウンドの存在感を大切に扱ったような音の与え方がとにかく素晴らしい。ただバチバチにカッコいいエレクトロニカを演って満足するだけでなく、描きたいものとしっかり向き合うようなアーティストとしての理念がちゃんとある。Insula (2018)の頃から聴きまくってたけど、今作はそれ以上に大好きだった。

ネクストレベル的なところでいうと、10曲目のLeith Tornn Carnalとかも超最高。フットワーク~インストゥルメンタル・グライムを貫いてきたProc Fiskalが、ここではまた別のスタイルを確立してる。R&Bっぽいホットな熱を持ってるダンストラックで、テクニカルなクセのないすっきりとした仕上がり。この少しルーズで穏和な感じもすごくいい!もともと遊び心溢れるアーティストだったと思うけど、こういうフラットなイメージでさらにその余裕のある人柄の人物像が見えてきた気がする。少し音圧の高いビート音を使った曲の激しさのバランスの部分も好きだし、幻想性の強いアルバムのことを重たくしすぎないところに貢献してるのもいい。他のリードトラックに劣らず、このLeith Tornn Carnal (M10)もすごく印象に残る曲だった。

秋はNicolas JaarやNothaj Thingみたいなエレクトロニカのやつを大量に摂取したくなる。Sharon Van EttenやRhye(泣)など、ぽっかり空いた心の穴を埋めてくれるような曲も秋は最高だけど、今年の秋はエレクトロニカが私のブーム。Proc Fiskalもこれを機にInsula (2018)を聴き直したりしてた。相変わらず内容度がとても濃い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5. MarthaGunn - "Something Good Will Happen"

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この音楽を朝へ持っていきたい。海へ持っていきたい。

 薄明りのオレンジ色をした朝焼けの空、遠く彼方まで続く海とその水平線、その空間上で鳴らす、5人のメンバーの音...。それは肌に沁みるようなリアルな温度感を持っていて、同時にリスナーのハートを照らすような炎も持っていて、どこかヒロイックで、何よりとてもとてもホープフルなエネルギーが込められた音。こういう、落ち込んでいるときも意欲を自然にモチベートしてくれるような、作品を通じてリスナーに希望を捧げるような音楽のことが私は好きすぎてマジで泣いちゃうのだけど、MarthaGunnが持っているもの、作品を通じて提示したいもの、そして彼女たちが届けたいものは、他のホープフルな音楽とは違うところがあった。朝焼けの質と全く同じような、涼しくも暖かいドリーミーなサウンドスケープ、腰の入ったファンクチックなグルーヴの生命力の伝達、The KIllersとかみたいな大規模なステージ感による高い感動レベル...。優しさとエネルギッシュさとダイナミックさがいっぺんに集約されたようなロック・ポップスで、それを朝焼けと海のジャケットの"夜明け"というコンセプトで象徴付けてる。この部分が超超超最高すぎてた。3曲目のGiving Inとかほんとに素晴らしい。朝とビーチがよく似合う爽やかで賑々しい雰囲気の曲。気分を持ち直すようなアップライズのフィーリングだったり、これから何かが始まるような高揚感であったり、それらの解放感みたいなものを、ジャケの朝焼けの空と海の広大な世界にリンクさせて、グルーヴィーにダイナミックにホープフルに奏でるような感じ。朝焼けとそれを見たときの自分のフィーリングをイメージしながら、そしてそれらの意図を狙った造り手の思いも合わせて感じながら聴くと、エモーショナルさがグワッッッと込み上げてくる。例えるならまさしくHAIMのWant You Backみたいな曲だと思うけど、MarthaGunnのこちらの方がやっぱり"朝焼け"という身に染みる温度感と、そのクリーンな感覚の美しさが強力だった。実際にこういう朝焼けの景色が見れる海辺のところで、そのときの時間帯で聴きたいって、本当に本当にめちゃめちゃ思う、、、この音楽を朝へ持っていきたい。海へ持っていきたい。それができたら私はどれだけ幸せだろうか...泣、MarthaGunnを聴くとそういうことをずっと考える。今までにないほど朝焼けへの憧れを強く喚起させる曲。他の曲に関しても、メロディーとかドラムとか全部全部よかった。

MarthaGunnのこのアルバムで私がドハマりしてるのが、6曲目のlost In The Moments。今作の中で、私が1番好きなMarthaGunnの"朝焼け感"。ロックでありながら少しシンセポップ的なキャラクターも感じさせる曲で、他のトラックよりもダンス要素さがより洗練されてるやつ。このダンサブルな喜びが、MarthaGunnが掲げる朝焼けの世界とシンクロするときの興奮が本当にヤバすぎてた...。心が高鳴って、希望で胸がいっぱいになって、自分の中に未来だとか可能性とかそういうものをうんと感じていくときのあのフィーリングを、ダンスの力強いビートで刻み込むということ。まるで自己肯定感の最上クラスみたいな、1番幸せな感覚の瞬間を思いっきり噛みしめるみたいに。もうめちゃめちゃにヤバい、、、臨場感も高くて、朝焼け的サウンドスケープもダイナミックさも一段階ハイレベルになってるのがまたヤバい。曲を聴き終えた後でも、メンバー達が映るそのジャケットを見ただけでそれを思い出す。私の心に残りまくるMarthaGunnの朝焼け。もうハチャメチャに大好きな曲だった。

MarthaGunnって、中世のイギリスで実在した歴史上の人物の女性らしい。夜明けが象徴する希望、やっぱりどこかヒロイックなバンドだなって思った。Little Simzとかとはまた違う、シャイニーなニュアンスのある革命っぽさ。このジャケがもし朝焼けじゃなく夕焼けだとしても、私はこれからもずっと大好きだと思う 笑。10曲目のSee You Againみたいな、寄り添って抱きしめてくれるような曲もめちゃ素晴らしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4. Nala Sinephro - "Space 1.8"

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幻のメロディー

 最初の1曲目Space 1を聴いたとき、感触でいえば100%Floating Pointsだった。静寂と無と果てしなさを体現した次世代型のアートで、名前の通りとてもとてもスペーシーな音楽の作品。ピアノやサックスの旋律に酔いしれまくるコンテンポラリータイプのジャズをメインに、無重力の空間を無心になって漂流していくようなアンビエントから、近未来の瞑想空間を演出するような音響エレクトロニカまで、電子音楽を応用した"宇宙旅行的ジャズ"という感じに出来上がってる。これを聴いてる時間が本当に最高なひと時すぎて、、、笑。電子音楽の高級感、ジャズが放つ色気と甘い香り、それらのハイクラスなオシャレ感、そしてそれをいつまでもリスナーに提供してくれるような無限性...。それは、Alessandro Cortiniみたいな「宇宙独りぼっちSF映画」的な壮絶な孤独感に苛まれるようなものとは全然違くて、むしろずっとそこにいたくなる居心地のよさやヒーリングの効力を強く持ってるもの。1曲目Space 1からその宇宙空間の設定を済ませて、2曲目のSpace 2から無敵の贅沢モードに突入する...笑。こういう果てしなさを持ってる世界観だと、普通なら不安感も煽られたりするはずだと思うけど、Nala Sinephroの場合はSpace 1からエレクトロニックピアノの浸透性が高くて、リスナーの心をほぐすような安心感を最強に作ってくれる...。Space 1でそういう状態になれるからこそ、Space 2やSpace 4のジャズアンサンブルを心ゆくまで堪能できるということ。"宇宙旅行的ジャズ"ってやっぱりどこまでもヤバいと思うし、実際にサックスとか感情の起伏がとても綺麗にコントロールされた極上の演奏...。Floating Points的な作風に私がめちゃめちゃ弱いというのもあったし、もうメロメロになりまくてった。。。笑

Space 5とSpace 6も大好きだけど、Space 8はもっとお気に入りだった。17分越えの大規模なヒーリングのアンビエントを体験して、最終的にNala Sinephroの神髄に辿り着くような曲。中盤以降12分ごろに宙を飛行するメロディーが表れるけど、電子音楽のスページーなコンセプトの無限性という点から、私にはそれが不死鳥に思える。Nala Sinephroの長い長い冒険、または壮絶な精神統一を経た後に出会う、幻のメロディー。素晴らしすぎてマジでびっくりする。宇宙旅行的ジャズの体験は、ただの贅沢タイムではなく、ただのヒーリングのサービスでもなく、全て幻のメロディーと出会うためのものだったんだと思い知るような圧倒...。これを22歳の若さで作ったという事実がありえない、、、笑。ほんと、なんて卓越したアーティストなんだろう。

今作は9月10日リリースのアルバムだったらしいけど、マジで全然スルーしてた...(ピッチで取り扱ってくれなかったらずっと気づかなかった。)ピッチにすごく感謝、そしてWarpメーリングリストを迷わず登録した。引っ越し予定してるからあんまりものを買いたくないのだけど、Nala Sinephroの今作は是非レコード手に入れたい、、、(希少すぎてもう無理かな...(TT)(TT))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3. Little Simz - "Sometimes I Might Be Introvert"

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イマジネイティブを武器として

 音楽はイメージを創り出す。時にそれは、自身の内側に王国を築くことだって可能にする。メロディーは意志となり、精神となり、アーティストとリスナーの肉体にまで力強く宿る...。世界を震撼させるプログレッシブさを含んでるLittle Simzの今作は、そういった音楽の力が思い切り込められたような、パワフルでかつとてもアーティスティックでカルチュラルな作品だったと思う。1時間のアルバムの内の10%程度しか占めてないとはいえ、今作の核となるようなオープニングのIntrovertが、もう「これでもかァ!!」ってくらい名曲...笑。ラスボス戦のバトルBGMのような精神が高ぶりまくる神々しいシンフォニーのヒップホップ。ドラムロールとティンパニーとチューバが豪快にヘヴィな迫力を生み出して、ストリングスとギターの弦楽器達が鮮やかにリッチに空間を飾っていく...。エネルギー、ステージ、バリエーション、何もかもが大スケールなのに、それらが全てLittle Simzたった一人の存在を導くように演出されてるのが本当に本当にヤバすぎる。もともと今作は、オーケストラのスタイルを基本としたエレガントでゴージャスな作風が特徴的だけど、それは大御所のアーティスト達とたくさんコラボするような豪華さではなく、むしろその逆で、たった一人の人物のパフォーマンスだけで成り立ってるような豪華さだということ。オーケストラのバッキングが彼女の存在をライトアップし、その覇気を纏いながら堂々と歌うような姿がある。それはまるで、Little Simzという人物のクリエイティビティが、想像性が、そして彼女の内面に抱えているものがいかに強大なものであるかを訴えるような、彼女の渾身の一撃。「私も人間なんだ」、「私の内面は、これほどまでに豊かなのだ」と言うように。...もう感動と熱狂が収まらない、、、!!泣。私の心を震わせる、同時に恐怖を打ち破るような勇気もくれる、Little SimzのIntrovertはそんな曲。もう素晴らしくて素晴らしくてたまらない。楽曲冒頭のオペラチックなファンファーレのパートを聴いただけでももうクオリティが段違いだなって思う。それ以降の展開のストーリ性だとかメロディーの種類とかの点でいってもバケモノのような完成度。それらが全て意志となり、力となり、これ以上にないほどの"反抗"となる...。この圧倒的で革命的なやつは、もはやハードコアだとかエモとか他の種類の音楽にも決して再現できない気がする。何度リピートしても鳥肌が立つってもう怖いんだけど、、、笑。他にも、Introvertと同じ質のシンフォニック性を持ってるのが嬉しいI Love You I Hate You (M4)、ソウル・ゴスペル系のほっこりするハートウォーミングがあるLittle Q, Pt. 1&2 (M5,6)、ラップのアグレッシブさと管楽器のウィンディーな印象の対比が超カッコイイStanding Ovation (M9)、一転変わってエレクトロニックのカラフルなムードのギャップでギュンギュンくるProtect My Energy (M13)、そしてジャジーにしっとりと仕上げた最高にウェットなThe Garden Interlude~How Did You Get Here (M17,M18)などなど、いい曲がめちゃ盛りだくさんの超充実したアルバムだった。Introvertなしにしても十分に傑作の感じがした。

これまでに、社会に対して何か変革を起こすような、またはそういうことを志した作品って数え切れないほどあったと思うけど、Little Simzの今作の場合は、従来でありがちだった過激な表現であったり、過度な感情表現による反抗などではなくて、人間の持つイマジネイティブなパワーや、人間の内面の豊かさについて主張した反抗だったと思う。パワフルではあるけど あくまでアーティスティックでカルチュアルな表現として完成させて、普遍的な人間らしさの価値について説いたようなイメージ。私的にはこの部分が猛烈にツボだった。Introvertのような神々しい曲とは別に、11曲目のThe Rapper That Came To Teaなんかもすごく印象に残る曲だったと思う。ディズニーのミュージカルみたいにめちゃめちゃファンタジックなオーケストラのナンバー。Introvertとは雰囲気が全く違うけど、"私の内面がいかに豊かであるか"というような主張の部分には、Introvertで訴えていた精神にも通じるものがあった気がする。社会に対してただガムシャラに怒るような闘い方をするのではなく、アーティストならではのイマジネイティブさを武器とした闘い方。もう本当にLittle Simz大好き。感情であるとか思想であるとか、私も自分の内面こそ1番大切にしたいし、できるのであれば、私は自分の存在価値は容姿や学歴など表面的なステータスではなく、自分の内面にあるもので確立したい。だからこそ、これ以上ないくらい革命的なIntrovertにおいて、自身の豊かさ・内面について訴えるLittle Simzの姿が、私にとってはどこか英雄的にも見えた。"Sometimes I might be introvert"、これはほんとに名盤だと思う。

私が音源を所持してるヒップホップ作品は、例えばDanny Brownの2016年作とかTyler, The Creatorの2017年作とかで、やっぱりヒップホップはまだまだ守備範囲がガバガバなのだけど、その中でもLittle Simzの今作は、私史上1番夢中になれるヒップホップ作品だったかも。6月の月間ベストアルバムのSaultのところでも言ったAzealia BanksとかKreayshawnとか、私の好きな他のフィメールラッパーの作品よりもハマるアルバム。社会に対するムーヴメント的なところで言ってももちろん無視できない感じ。改めて、音楽が持つ力というものを実感できた気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2. Sufjan Stevens & Angelo De Augustine - "A Beginner's Mind"

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音楽による映画が持つイズムの感情化

 記憶に眠る大切な思い出を再現するような、誰かに愛されていたことを思い出すような、フォーキーで和やかで、ドリーミーでこの上なく暖かくて、センセーショナルに心に沁み渡る、真心が深く深く込められたSufjan StevensとAngelo De Augustineのインディーフォーク×ニューエイジ。今作はそんな作家性でもって、有名なホラー・スリラー・ドラマなどの映画のインスピレーションで作られたアルバムで、映画というものが普遍的に持つある種のイズムを、音楽によって感情化したような作品だと思う。映画が物語る人生観であったり、感覚であったり、またはそれに対する個人の思想だとか、スフィアンとアンジェロの二人のフィルターを通じて、映画が持つ概念を大切に音楽化したということ。結果的に、クオリティとか充実度がめちゃめちゃ半端ない一作になってた。。。とにかく、「作品に込められたものは何か」とか「作品から何を得たのか」というのが確実に伝わってくるようなリアリティであるとか、それを的確に表現する幅広い方向性を持ったアレンジのテクニックだとか、それらの納得感や説得力であるとか、そういう部分の徹底っぷりが本当にすごく感じられる。ディズニーのファンタジーアドベンチャーの『オズ(1985)』を題材とした今作3曲目のBack To Ozとか名曲すぎてヤバい。少女の心情に着実な可愛いグルーヴのリズムパターン、ファンタジーの世界観に着実なメロディックなフレーズ、そして物語の主人公に通じる全てに人へエールを送るようなスフィアンとアンジェロの二人の意思の反映...。ここにはスフィアンの過去作のCarrie & Lowell (2015)とかThe Ascension (2020)にもなかった新しいビジョンがあるし、そこに対して映画の物語すらも借りて来てしまうようなところが本当にずるい...笑。何より、フレーズに対するリリックの音のハメ方が最高すぎる。"Get it right, follow my heart" (自分の心に従って)、"Back to, back to Oz~♪、思わずこちらも口ずさみたくなる、キャッチーさに富みまくった至高のメロディー。リリックの内容のよさも相まってるし、本当に格別な1曲だと思った。もちろん、『ベルリン・天使の詩(1987)』が題材のReach Out (M1)とか、『イヴの総て(1950)』が題材のLady Macbeth In Chains (M2)とかも紛れもなく素晴らしかった。

『マッドマックス(1979)』のMurder and Crime (M8)もめちゃめちゃ名曲だと思う。暴力や破壊の世界の中で作品が示唆するもの。それを受け取った二人が音楽として残すもの。私的には何かレクイエムというか、ロウソクに灯りが灯るような、そういった質の温もりを感じる。それは弔いのようなもので、命の真価について真摯に向き合ったものであって、そしてスフィアンとアンジェロの作家性が炸裂しまくったような曲。映画からインスパイアされた作風だからこそ生み出せた、彼らにとって、そして私にとってかけがえのない一曲。もう大好きが止まらない。スフィアンのCarrie & Lowell (2015)っぽいアプローチが尚刺さる。そこから9曲目の(This Is) The Thingの流れも とてもとてもエモーショナルだった。

私の人生ベストアーティストの5本指に入るSufjan Stevens(Angelo De Augustineももちろん大好きです)、今作は初期の頃の ほのぼのフォークやCarrie & Lowell (2015)の色が濃かったところも嬉しかった。The Ascension (2020)もめちゃめちゃ泣いてたけど、今作のフォークはなんともSufjan Stevensらしいテイスト。シカゴならではのクリスマス感などもあったし、涼しくなってきた今のシーズンに合うこと合うこと...笑。あと実は、『ベルリン・天使の詩(1987)』に関しては『竜とそばかすの姫』の主人公ベルの翼のモチーフにもなってた作品で、私的にとてもトレンドだった 笑。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1. Lyra Pramuk - "Delta"

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神に対抗する禁断の芸術

 声、それはすなわち生命力。Lyra Pramukは自身の声音のみでFountain (2020)を制作し、"Fountain"という概念が所有する命やその神秘を偽りなく生々しく象徴したのだと思う。そこには詩はなく、形もなく、ただひたすらに己の声を誰かに届けようとするような、自らの生命力を全て信仰に捧げるという、究極的な祈りの姿を持っていた。今作Deltaは、その"声"に共感した総勢12名のアーティストによる、Fountainの拡張版的なリミックスのアルバム。Ben Frost、Colin Self、Hudson Mohawke、Vessel...ユニークなコンポーザー達が、Fountainの楽曲にそれぞれのアイデンティティを反応させ、Lyraの信仰に対してさらに力を及ぼすということ。それは、Lyraの声を基盤として曲を再構成するという、アートからアートを生み出すような二重構造の構築がある。Lyraの信仰を別の造り手が独自に解釈し、Fountainの命と神秘がさらなる世界を生み、それらがコレクションされ約90分の巨大な超大作となった"Delta"は、例えるなら恒星の集合によって形成された銀河のようなアルバムだった。もはや、存在することが信じられない。Lyraの声が、生命力が、何人もの偉大なるアーティストの手によって、一つの大きな魂となる瞬間。私にはこれが、まるで人間が神に対抗するための禁断の芸術のようにすら思えてしまう。12人の鬼才達がLyraの声をリスペクトし、称え、作品の持つもの全てを強調するところは、「Fountainというアルバムの命・神秘・信仰がもたらすものが、どれほど特別で、どれほど価値のあるものか」ということを全身全霊を懸けて訴えてるようにも感じられる。1曲目Offering (feat. Valgeir Sigurðsson)を経た後の2曲目のWitness (feat. Colin Self) [Selfless Rework]からとてつもなくて耐えられない。Colin Selfらしいエキセントリックでヒステリックなアレンジで、原曲Witnessのハーモニックなアンビエントに恐ろしく危険なハードコア系のダンス性が吸収されてる。原曲の時点であれほどエモーショナルだったのに、Colin Selfの激しい怒りのニュアンスで、自分の生命力を捧げようとするLyraの信仰の部分に、何か狂気のようなニュアンスも付加してるイメージ。オリジナル版のFountainにはなかった興奮と爆発力。あまりにも壮絶すぎる。やっぱり、Godspeed You! Black Emperorとか、祈りに対して命がけになるような熱さを持っている音楽ってこの世界で1番素晴らしいって思う。ハードコア系のゴスさがあるColin Selfの特性も、ビートの打撃感とかWitnessの曲調にちょうどいいアクセントでハマってたし、Lyraの音楽との相性がとてもよくて本当に素晴らしかった。そういう神みたいな曲が、Returnless (feat. Kara-Lis Coverdale) (M5)だったり、Fountain (ars amatoria) [feat. Vessel] (M7)と数々用意されてる。造り手のユニークな解釈のおもしろさ、芸術性の発揮、興奮と爆発力、命と神秘と信仰のさらなる創造、それらが何重にもなった、神に対抗するような力...。もう頭おかしくなるくらい大好きなアルバムだった。

Hudson MohawkeがフィーチャリングしてるTendril (Midnight Peach Rework) (M4)も画期的で驚異的に素晴らしかったと思う。抽象画のような不明瞭さがあるLyraの原曲に対して、もっと意識がハッとさせられるような鮮明なシンセサウンドの起用。従来の高貴なイメージに反するようなシンセポップ的バランスで仕上げてるのがセンスやばすぎるし、それによって音楽に対する食いつき具合がグッと変わっていく。どうしたらこんなにも奇抜なアレンジを違和感なくスタイリッシュに適用できるのだろうか。原曲のTendrilにあった華々しさみたいなものがもっと色鮮やかに開花していて、曲の解釈のおもしろさ、さらなる世界の創造、Lyraに対するリスペクト、そのアピール、何もかもが見事だったと思う。Lyraの曲の魅力の再発見というのはもちろん、Hudson Mohawkeに対しての好感もアップする。そういうことが、Deltaというアルバムの中で何十曲もの規模で実現されてるということ。やっぱり考えられない。色々な意味で本当に桁違いな作品であった。

私の2020年のベストソングはぶっちぎりでLyra PramukのNew Moon。祈りを概念化した漠然としたアンビエントの存在と、曲名で定義付けられる音楽の世界観・ストーリーの組み合わせ方のところに、もう命尽きる限界のところまで感動して、聴く度に失明する勢いで泣いてた。私にとってそんなLyra Pramukが、グローバルなアーティストが大規模にクロスオーバーするという形で、Lyraの音楽に込められたものを何人もの作家がトリビュートするというプロジェクトを作ってくれたわけだから、それはそれはヤバいよな、、、って思った。。。普段リミックスってスルーしがちだけど、私にとって今作はそれが絶対に不可能だったアルバム。Lyraの生命力をシンボライズするようなDonna Huancaのアートワークも理性がぶち壊れるレベルで好きだった。ほんと、Valgeir SigurðssonとかGabber Modus OperandiとかTygapawとか、コラボしてる全アーティストのことが好きになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

プレイリスト

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温の「2021年9月ベストアルバム(温)」をApple Musicで

 

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その他 9月のベストアルバム

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Ada Lea - "one hand on the steering wheel the other sewing a garden"

Andy Shauf - "Wilds"

Ásgeir - "The Sky Is Painted Gray Today - EP"

Blunt Bangs - "Proper Smoker"

Central Heat Exchange - "Central Heat Exchange"

Dark Family - "Dark Family"

Low - "Hey What"

Mild High Club - "Going Going Gone"

Sleigh Bells - "Texis"

SUUNS - "The Witness"